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橘花 怜

第1章 831

第1話

 広大な敷地の中央に校舎を構える、創立一二〇年を超える私立の中高一貫校。キリスト教のミッションスクール。高等科は一学年七クラス。中等科は一学年二クラス。

 全校生徒九〇〇人を超える大規模校である。

 中学高等学校の校舎外観は白を基調にデザインされ、『白亜の学び舎』として親しまれ、地域の都市景観のシンボルとなっている。

 内部にチャペルを備えるこの校舎は、歴史ある伝統校でありながら、教室をはじめ実験室やPCルーム等は最新設備を取り入れ、時代のニーズにも柔軟に対応している。

 敷地内には、併設の幼稚園・小学校、吹奏楽部の定期演奏会等に使用される約千人収容の講堂がある。

 グラウンド、テニスコート、屋外プール等はナイター設備を完備し、中学高等学校校舎には第一から第三体育館まであり、強豪運動部の練習を支えている。文化部の施設として放送室、音楽室、和室、美術室、暗室、調理室、書道室、技術室。学生食堂、テラス、購買なども充実している。

 生徒玄関の正面には二層吹き抜けの学生ホール。足下から天井まで続くFIX窓の大開口にはステンドグラスが飾られ、中央に位置するチャペルへと続く螺旋階段を彩る。

 学生ホールにはマリア像が佇み、今日も優しく生徒をお迎えする。


 森谷蓮もりやれん 二十三歳。高等科からの編入でこの学校に入学した。特進クラス(理系)で三年間を過ごし、指定校推薦で私立大学の看護学部に進学。

 学内選考を通過し養護教諭の科目を履修。慌ただしく実習をこなし、卒業時には看護師免許と養護教諭免許を取得した。

 恩師に憧れ、養護教諭を目指した。養護教諭は多くの場合、学校に一人だけの配置であり、倍率は非常に高い。狭き門だ。養護教諭免許のみを取得すれば良いかと、楽観視していた高校時代。将来の選択肢が広がる、養護教諭免許に箔がつくと恩師に勧められ看護師免許も取得する事にした。大学生活は大変だったが、就職活動をする際に思う。やはり、大人の意見は聞くべきだと。自治体に照会するも、養護教諭の採用募集がなく、大学の附属病院にて小児科の看護師として社会人のスタートを切った。


 それから一年。正規雇用の養護教諭が産休に入る代替として、春から臨時職員(常勤)として採用され母校の養護教諭となり、保健室運営を任される事となった。

 公立校と違い、私立校は教員の入れ替わりは少ない。そんなわけで、春から採用された自分に同期がいるのは不思議な感覚だった。

 勤務初日、職員室で顔を合わせた二人。年度末で定年退職した先生の代替、美術教員の間宮海斗まみやかいと。そして、英語教員の高橋樹たかはしいつき。海斗は高等科二年生の副担任も兼務するらしい。樹は海外留学の経験があるらしく、交換留学生のサポートなども行うそうだ。

 何かあれば助け合おうと三人で約束し、新生活に思いを馳せた。


――――それから二年間。とんでもない思いをするとは露にも思わず。

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