幸せな人生RTA
宗真匠
Part.1
幸せな人生を掴むRTA、はーじまーるよー!
と、言うことでですね。早速始まりました幸せな人生RTA。今回の走者は前世でゲームクリエイターとして数々のヒット作を生み出した天才、ヒロタカ氏ですけれども……解説のアフロディーテさん、彼の新たな人生は如何でしょう? 見所や期待する点があればお願いします。
〈そうですねぇ。RTAっていう側面で見れば、ゲームクリエイターとしての知識とか技術が役に立つと思います。でも、聞いた話じゃ彼って前世で全くと言っていいくらいモテなかったらしいじゃないですか? 恋愛的側面で言えば彼の知識は皆無に等しいですし、苦労することになると思いますねぇ〉
なるほど。その点をどう切り抜けるかが記録に大きく関わってきそうですね。
挨拶が遅れましたが今回の実況は私、全知全能の神であるゼウスと、解説には愛の女神、アフロディーテさんをお呼びしております。アフロディーテさん、よろしくお願いします。
〈あ、はい。え、今更?〉
さて。パート1ではありますが、本RTAはプロローグが長いので、まずはRTAの概要についてご説明させていただきましょう。
〈無視かい。絶対自己紹介忘れてただろ〉
本RTAはその名の通り、人生という人間の一生涯でどれほど早く幸せを掴めるかを競う競技となっております。
しかし、幸せの定義は人それぞれ。独りを好む者も居れば、恋愛に重きを置く人間も居ますよね。
そこで、幸せな人生RTAでは幸せについて客観的に、公平に、厳密に定義し、各項目をクリア出来るかをチェックポイントとしています。
〈俗に言うレギュレーションってやつですねぇ〉
はい。今回のレギュレーションでは100%クリアを目的としていますので、最悪クリアすら出来ずに人生を終えてしまう……ということも有り得ます。
レギュレーションについてはアフロディーテさんから解説をいただいてもよろしいですか?
〈え、あたし?〉
え? あー、その、アフロディーテさんは幸せな人生RTAのレギュレーションの確立に携わった聡明なる神の一柱でもありますので。ぜひ、注意点や解説を混じえてご説明いただけるとありがたいです。
〈し、仕方ないなぁ! こほん。まず、幸せな人生RTAには二つのレギュレーションが存在するんですよねぇ。ひとつは今回の走者が走る100%RTA。それと、後世に名を残して天寿を全うする偉人RTAですね〉
確かany%は数百年前に廃止になったんでしたっけ?
〈ですねぇ。人間社会で"倫理観"って言葉が広まってから、あたし達も思うところがあったんですよ。早く死ぬことだけがRTAじゃないんじゃないかなぁって。記録も頭打ちになってたし〉
自我が芽生えてから死ぬまでの時間を競うany%は多くの自殺者を生んでしまいましたからね。仕方の無い処置だったと思います。
〈あたしとしても生を受けたからには幸せを感じながら死んでもらう方が女神冥利に尽きるって言うか……って、何の話だっけ? 今日の夕飯の話?〉
今回は現存する二つのレギュレーションのうち、100%RTAに挑戦するという話です。
100%RTAは用意されたチェックポイントを回収して、どれほど早く100%に至れるかを競うRTAです。
〈命ってクリアの定義が難しいからこうなっちゃうんだよねぇ〉
そうですね。そのためにチェックポイントが設けられています。
〈チェックポイントは大まかに分けて五つ。人格。恋愛。仕事。幸福度。そして、理想〉
そこからさらに細かく分類され、達成する度にパーセンテージが溜まるということですね?
〈ん、そんな感じ。人格で言えば、人から好まれるか、自分を好きでいられるか。恋愛で言えば、恋人関係や交友関係……あとは結婚、とかね〉
当内容は少し細かく難解な点が多いので、チェックポイントをリストアップしております。こちらのフリップをご覧ください。
○人格
□自己肯定感
□公的密集度
□他者好意度
□良識
○恋愛
□交友関係満足度
□恋人関係満足度
□家族関係満足度
□結婚生活満足度
○仕事
□金銭的余裕
□生活水準
□社会的地位
□社会貢献度
○幸福度
□動物的幸福度
□人間的幸福度
□客観的幸福度
□主観的幸福度
○理想
□理想体現度
〈用意してるなら先に言ってよ! 物知り顔で語っちゃってなんか恥ずかしいじゃん!〉
いやいや、こちらの資料は項目を見やすくしているだけですから。才色兼備なアフロディーテさんの分かりやすい解説、お願いしますよ。
〈ま、まあそういうことなら? 説明してあげなくもない的な?〉
頼もしい限りです。
〈このチェックポイントは全部、80%以上に達することでクリアって見なされるんですよね。項目毎に5%の達成度を得ることが出来て、その達成度が加算されてくって感じ。あ、因みに審査はあらゆる神々が厳正に行いますのでご安心を〜〉
大枠毎に20%ずつ振り分けられていて、5枠で100%ということですね。
……ただ、理想の項目だけは違うようですが。
〈理想だけは特別なんすよ。チェックポイントもたったのひとつしかないし。評価点は『自分が理想とする人生を歩めているか』というただそれだけ。自分がしたいこと、すべきことを出来ていることも幸せの指標のひとつですし。要は自分が目標とする点に達しているかでクリアの可否が決まるんですよ〉
なるほど。どれほど幸せに見える人生でも、本人が満足出来ていなければ意味が無いということですね。
〈そゆこと。ま、逆もまた然りだけどねぇ〉
と、言うと?
〈他者好意度とか客観的幸福度がそうだけど、自分だけが幸せ〜って感じてたとしても、それって本当の幸せとは呼べないんですよ。前にあった事例なんですけど、ある人間が同族を殺すことに快楽を覚えるあたおか殺人鬼だったんですよねぇ。彼にとってそれが幸せな人生だったのかもしれないけど、他者にとっては迷惑この上ないって言うか。それを認めちゃ、ただでさえ不安定な幸せの定義がもっと揺らいじゃうと思ったんですよねぇ〉
ああ、その件なら私も記憶にありますよ。第五千六百万飛んで二十二回の100%RTAの時ですね。あの時はコメントも荒れに荒れました。
確か、あの回を境にレギュレーションが変更されたと記憶しています。
〈そそ。それまで自己満足に近かった幸せっていう概念を考え直すきっかけになったんですよ。やっぱ周りにも好かれてこその幸せだなぁってね〉
それで言うと、金銭的余裕や社会的地位も追加された項目ですよね? レギュレーションは何度か変更されて今に至っています。
〈そうですねぇ。自分の幸せだけでは不十分だって気づいた。でも、それだけじゃまだ足りないかったんですよ。本当の幸せとは何か。その指標をさらに明確にしないと、いずれ同じ過ちを繰り返す。それが人間の業だからね。そこで! この天才アフロディーテちゃんは思ったわけですよ!〉
ほう。一体何を?
〈つがいになる相手も幸せであることも幸せのひとつなのではないか、ってね。幸せを与えられる人間こそ真の幸せ者。万人に振り撒くことは出来なくても、生涯を添い遂げる相手にくらい幸せを感じさせてあげなきゃそれは独りよがりなんだよ。だからあたしは、つがいに幸せを与える指標を作ったの〉
なるほど。そこで追加されたのが先の項目、ということですね。こうして見ると同じレギュレーションでも今と昔では大きく異なります。
ああ、視聴者の皆様はご安心ください。レギュレーションは細かく変更されていますが、ランキングは全く同じレギュレーションの走者のみで競っていますので、今回は現レギュレーションでのRTA、ランキング付けとなります。
〈今のレギュレーションって何人くらい走ってんの……ですか?〉
無理に口調を変えなくてもいいですよ。アフロディーテさんのお転婆ぶりは皆様ご存知ですし、人も神もそう簡単に性格は変えられません。
〈うるさいうるさい! 質問に正論で返すな! あたしが何も言えなくなるでしょーが!〉
……私の調べでは六億二千五万六千八百二十三人目の走者になりますね。
〈いや、あんたは調べる必要もないでしょ。全知全能なんだから〉
滅相もない。全知全能も万能ではないんですよ。知ろうとすること以外は知りませんし、知りたくとも確定していない未来は分かりません。だからこそ、このRTAに楽しみを見いだしているんですよ。
〈はえ〜、そういうもんなのねぇ。まあ、確かに私も楽しみではあるけど。力のないたった一人の人間がどんな人生を歩むのか。どんな歴史を残すのか。どんな幸せを見つけるのか。もしかしたら、彼がこのRTAの歴史に名を残して次代の神を担うかもしれないし〉
そうですね。神は現世界で偉業を成した生物から選ばれることが多いですから、ヒロタカ氏には期待したいところです。果たして器となりうる存在なのか……。
ここで、今回の走者であるヒロタカ氏についてもご説明させていただきましょうか。
〈前世はゲームクリエイターだよね。輪廻転生早くない? 死んでからそんなに経ってないよね〉
前回の死から百余年ですからね。これも彼の前世の賜物と言うべきでしょうか。
〈前世では結構有名だったみたいねぇ。人間世界の教科書ってやつには載らなかったみたいだけど、界隈ではちゃんと名前が残ってるみたいだし〉
因みに彼は前回の人生でもRTAの走者だったんですよ。
〈え、マジ?〉
前回は偉人RTAでしたけどね。彼はゲーム業界に新たな旋風を起こし、見事に偉人としてその生涯を終えました。
〈ってことは……今回はギフトを持ってるってこと? うっわズルじゃん〉
アフロディーテさんが創ったルールですよね?
〈はい違いますぅ〜ギフトルールはヘルメスの馬鹿が勝手に言い出したことですぅ〜あたしは反対しましたぁ〜〉
アフロディーテさんは凡人からのスタートで苦労したらしいですね。
〈はぁ? 馬鹿にしてんの?〉
いえいえ。むしろ初めてのRTAで見事に愛の女神の立場に座している点はあらゆる神から賞賛されていましたから。もしも私がRTAに参加したところで、アフロディーテさんのようにはいかなかったと思います。
〈ま、まあ? あたし天才だったし? 神になって当然的な?〉
そんな天才アフロディーテさんにギフトについての解説をお願いしてもいいですか?
〈仕方ないなぁ! 幸せな人生RTAって前回記録によってギフトっていう……要はアドバンテージを得られるわけね。人間の中に前世の記憶があるとか瞬間的に目の前のことが記憶出来るとか、そういうのあるじゃない? そういうのを"神からの賜り物"って呼んでんの。RTAの報酬みたいなもので、良い成績を残せばその分だけ次のRTAで強くてニューゲームが出来るってわけ〉
しかし、それでは公平性が損なわれるのでは?
〈そういうのはしーらない。計略の神が問題ないって言うなら大丈夫なんじゃない? 利点がある分、欠点も多いわけだし。個性の範疇って感じだと思う。あたしは嫌だけど〉
なるほど。ヒロタカ氏はその個性をどう活かせるか、欠点をどう補えるかが課題になってくるわけですね。
また、RTAの走者であるヒロタカ氏はギフトだけでなく、参加時に与えられる"RTAの走者である"という本能的な記憶を持っていますので、余程のことがなければ幸せを諦めるような道は選びません。
奇妙な程に自分の幸せを求める人間が存在するのは、RTA走者の証であり、本能的欲求ということですね。
〈てかさ、今回のギフトって一体何なの? あたし何も聞いてないんだけど。ゼウスなら運営側だし知ってるよね〉
ふふっ。それは見てからのお楽しみ、ということで。
〈うわうっざ。そのドヤ顔やめてくれない?〉
実況者魂ですよ。視聴者様のためにも見所は存分に用意しておきたいですから。
とは言え、ヒロタカ氏が前回RTAで八万六千二十六位という点から推測されている方も居るかもしれませんが。
〈いやさっぱり分かんないんですけど? コメントぉ〜助けてぇ〜ゼウスが虐めるぅ〜〉
残念ながらネタバレコメントはすぐに削除されてしまいます。当運営は優秀ですので。
皆様もぜひ楽しみにしていてください。なかなか修羅の道を選びましたよ、彼は。
〈むぅ……〉
おっと、そろそろ産まれる頃合いでしょうか。出産期に入りました。
〈やーっと始まるねぇ。人間は産まれるまでが長くて退屈しそう〉
しかし、このプロローグも走者にとっては準備期間。ヒロタカ氏が今回のアドバンテージをどう活かしてくるか見物です。
さあ、いよいよ出産の時! 今、産声をあげてスタートです!
幸せな人生RTA 宗真匠 @somasho
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。幸せな人生RTAの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます