第5話 すべてのことはイエスキリストに働いて益となる

 店長は、伝票をもって立ち去る際、小声で言った。

「この頃は、シールタイプの覚醒剤も蔓延しつつあるという。

 繁華街では、このシールを貼ったらスリムになれるよと、女性好みの花のイラストを描いたシールを、女性に売りつけるというんだ」

 えっ、そういえば、聞いたことはある。

 繁華街は歓楽街に続いているから、シールタイプの覚醒剤を打ち、覚醒剤欲しさにまた、この街を訪れる。

 覚醒剤をしている人は、トロンとした目つきですぐわかるので、売人にとっては、絶好のカモである。

 そして、繁華街から歓楽街の風俗店に売るのが目的だろう。

 ちなみに、風俗店での女性の給料の二割が搾取され、スカウトマンの給料となっているので、スカウトマンは、なだめすかして女性を働かそうとする。

 しがらみのなかで、風俗店に勤めているうち、性病になると捨てられ、立ちんぼ状態になってしまうという。

 立ちんぼは風俗店と違って、値段は三分の二でしかないが、衛生的管理がきわめて低く、守ってくれるスタッフもいない。

 極めて危険な状態である。


「バカでは女稼業は勤まらぬ」とは、文化勲章を授与された故田辺聖子氏の言葉であるが、女性はスリムになりたい、彼氏がほしいなどという甘い言葉につられて、ドラッグの罠にはまっていく。

 幸せの手段だと思っていたことに、とんでもない罠が潜んでいる。

 受け答えのうまいホストのかもになり、金ヅルにされてしまうのと同じである。


 私はもう、少年院出を隠すのを辞めることにした。

 いくら隠しても、いずれは発覚するときが訪れる。

 まあ、中里ゆりのように公表する必要はないが、できることなら覚醒剤で苦しんでいる人の力になれたらという淡い希望が湧いてくるのを感じていた。


 店を出ると、そこにはなんと裕貴がいた。

 私からは声をかけないことにしているが、裕貴は私を見守ってくれているのだろうか?

 裕貴の隣には、上品そうな中年女性がいた。

 そういえば裕貴の家に行ったとき、一度だけ見かけたことのある中年女性だった。

 とすると、この女性は裕貴の身内なのだろうか。そんなことを考えていると、裕貴の方から

「紹介します。この人は僕の友達、菜々子さん。

 そしてこちらは、僕の母親です」

 私は無言のまま、一礼してその場を立ち去った。

 もしかして、裕貴は母親に私の過去を話したのだろうか?

 それでもかまわない。これからの人生が光の当たるものならば、過去にまで光を当てることができる。

 私の新しい人生は、たった今始まったばかりである。


 私は一歩進めば、覚醒剤地獄に堕ちるところであった。

 しかしどんな地獄でも、聖母マリアのような蜘蛛の糸は降ろされると信じたい。

 そして、私がその蜘蛛の糸になることができたら。

 私は人生がチェンジしていくのを、感じていた。


   「人生いつもチャレンジャー」

 今を大切にして生きていこう

 過去に振り回されず 今の生活を丁寧に生きよう

 今に光が当たれば どんな暗い過去にも光を当てることができる


 私は一人じゃない

 どんな誘惑があっても どんなに脅されようとも

 私にはイエス様がいるかぎり 大丈夫

 陽だまりの人生を歩んでいける


 そしてかつての私と同じ苦しみをもった人を 

 救い出す力を身に付けたい

 これが十字架の救いなのかもしれない


 人生はチェンジ チャレンジ

 神と共にチャレンジャーとして生きていこう

 ハレルヤ


(完結)


 

 


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地獄で出会ったマリア様 すどう零 @kisamatuma

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