第4話 再会
「あれ、373番じゃん。仕事帰り? 統括さんが心配してたよ?」
「心配?」
「ほら、お前って仕事終わればすぐ戻ってくるって有名じゃん。なんかあったのか?」
「事故った」
「マジ?」
「鳥にぶつかったんだよ。それで飛べなくなって、人間様にお世話になった」
「人間様って……。大丈夫なのか? 天使ってバレたら大変だろ」
「理解のある人間様だったよ。それで仕事はちゃんと終わらせてきた」
「ま。とりあえず統括さんの所に行ってこい」
「ああ」
統括さんから事故が無いように、と厳命の末解放された私は天使の世界にある自宅に戻っていた。天使の、それも私のような職務の者の家はさほど豪華ではない。人間様の家とは違い、ベッドと机が置いてあるだけだ。正直家は寝る以上の機能がいらない、と思っている。しかし恋愛というものは驚くもので、相手に気に入られるために調度品だとか、美しい模様の部屋にしようとする天使だっている。しかし恋愛禁止の私たちは、清潔感を必要としてもそこに恋愛的な要素が入らないのだ。
一眠りした私は本部に行き次の仕事内容を確認していた。私に振り分けられた仕事は2件。2週間後までが納期で、場所はそれぞれ熊本と東京だ。残念ながら福島方面には何の用もない。それに一瞬落胆した時、頭の中に疑問が浮かび上がった。なぜ私は彼女に会いたい、と思っているのだ? 私は恋と恋を繋げる天使だ。きっと親亡き子を守護する天使だっているはずだ。彼女を慰めるという意味なら適任なのは私ではない。ではなぜ? 私はまた体調が悪くなっていく。病院に行こうかと考えたが疲れただけと思い直し、自宅に戻った。
次の日の朝、私は地球へと飛び立った。仕事は単調だった。もちろんこの単調な仕事で人間様同士のドラマが生まれるのだ。責任重大だとは思っている。
神様・天使の世界と地球の往復生活の中で、彼女の家に行きたい、という感情は少しずつ大きくなっていた。そこに恋愛感情はない。それだけは確かだ、と私はフライトの中何度も唱える。ただ人間様とここまで深く関わることなど無かったから、半ば「エラー」じみた状況が発生するのを否定できなかった。
1か月程したある日、その仕事は遠距離恋愛で東京と宮城を往復する、という仕事が振り分けとは別に掲げられていた。期限は短めではあったが私は即それを引き受けた。
「373番じゃないか。珍しい」
「何が?」
「いやアンタ別に振り分けられた奴しかしないだろ。いつの間に仕事熱心になったんだよ」
「気まぐれさ」
「ふーん。ま、前事故もあったって聞いたし、無事故・無事件でな」
「ああ」
表面上は冷静に話していたが、現実は彼女とまた会えるという喜びでいっぱいだった。
私は早速自宅から地球へのフライトを始めた。速度もいつもの1.25倍ほどで東京へ向かう。まずここで依頼人――無論本人の自覚は無いが、その人の赤い糸を掴む。その後私の足はデパートに向かっていた。最高神様のシステムにより、地球で活動する天使はフライトのため、一定時間地上で生活しなければならない。そのため天使の世界には交換所があり、担当範囲で使用される通貨などと自らの報酬を交換している。出張代寄越せよ、こちとら個人事業主じゃないと言いたくなるが当然最高神様の前で言う訳にもいかない。
デパートで私はしばらく彼女へのお土産をどうしようかと悩んでいた。このネックレスはどうだろうか、このブレスレットは……と彼女の付けた姿をしばらく想像したのち、結局ネックレスを選んで、宮城へ飛び立った。仮に事故が起きても良いようにまず仕事を完遂させねば、と思ったからだ。
宮城に着いた私は仕事終了後、何かお菓子でも買ってあげようか、と思い立つ。仙台駅のお土産店で10分ほど悩んだ末、私は人間様の中で流行っているというずんだ餅を買い、郡山へのフライトを始めた。
郡山の駅に着いた私は地図を広げ彼女の言う学校へと向かった。今の時刻は夕方五時。彼女はもう家に帰っているだろうか。それであれば訪問するのも迷惑な話であるが、校門に着くと、何人かの女子か話していた。私はジャンパーで羽を隠し、あくまで学校関係者という体で近づいた。
「すいません、お嬢様方。福島県立……高校の柏原詩奈さん、という方はご存知ですか? 私はその方と友人でして」
「柏原さんって、あの転校した子?」
「そうですよ」
「柏原さんなら……、ああ部活で残ってるかも。ちょっと電話しますよ」
「すいませんね。ご迷惑おかけします」
「先にお名前お伺いしても構いませんか?」
と聞かれたので私はミナミと答えると、あと1時間半後に行きます、と返事をもらった。私はそれを受けると彼女らに感謝を告げ、郡山の市街地を巡っていた。郡山は東北の中で仙台に次ぐ大都市でさほど退屈しない。天使の世界も大きな都市ではあるが煌びやかなだけで情緒という概念が薄く、そういった意味でも人間の都市は十分保養になった。
約束の20分程前私が学校に戻ると、彼女が学校から出てくるのが見えた。
「あ、詩奈。久しぶり」
「ミナミ君! 1か月ぶりじゃない?」
「うん。学校はどう? 元気でやってる?」
「うん。みんな優しいし、ミナミ君は予定無いの?」
「仕事終わりだからね」
「じゃあ私の家行こうか? ミナミ君は透明になれるんだから大丈夫でしょ」
「それ住居侵入ってやつじゃない?」
「固いことは言わないお約束。レッツゴー」
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