心理描写特訓の場

鳴宮唄

第1話 可愛いものが好きだった

 可愛いものが好きだった。

 元気いっぱいでカッコいい魔法少女、キラキラでひらひらなドレスが似合うシンデレラ、ステージ上で歌って踊るアイドル……。

 彼女たちが動くたびに胸がワクワクして、眺めているだけで不思議と元気が出た。

 今日も頑張ろうって思えた。


 なのに、どうして……。

 どうしてみんな、ボクもああなってみたい、って言った瞬間ボクに白い目を向けるのだろう。

 信じられない、と気味悪そうに見るのだろう。

 普通じゃない、なんて、そんな風に言うのだろう。

 


 見て楽しむ分には好きにしたらいい。

 でも、あんな風になりたいと目指すのはやめなさい。

 そんなの普通じゃないのよ。

 だって、あなたは男の子なんだから。女の子じゃないんだから。

 


 ズルい、と思った。羨ましいと思った。生まれて初めて、他者を妬んだ。

 そして同時に思ってしまった。


 どうして。

 どうしてボクには許されないのだろう、と。


 可愛い服を着ることも、可愛いものを持つことも。

 可愛くなりたいと願うことさえも。

 褒められることも、興味を持たれることも、応援すらもされない。

 そもそも、認められない。

 だって、ボクは男の子だから。


 そんな風に扱われるのなら、ボクは女の子になりたかった。

 身長なんて低くてよかった。

 かけっこだって遅くてよかった。

 ただボクは。


 ボクは、好きなものを好きでいることが無条件で許される、そんな普通が欲しかった。

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心理描写特訓の場 鳴宮唄 @narimiya-uta

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