第7話 気まずい空気

葵から返信が来て5分ほど経った頃に、葵は僕の靴を持って下駄箱にやってきた。だがその姿はどこかよそよそしく、俯いて目を合わせないようにしているようだった。かと言う僕も葵と同じようによそよそしく、平静を保つのに必死で、側から見たら誰でもわかるその葵の変化にも気づいていなかった

「お、お待たせ啓斗、待ったかしら」

「い、いや全然待ってないぞ」

「それならよかったわ・・・靴ここに置いとくはね」

「そうだな」

「・・・」

「・・・」

((き、気まずい!))

(なんでこんなに気まずいんだ!いや、気まずいと思ってるのは僕だけで葵はそんなこと全然思ってないだろうけど!)

(なんでこんなに気まずいの!気まずいとおもってるのは私だけで啓斗はそんなこと微塵も思ってないでしょうけど!)

と僕たちは同じようなことを考えながらそれぞれ靴を履き、お互いに一言も発さないまま校門を出た

((とりあえず会話しないと!))

と全く同じタイミングで全く同じことを考えた僕らは同時に声を発した

「なあ」「ねえ」

「「・・・」」

「葵からでいいぞ」「啓斗からでいいわよ」

「「・・・」」

「じゃあ僕から」「じゃあ私から」

「「・・・」」

そうして僕らはお互い顔を背けた

(なんで余計に気まずくなってるんだよ!というか全く同じタイミングで話しかけないでくれ葵!)

(余計に気まずくなったじゃない!なんで同じタイミングで話しかけてくるのよ啓斗!)

とまたもや同じようなことを考えていた。そんな時なんとかこの空気を変えようと、僕は言葉を発した

「今日は夕日が綺麗だなぁ。なあ葵」

「え、ええそうね。でもどうしていきなり夕日の話なんてしたの」

「それは・・・な、なんとなくだよなんとなく。今日はたまたま夕日が綺麗に見えたんだよ」

「ふふっ、なにそれ。普段は景色とか気にしないのに随分と突然ね」

「うるさい」

その会話を終えた時、僕は今までの気まずさが薄れているのに気づき少し冷静さを取り戻した。そしてその瞬間葵が話しかけてきた

「ねえ啓斗、今日の夕食はなにがいい?」

「今日の夕食か、そうだな、葵が作るものは何でも美味しいからな。・・・なんでもいいって言ったら怒るか?」

「なに言ってるの、怒るわけないじゃない。少しイラッとするだけよ」

と葵は笑顔で言った

「笑ってるのに怖いぞ葵」

「冗談よ。なんでもいいって言っても怒ったりしないわ」

「ほんとに?」

「ええ、もちろん。まあ、啓斗のことだからなんでもいいなんて言わないでしょうけど」

「そうだね、なんでもいいが一番ダメなのはわかってるから、出来るだけそう言わないようにするつもり」

そう、そんなことを言って葵からの好感度を下げたくないため、僕がなんでもいいと口にすることはほとんどないだろう

「じゃあ肉じゃがで」

「わかったわ。食材買いに行くから私の家で待ってなさい」

「オーケー、能力の練習しながら待っとくよ」

そう言って僕と葵は分かれた


「怪しまれなくてよかった」

啓斗と別れた後、私は独り言を呟いていた

「まあ、啓斗はまだ能力を扱いきれてないしバレる可能性は低かったけど、それでもヒヤヒヤしたわね」

なんで私は安堵しているのか、それを知るためには少し時間を遡る必要がある。

啓斗が夕日が綺麗だな、と話していた時、私は啓斗にバレないように能力を使っていた。自分に清めの力を使うことにより余計な思考などを一度洗い流し、冷静さを取り戻していたのだ。そして啓斗と話している間に、わたしたちの間に流れる気まずい空気に対して能力を使い少しだけ気まずさを取り除いた。そこからは出来るだけいつも通りの会話をする様に意識した。その場の空気に対して清めの力を使うのは初めてだったので、うまくいくか心配で内心ヒヤヒヤしていた。それでも成功させることができたので私は安堵していた

のだ

「とりあえず山場は越えられたから明日からお互いに気まずくならずに済むわね」

そんなことを呟いて私は今日の夕食のための買い物をするのだった。

帰ってからも特に空気が悪くなったりすることはなく、夕食を食べ終えた啓斗は自分の家に帰って行った。

その後、1人になった私は今日の疲れを癒すためにお風呂に入った。湯気で満たされている浴室を眺めながら、私は浴槽に肩まで浸かり今日あったことを思い返していた

「今日は随分色々なことがあったわね・・・。昼にはAクラスの先輩を叩きのめして、放課後には啓斗を呼び出したいじめっ子たちを蹂躙して、帰り道ではやっとの思いで気まずい空気を戻して・・・、本当に濃い一日ね」

今日のことを並べてみると、とても一日間にあった出来事とは思えないほどの量であったことを認識して、私は驚愕してしまった

「でもまさか啓斗との気まずい空気を無くす過程で能力に対する理解が深まるとは思いもしなかったわね」

そう、その場の空気や雰囲気などに能力を使ったのは初めてだったため、また一つ能力に対する解釈が深まったのだ

「こんな変な形で能力への理解が深まった人なんて世界中探しても私以外いないでしょうね・・・」

私は乾いた笑みを浮かべながらそう独り言をこぼして浴室を出た。それからお風呂から上がった私は課題を終わらせた。課題を終わらせると今日の疲労が押し寄せてきて、それに耐えられなくなった私は、ベッドに入って10秒をしないうちに夢の世界へと堕ちていくのだった

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