第8話 部活
嫌がらせ騒動が終わった次の日、今や習慣になりつつある朝のトレーニングを済ませた僕は、いつも通り葵と共に学園へ向かっていた。そんな時、葵があることを聞いてきた
「そういえば、啓斗は入りたい部活とかないの?」
「えっ、部活?」
しかし、その言葉に聞き覚えはあっても、学園で部活のことについて聞かされた覚えがない僕は葵に聞き返してしまった
「そう、部活。・・・まさか話を聞いてなかったなんて言わないわよね」
「ま、まさかそんなわけ、」
ない、と続けようとしたが、葵に嘘が通じないことを思い出した僕はそこで言葉を区切った
「・・・すみません、昨日は色々あって担任の話を聞いてませんでした」
色々、とは嫌がらせの解決方法を考えていたことだ
「・・・まあいいわ。それより部活について何も知らないんでしょ、なら教えてあげるわ」
「えっ、いいのか!」
"色々"と、誤魔化した部分について葵に言及されると思っていた僕は、言及しないどころか許してくれたことに驚いた
「今回だけよ、次はないから」
「それでもありがとう!」
そうして僕が感謝の言葉を伝えると葵が話し始めた
「部活と言っても殆どの部活の活動内容が能力の特訓なのよ。例えば水棲の生き物の能力者が多く所属していて、水中での戦闘の訓練もしたりする水泳部だったり、空を飛べる能力者専用の飛行訓練部だったりね。他にも格闘技を学べる部活とかもあるわ」
「へえー、部活と言っても自分の能力に合わせて選ぶ必要があるのか」
「自分の得意を伸ばすのもいいし、苦手を克服するのもよし、人によって違えど部活に入れば実力を上げられるのは確かよ」
と葵からそんな説明を受けていた時、僕はふと疑問に思ったことを聞いてみた
「さっきから運動部(?)の事ばかり話してるけど、文化部とかはどんなのがあるんだ?」
「そ、それが・・・」
僕が質問した瞬間、葵が言葉を詰まらせた。ここまで露骨に言いにくそうにされると気になって仕方がないため、僕は再度葵に聞いてみようとした瞬間
「あの学園には、文化部が存在しないのよ」
「・・・は?」
葵の口からとんでもない言葉が飛び出した。そして、僕がまだその言葉の意味を飲み込みきれてないことを知ってか知らずか、葵が続きを話し始めた
「あの学園は実力が無ければ淘汰されるような完全な実力主義、まさに弱肉強食。そんな中で文化部なんていう強くなれない部活に入る人も、ましてや作ろうとする人なんていなくて当然と言えるわ」
「確かに、むしろ少し考えればその答えに辿り着くのは必然か」
入学2日目に嫌がらせにあった僕からしたらその話題は他人事とは思えなかった
「話を戻すと、部活は運動部だけで入るとしたらその中から選ばないといけないわ。まあ、入らないという選択肢もあるけど、あなたのことたから…」
「もちろん、入るつもりだ!」
と僕は即答した
「そう言うと思ったわ」
「だって、部活といえば青春を飾る一大要素だし、何より強くなれるなら入らないのはもったいないだろ!」
「やる気満々ね、それじゃあ放課後は部活を見て周りましょうか」
「そうだな。ところで葵は入りたい部活とかないのか?」
できれば同じ部活に入りたい僕は葵にそんなことを聞いてみた
「全部の部活を把握しているわけじゃないのにもう決めてるわけないでしょ」
確かによく考えてみれば、昨日部活について伝えられたのにもう入る部活を決めているわけなかった
「そりゃそうか、いや〜にしてもどんな部活があるのか気になるな、放課後が楽しみだ」
そんな感じで部活への期待を膨らませながら僕は学校に向かうのだった。
楽しみなことがあると時間というのは早くすぎていくもので、あっという間に放課後になった。部活巡りが楽しみすぎて授業の内容のほとんどが耳を素通りしてしまい、全く覚えてないのはここだけの話。とはいえ今から部活巡りができると思うとそんなことはどうでも良くなった。
「まずはどの部活を見に行くんだ、葵?」
と、待ち合わせ場所の下駄箱に着いた葵に僕は早速聞いてみた。その際、僕の声は少し弾んでしまい、その姿はさながら、ボールが投げられるのを今か今かと待つ犬のようだった
「どの部活を見に行くって言っても、どんな部活がどこでいつ活動してのるか知ってるの?」
「・・・へ?」
その言葉を聞いた瞬間、僕はさっきまでブンブン振られていた目に見えない犬の尻尾が、ぴたりと止まったような錯覚を覚えた
「どんな部活が、いつ、どこで・・・?」
「そうよ、知ってるの?」
と葵に聞き返された僕の返答はわかりやすいものだった
「・・・しらみつぶしに学校見て回るか」
「今日活動してない部活があったらどうするつもり」
「・・・」
そんな葵の正論に僕はぐうの音も出なかった。そんな僕を見た葵は「はぁ」とため息をついて
「そんなことだろうと思ったわ。昔から周りが見えなくなることがあるのはあなたの悪い癖よ」
「うぐっ、治そうとは思ってるんだけどなかなか治らなくて・・・」
「言い訳は結構」
「はい、すみません」
とそんな感じで僕は昔からの癖について葵に叱られてしまった
「でも、本気でどうするんだ。場所がわからないんじゃ無駄な時間を過ごすことになるし、何より今日活動してない部活があっても気づけないぞ」
と僕は当然の疑問を発した。それを聞いた葵は待ってましたと言わんばかりに話し始めた。
「言ったでしょ、そんなことだろうと思ったって、あなたが情報収集してこないことは予想していたわ」
「ぐはっ、そうはっきり言われると来るものがあるな。僕の豆腐メンタルが砕け散りそうだ」
「茶化さないの。話を戻すとあなたが部活について何も調べてこないのは分かってたから、ここに来る前に職員室に行って部活の活動場所や活動時間について聞いてきたわ。だからあなたが心配しているようなことにはならないわ」
そう言って葵はそこそこある胸を張った。そして、そんなナイスフォローをした葵を幼馴染にしてくれた神に僕は心底感謝した
「ありがとう葵、助かった!本当にお前が幼馴染でよかった!」
「ふふ、どういたしまして、それじゃあ部活巡り始めましょうか」
「ああ!」
そんなこんなで、一波乱あったが僕と葵は部活巡りを始めるのだった
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