番外編 嘘が許される日
今日は4月1日エイプリルフール、嘘をつくことが許される日である。そして高校生活が始まるまで残り少しとなった春休みの真っ只中でもある。そんな日の昼前に僕、相羅啓斗は幼馴染の葵にどんな嘘を吐こうかリビングのソファに座りながら考えていた。と言っても普段嘘をつくことが全くないためどこまでが許される嘘なのかが分からず、葵を傷つけたくもないためなかなかいい嘘が思いつかなかった。
「うーん、どうしよう。葵を傷つけず尚且つバレないような嘘なんて難易度高すぎるんじゃないか?」
と頭を悩ませていた時あることを思い出した
「そういえば、葵に嘘ついても心が見えるからすぐバレるじゃん」
そう、葵は青龍の能力により相手の心の澱みを見ることができる。そのため、嘘をついたとしてもバレてしまう可能性が高い
「じゃあ今まで悩んでた時間はなんだったんだ。というかそんなことも忘れてたなんて僕アホすぎだろ・・・」
と僕が自分の馬鹿さ加減に呆れていた時、家のインターホンが鳴った
「ピンポーン」
「誰だこんな時に」
とそう言って誰が来たのか確認すると
「誰かと思ったら葵か、噂をすればなんとやらってやつだな」
そう言って僕は玄関に向かった。頭の中ではまだ嘘を吐こうか悩んでいる自分がいたが、それを無視しながら僕は家のドアを開けた
「どうした葵?なんか用か?」
「啓斗お昼まだかしら、まだなら久しぶりに繁華街に何か食べに行かない?」
「なんだそんなことか、ちょうどお腹も空いてきたしいいぞ」
「ありがとう」
そんなこんなで僕と葵は繁華街に向かって歩き出した
家を出てからしばらくして僕らは繁華街に到着した
「今更だけどなんで今日は外食しようと思ったんだ」
ふと、疑問に思ったので葵に聞いてみた
「本当に今更ね・・・」
と少し呆れながら葵は続けた
「買い物に行きたかったのよ。それで時間もちょうどよかったし、ここの繁華街でお昼を済まそうと思ったの」
「なるほど、じゃあなんで僕を誘ったんだ」
「買い物を手伝ってもらおうと思って。買い物をするのに男手は必須じゃない」
と葵はしたり顔で答えた。それに対し僕は
「なんの冗談だよSランク、お前ならいくら荷物が多かろうが重かろうが能力を使えば関係ないだろ。むしろ僕の方が持てる量も重さも負けてるだろ」
とそう言い返した
「なら、あなたは買い物に付き合ってくれないの?」
「うぐっ、その言い方はずるいだろ、僕がそれでも買い物に付き合うことわかってるからって・・・」
そうやって僕が捲れていると葵が謝ってきた
「ごめんなさい、ちょっとからかいたかったのよ」
そう言って、合わせた両手を顔の下に持っていき、眉を下げながら片目を閉じて舌を出した。所謂テヘペロというやつだ。それを見た僕は少し固まって
「・・・別に気にしてないからいいよそれぐらい」
と返した。葵のその仕草が可愛くて見惚れてしまったが、なんとか平静を保ち返事をした。普段こんな仕草を見せないため結構危なかったのはここだけの秘密。ちなみに、その時の葵の顔は僕の記憶に一生保存され続けていたそうな。
そんな茶番を終えて僕と葵はファミレスに入りお昼を食べ終えて近くのショッピングモールに買い物に来ていた
「それで、まずはどこに行くんだ」
「高校生になったから、ちょっとおしゃれに手を出そうと思って、だから服を買いに行くわよ」
「それはまた突然な。今までおしゃれとかあまり気にしてなかったのに、どうしていきなりそんなことしようと思ったんだ」
「それは帰る時に教えるわ。楽しみに待ってなさい」
と葵が言ったため僕は追及せずに待つことにした。なぜ今言わないのか気になったが、その疑問を頭の奥に追いやり気にしないよう意識した
「それなら理由を聞くのを楽しみにしとくよ」
「ありがとう、それじゃあ気を取り直して、服を買いに行くわよ」
「おう」
そう言って僕は葵について行った
そうして、色々あったがなんとか葵は買う服を決めることができた。あまりおしゃれをしてこなかったからか時間がかかり、度々僕にも感想を聞いてきて、迷いに迷ってやっと服を買うことを決心した。日はもう落ちかけていて空は赤色に染まっている。そんな夕暮れ時に僕らは帰りに買ったクレープを片手に近くの公園のベンチに座っていた
「葵時間かけすぎだろ、こんなに時間かけて買ったの1着だけだし、それとも女子はみんなこうなのか?」
「他の子はどうか知らないけど、確かに時間かかったわね・・・。それでも啓斗が決めてくれたこの服、時間はかかったけど買ったことに後悔はしてないわ」
その言葉を最後に少しの間僕らの間に沈黙が流れた。・・・沈黙に耐えかねたのか先に言葉を発したのは葵だった
「ねえ啓斗、ショッピングモールに入った時の会話覚えてる?」
「なんでおしゃれしようと思ったのかってやつか」
「そう、その話よ。・・・私その時に、帰りに理由を話すって言ったわよね」
「ああ、言ったな、その話をしたってことは理由、聞かせてくれるのか?」
「話が早くて助かるわ。・・・それじゃあ言うわね」
そう言った瞬間、葵の纏う空気が真剣なものになるのを感じた僕は姿勢を正した
「私がおしゃれをしようと思ったのは・・・」
そう言って一拍の間を開けて葵は俯きながら言った
「啓斗に・・・振り向いて、欲しかったからよ」
「・・・は?」
それを聞いた僕の頭は真っ白になりこれ以上の言葉を続けることが出来なかった。そして、何度も何度も葵の言ったことを反芻して、ようやく理解することができた時、自分の顔がどんどん熱を帯びていくのを感じて・・・
「なんてね」
その時、葵がそんな言葉を発した
「・・・え?」
それを聞いて僕の頭はもう一度真っ白になった
「まさか啓斗わすれたの?、今日は4月1日エイプリルフール。嘘をついてもいい日よ」
「えっ、あっと・・・つまりどゆこと?」
その時の僕はパニクっていて、まともに考えることができていなかった。そんな僕を見て葵は呆れ顔で
「まだわからないの、つまりさっきの告白は嘘だったのよ」
となんともわかりやすくシンプルなネタバラシをした
「じゃあ、さっきのは全部演技ってことか?」
「そう言ってるじゃない、他に何があるのよ」
「・・・そう、か」
と僕は言って
「はあ〜、びっくりした〜。本当の告白だったらどうしようかと思った」
と安堵の息を吐いてから立ち上がった
「嘘ならそれでこの話は終わり、びっくりしたけどとりあえず帰ろう」
「・・・ええ、そうね。帰りましょう」
そうして僕らは家に帰った
あの後、家に着いた僕は急いで自分の部屋に行きベッドにダイブして枕に顔を埋め叫んだ
「〜〜〜〜」
帰る時はなんとか隠せたが、正直言って葵の告白が嘘だとわかっていても意識してしまい、心臓もうるさいぐらい鳴っていたので葵に聞こえないか内心ヒヤヒヤだった
「エイプリルフールの嘘の中でも今回のはタチが悪すぎる。まだ心臓ドキドキしててうるさいし、何で数ある嘘の中でもこんなのを選んだんだよ葵!」
そう言って僕はこんな嘘を吐いた葵を呪うのだった
場所は変わりここは葵の部屋。僕が悶絶していた時、葵もまた悶絶していた
「はあ〜、言っちゃった・・・。嘘ってことにできるエイプリルフールの日を狙ったとはいえ緊張した・・・。あんな嘘ついて啓斗に嫌われてないかしら、いや、啓斗が好きな気持ちは本物だしある意味あの告白は嘘じゃないけど・・・事実がどうあれ啓斗がどう捉えるかが重要よね、とりあえず嫌われてないことを祈るばかりね。・・・にしても告白したのに反応薄かったわね。私はやっぱり幼馴染として見られてて異性として意識されてないのかいら・・・。いえ、弱気になってはダメよ私、意識してもらうために今日はこの服を買ったんだから、これからは意識してもらうためにおしゃれも身につけないと!」
そうして波瀾万丈のエイプリルフールは葵の決心を最後に幕を閉じたのだった
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