第6話 いじめ(後編)
そうして、葵がAクラスの生徒を派手に吹き飛ばしたことで周りの注目を集めてる中、僕は葵に近づいて声をかけた
「おーい、葵!」
「あら、見てたの」
「まあな。戦闘が始まる少し前からいたけど、あそこで倒れてるやつとお取り込み中だったから、話しかけようにも出来なくてなくて、とりあえず様子を見守って今に至るって感じ」
「なるほどね・・・、想定外の邪魔が入ったけど、とりあえずお昼にしましょうか」
「そうだな・・・と言いたいところだけど、あそこで伸びてる奴のことほったらかしでいいのか?」
「問題ないわ、この学園だとこういった生徒同士の争いが許可されてるもの」
「それはそれでどうかと思うけど・・・まあいいや、それじゃ葵がさっき座ってたあそこのベンチで弁当食べるか」
「そうしましょう」
そうして、なんやかんやあったが僕と葵は弁当を食べ始めるのだった
「・・・やっぱり葵の料理は美味しいな、昨日は自分の料理を食べたからかより一層美味しく感じるし」
そう、中学に入ったあたりから突然僕の弁当は葵が作るようになった。最初は申し訳なさを感じてあまり味わうことができなかったが、段々と考えが変わっていき今では作ってもらってるのにそんなことを考えるのは失礼だと思うようになった。そのため、ちゃんと味わって、作ってくれる葵に感謝して弁当を食べて味の感想は毎回欠かさず言っている
「そう言ってくれると作った甲斐があるわ。素直な感想が一番嬉しいし、啓斗の場合はお世辞じゃないってわかってるから安心して感想が聞けるし」
(まあ、何より一番嬉しいと感じるのはのは好きな人に美味しいって言われることだけど)
そう心の中で言いながら私は啓斗が美味しそうに弁当を食べる姿を横目で見ながら、自分の弁当の中身を減らしていく。そうして私が弁当の半分を食べ終わった頃に
「そういえばさっきのやつはなんで葵に勝てると思ったんだろうな。AクラスとSクラスじゃ明確な差があるのに」
と啓斗が聞いてきた。それに対して私は
「多分私がよく中遠距離で戦ってるから近接戦はからっきしだと思ったんじゃないかしら。ほら、私のとこに救援要請が来ることがあるじゃない。それで何度かSNSに私が犯罪者を捕まえるとことかがアップされてて、それを見たんじゃないかしら。あいつの能力は近接戦特化の熊の能力だったから」
と答えた。その予想に啓斗も納得したようで「なるほど」と言いながら頷いた
「確かにそれだったら近接戦に持ち込めば勝機があると思ってもおかしくないか」
「中遠距離がいくら得意でも近接戦ができなくてなれるほどSクラスのハードルは低くないわ。Sクラスも易く見られたものね」
「近接戦特化のAクラスの生徒でも中遠距離戦メインの葵に勝てないなんて、Sクラスは化け物揃いかよ・・・。じゃあ、なんで最初の方は防戦一方だったんだ、お前ならいくらでも反撃できただろ」
「この学校のレベルを知りたかったのよ。あんなのでも一応Aクラスだから、どれぐらいの実力か見てみたかったのよ」
「なるほど、それで最初は避けに徹してたんだな。疑問が解消できてスッキリした!」
そう言い、僕は空になった弁当の蓋を閉めて
「ご馳走様」
と手を合わせて言った
「今日の弁当も最高だった。作ってくれてありがとな」
「お粗末さま、それじゃあ私も、ご馳走様」
そう言い、葵も弁当の蓋を閉めた。そうして一波乱あったお昼休みは終わりを迎え、僕と葵はそれぞれの教室に帰っていくのだった。
昼休みの騒動から時間は進み、午後の授業を終わらせた僕は帰る用意を済ませて教室を出た
「結局嫌がらせがあったのは朝だけで、その後は何もなかったな。何もないに越したことはないけど・・・、昼休みの間に教科書とかが取られてなかったのを確認した時は驚いたな。まさか、あれだけで満足したなんてことはないだろうし・・・」
そう言いながら下駄箱に着いた僕は自分の靴を入れてるロッカーの扉を開けた。すると
「靴がない・・・。そして靴の代わりに手紙・・・。とてもじゃないけどラブレターって感じじゃないな、ラブレターもらったことないけど」
そう言って手紙の中を確認した
「靴を返して欲しければ屋上に来い、必ず1人で来ること・・・か」
さて、どうしたものか。おそらくあいつらは5人で掛かってくる。その場合、1人の僕は勝ち目がほとんどない、だからといって誰かに助けを求めるわけにもいかない、助けを求めたら僕だけでなくその人までいじめの対象になるかもしれない。・・・それだけはなんとしてでも避けなくてはならない
「まさに詰み、素直に殴られに行くしかないのか、嫌だなー、でも僕のせいで他の人がいじめられるよりかはましか。秘策もあるしな。・・・秘策と言えるほどの代物じゃないけど」
そう言って僕は殴られる覚悟を決めて屋上に向かうのだった
そうして階段を登り、やっと屋上の扉が見えてきたと思ったら話し声が聞こえた
「〜〜、〜〜〜」
「〜〜〜。〜〜〜」
「話し声?しかもなんか揉めてる、でもなんで?」
そうして少し開いていた扉の隙間から向こう側を見ると
「貴方達、私の啓斗に手を出して覚悟はできてるんでしょうね」
そこにはいるはずのない影があり、僕は目を見開いた
「なんでお前がここに・・・葵」
そこには今まで見たこともないほどの怒気を纏っている葵の姿があった。
そうして僕がまだ今の状況を処理できずにいる間にも会話は続いていて
「お前こそ、1人でここにいる全員に勝てると思っているのか?」
そう、先頭にいた男が言い放った。そいつは昼休みに葵がボコしたAクラスの生徒だった
「ここにはF〜Aクラスの生徒が合計で20人いる。昼休みの時は油断したかもしれねえが、この数相手だったら流石のお前でも勝てないんじゃないのか」
「もし本気で勝てると思ってるなら舐めすぎよ、貴方がいくら数を集めてもSクラスの生徒じゃない限り私には勝てないわ」
「虚勢か、今なら許してやる、痛い目見る前に帰りな」
「それはこっちのセリフよ・・・。茶番はいいわ、やられる覚悟があるやつはさっさとかかってきなさい、お望み通り啓斗に手を出したらどうなるか教えてあげる」
「ハッ、その余裕そうな顔を涙で濡らして、俺たちに許しを乞う姿が今から楽しみだぜ。お前らいけ!」
そうして戦いの火蓋が切られた。1人対20人という一見すれば葵に勝ち目なんて無さそうな戦いが・・・
そして、そして、そして・・・
十数分後、空が朱色で彩られた学園の屋上で足の踏み場もないないほど沢山の生徒が倒れてる中心、1人の女子生徒が少しも息を乱さず悠然と佇んでいる。死屍累々とも言えるその光景はいっそ幻想的でまるで絵画のようだと僕は感じた。
葵対20人の生徒の戦いは終始葵優勢で、かすり傷さえ負うことなく葵の圧勝となった。その姿はまさに『神童』の名に違わず、それを見て僕は
「ドキドキドキドキ・・・」
どうしようもないほどに心臓の鼓動が速くなっていた・・・。そんな状況で僕は壁に背中を預けた
「ああ全く、この現場を見なければこうはならなかったのに・・・。こんなの見たら、こんなの魅せられたら・・・もっと好きになるだろうが」
そう言って僕は立ち上がり、葵に気づかれないように早足で階段を駆け下り、下駄箱に向かった。
そうして自分の靴を履こうとした時、大事なことを思い出した
「あっ、靴奪われてたの忘れてた。葵に見つからないように帰ろうと思ったのに帰れない、そもそもいつも一緒に帰ってるし1人で帰ったら怪しまれるか?・・・いや、確実に怪しまれるな、なんとか平常心を保って葵と帰るしかないか。・・・なんとか持ってくれよ僕の心臓」
そう言ってスマホを取り出し、葵にメッセージを送った
「葵、僕の靴下駄箱に持ってきてくれ、っと送信」
そうして僕は葵が屋上から帰ってくるのを待つのだった
その時の僕は頭が働いておらず、大きな過ちを犯していたことに気づくことができなかったのだった・・・
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