第2話 入学式

葵と別れてしばらくした後、新入生が体育館に集められた。ちなみに、各クラス名前順で並んでいるため僕は一番前にいる。そのため後ろは見えないが、緊張しているのか体育館内の生徒達の会話は少なく、しんとしている。そうしてしばらく待っていると、壇上に白髪を短く切り着物を着た1人の若い女性が現れた。その体は起伏に富んだ女性らしい肢体をしていて、どこか妖艶な雰囲気を醸し出していた。一挙手一投足、その息遣いにいたるまで誰かを惑わすために洗練されていて、同性であろうと関係なく堕ちてしまいそうな、そんな印象を僕は抱いた。そして、その人物を見るなりさっきまで静かだった生徒たちが騒ぎ始めた。そういう僕も驚きを隠せないでいる。それもそのはず、だって壇上に姿を現したのはこの日本で最も強いと言われてる能力者の1人である狐崎九麗《きつねざきくれい》その人だったのだから。

「初めて生で見た。本当にこの学園の学園長だったんだ」

そう僕が驚いていると学園長が口を開いた

「静かに!」

その学園長の一言には殺気が含まれており、一瞬で騒いでいた生徒達を黙らせた

「・・・」

「うん、静かになったわね。それじゃあ入学式を進めるわよ、と言っても私は堅苦しいのが嫌いだから、少し昔話をしましょうか」

そう言って、学園長は自分の役割をほっぽり出してとある話をし始めた

「みんなはこの能力が当たり前になり始めた頃のことを知っているかしら。君たちが普段使っている能力は実は150年ほど前まではものすごく弱かったのよ。力が少し強くなる程度で耳や鼻も常人より少しよくなる程度だった。そして能力者は今よりもはるかに少なく100人に一人ぐらいしか能力を持っていなかったの。そんな中1人だけ規格外の能力者がいた・・・」

そう言って学園長は、人差し指を立てた右手を見せつけるように前に持ってきた

「その能力者は世界の頂点に君臨し、1人で世界を壊すことができるとも言われた歴史上最強の能力者。当時、人々は畏怖の念を込めて『獣の王』と、その能力者を呼んでいた。ちなみに、その能力者を『キング』と呼んでいる人もいたそうよ。そして、その能力者の能力は『キメラ』。ありとあらゆる獣の力を使い、百の兵力をたった1人で蹂躙した、という逸話もあるそうよ。しかしある時、そんな最強のキングは突然姿を消したわ。まるで元々存在していなかったように。

獣の王は誰かに暗殺されたのか、はたまた寿命で死んだのか、それとも現代でも生きていて世界を征服するその時を虎視眈々と狙っているのか、死体も見つかってないから生死も不明で全く情報がなく、今では都市伝説扱いになっている。でも不思議なことに獣の王が姿を消してから能力者の数が増え始めて、以前と比べ物にならないほど能力が強力になったそうよ。今ではキングが独占していた能力が宿主を失っていろんな人の体内に宿っている、というのが通説となっているわね」

そう学園長が話を終わらせてから数秒の間は、学園長が姿を現した時の騒ぎようが嘘かのように体育館の中が静寂に包まれた。

「・・・」

「昔話はこれでおしまい、少しって言ったのにいつい話し込んでしまったわね。時間もいい感じだし入学式を終わりましょうか。それじゃあ各々解散って事で」

そう言って学園長は去っていった。

「なんだか、自分の役目放り投げたり、真剣に話したり最後は結局適当だったり嵐のような人だったな」

と僕は見えなくなった学園長を思い返しながら呟くのだった

そんなこんなで入学式は終わりを迎えた。新入生全員の心に『キング』という存在を残して

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