獣の王

毛糸玉

第1話 始まり

この世界には能力が存在する。ただし、ほとんどの人が想像するような火を吹いたり周囲を凍らせたりなんて能力ではない。まぁ、そんなことができる能力者もいるにはいるがそういう能力者は少数派だ。

この世界では動物の力を使えるもののことを能力者と呼んでいる。この世界の3人に1人はなんらかの能力を持っており、基本的には7歳までに能力が発現する。

そんな世界で僕、相羅啓斗あいらけいとは最高峰の能力学園に入学することになった。今日は入学式であり、今は登校している真っ只中である

「最高峰と言われてるだけあって課題とか多かったりするのかなぁ、もしそうだとしたらちょっとめんどくさいなぁ」

少し気だるげな僕の声が春の住宅街に響く

「多くてもちゃんとやりなさいよ、もし出来なかったら招致しないから」

と隣にいた人物は僕にとっては聞き慣れた声で相槌を打った。僕の隣を歩いてる人物は龍神葵たつがみあおい。薄青の髪をツインテールで纏めて腰あたりまで伸ばしており、その立ち姿は凛としていて、見る者も背筋を自然と伸ばしてしまうような、どこか鋭い空気を纏っている。しかし付き合いが長いからか僕といる時はそんな空気は霧散して、どこにでもいそうな年頃の女子高生のような印象の空気になる。

僕と葵はお互いに物心ついた頃から一緒いる所謂幼馴染というものだった。幼稚園、小学校、中学校も同じで、更には家も隣同士という、漫画やアニメの世界にあるような絵に描いた関係だった。

「なんだか

「おい、あれって神童って呼ばれてる天才そじゃないか?」

「ほんとだ、龍神葵だ」

「見て、葵さんよ」

「隣にいるやつ誰だ?」

学校が見えてくると周りにも登校している生徒が増えてきて葵を見るなり騒ぎ始めた。しかし、その声のどれも葵に関するものばかりで僕に向けられるのはせいぜい「誰だあいつ?」ぐらいの

「有名人は違うねー」

「こんなの煩わしいだけよ。私は有名人になりたくてなったわけじゃないし」

葵は神童と呼ばれ、この国でもトップクラスの実力者であるためそれなりの知名度がある。ただ、僕以外にはそっけないため中学では僕しか話し相手がいなかった。

「やれやれ、有名人なんだからファンサの一つや二つでもすればいいのに」

「嫌よそんなの、私に得なんて何一つないんだから」

「ファンサは損得勘定でやるものか?」

「どうでもいいでしょ。私がファンサしようがしまいが啓斗には関係ないんだし」

(「僕が葵の笑顔を見たいから」なんて言ったら引かれるだろうな〜)

(啓斗以外に笑顔を見せたくないなんて言えないわよバカ)

「・・・///」

「・・・///」

(葵なんか言ってくれよ!気まずいだろ!)

(なんで急に黙るのよ!気まずいじゃない!)

「葵さんの顔赤くないか?」

「隣のやつの顔も赤いぞ」

「もしかしてあの2人って恋人同士?」

「嘘!葵さんに恋人なんて聞いたことないわよ」

「でも確かそんな噂が少し前にあったような」

(ざわざわ)

(周りが騒ぎ出したけど小声で何言ってるか聞こえない、なんでみんな小声なんだ。というかそんなことより、いまは葵と無理にでも会話を続けないと!、、、あっそうだこれなら!)

「そういや葵のクラスはどこなんだ?」

そう、この学園はS、A、B、C、D、E、Fの7つのクラスがありSが一番ランクが高くFが一番低くなっている、A〜Fクラスの生徒はそれぞれ20人ずつ、Sクラスは年によって変わるが基本的には5人以下だそうだ、ちなみにSクラスは推薦で選ばれた人が集まるクラスで、今までAクラスからSクラスに上がった生徒は未だ1人もいないらしい。この世界も学園同様にランク付けされててクラスとランクはどちらも同じらしい、Aクラスの生徒はAランクといった具合だ

「私!?私はSクラスよ。そういう啓斗はどこのクラスなのよ?」

(そういえば葵は推薦でSクラス確定だった!だからこの学園に受験したのに何聞いてんだ僕は!とりあえず会話を続けないと!)

「僕はFクラスだったよ」

「そう、まぁ入学できただけでも良かったんじゃない」

「ほんとに、葵と猛特訓したおかげだな、感謝してる」

「私も啓斗と同じ学校になりたかったから感謝なんてしなくてもいいのに」

「それでもだよ」

とそんな会話をしていると学校に着いた

「それじゃあ、私のクラスはこっちだから」

「じゃあまた帰りに」

そう言って自分のクラスに行こうと葵に背中を向けた時

「啓斗」

葵から静止がかかり振り返ると

「この学園では低ランクの生徒が高ランクの生徒にいじめられることがよくあるの、それを学園側は黙認している。もしそんなことがあったらすぐに連絡して」

と真剣な表情で言われて、僕は

「・・・わかった、その時はちゃんと手を借りるよ」

と笑顔で返事をした、その時の葵が切ない顔をしていたことに気付かずに

そして

「中学の時みたいに一人で抱え込まないでね」

という私の声は誰にも聞こえることなく春の空気に吸い込まれるように、溶けるように、消えていった

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