第17話 噂と変態

「っはよ、湊」


あのあと、穏やかな空気のまま登校し下駄箱のところで綾乃と別れた湊は自席にて自習をしていると登校してきた篤に話しかけられた。

湊は自習する手を止め篤のほうを見る。


「あ、おはよう。篤」


「今日の朝は随分ド派手にやったらしいじゃねえか。ホントか?」


「ド派手……?」


篤の言葉に湊は今朝自分は何かやらかしただろうかと考える。

しかし今朝は特に他人に迷惑をかけるようなことをしたつもりはない。

湊はそんな結論に至って首を横に振る。


「特にやらかしてはないけど?」


「やらかす、というか会長と一緒に登校してきたんだろ?学校中の噂になってんぞ」


それを聞いた瞬間、湊は判断を間違えたかと渋い顔をした。

まさかたった一度の登校で噂になるとは思っていなかったのだ。


「ついに付き合ったのか?」


「ついにって……別に付き合ってないけど」


「はぁ……お前だもんな。そりゃそうか……」


篤はがっくりと肩を落として苦笑いする。

言葉とは裏腹に篤の表情に馬鹿にする様子はない。

どちらかというとやはり、という思いが強かった。


「……篤。その噂はどんなふうに広がってるの?」


「俺が聞いたのは『会長とお前が付き合い始めたんじゃないか』って感じのやつばっかだったぜ?」


やはりそういう類いの噂になってしまう。

湊としては綾乃にそういう噂が立つのはかなり嫌だった。

光帝学園は恋愛禁止を掲げた校則は存在しないためこれが綾乃へのイメージダウンに繋がることはない。


だがそういう噂は教師に悪いイメージを持たれる可能性はあれど良いイメージを持たれることはほとんどありえないだろう。

綾乃が心から好きになって付き合った相手とそういう噂が出るのは湊としては別に何も言わないが自分は綾乃の想い人ではなくただの幼馴染。

重石になってしまうのは湊からすれば絶対に避けたいところだった。


(噂を消す……?いや、無理やり消したらより信憑性が増してもっと広がるだけかな。ここは静観するしかないか……)


湊や綾乃が噂を消そうと動けば、隠そうとしていると取られかねない。

根も葉もない噂なのだからここは事態が落ち着くまで静観が一番だ。


「湊、噂の通り会長と付き合ったりしないのか?」


「……そもそも綾姉は俺のことをただの弟しか思ってないよ。付き合うとかそういう話じゃないんだ」


小さい頃から、それも世間一般的に初恋というものを経験する年齢よりも更に前からずっと家族のように、姉弟のように過ごしてきた。

綾乃も幼馴染だから特別だと言っていた。

昔からの積み重ねがあるからこそ綾乃と仲良くいられるのであって綾乃のそれは恋愛感情ではないだろう。


「………そういうものか?」


「うん、そういうもの。だから俺は綾姉を幼馴染として、副会長として支えるんだ」


「はは、お前は普段前に出たがるタイプじゃないもんな」


湊は副会長に立候補はしたが普段から前にガツガツ出るタイプではない。

頼まれたり、誰も引き受けないならばと結果的に前に出ることはあれど自分からそれを望むことは少ない。

中学のときは1年生が副会長を務めるなんていう特殊な制度はなかったので平の生徒会役員で最高学年になっても湊が会長に立候補することはなかった。

だからこそ篤は今年湊が副会長に立候補したことに驚いたし本当に綾乃を支えるために前に出るのだと理解したのだ。


「……結構お似合いだと思うけどな」


「はは、そうかな?」


「ああ、2人以上のコンビはいないな」


(湊は鈍感だし会長も奥手そうだからな……普段はあんなにお互いを信頼してるって分かるくらい絆があるのに恋愛方面はからっきしだな……)


「湊!お前会長と付き合ったのか!?」


篤が数分前に聞いてきたことと全く同じな質問と共に直哉がやってくる。

声がデカいと湊と篤は二人して渋い顔をした。


「付き合ってないよ」


「落ち着け、直哉。また変な本持ってるだろうし没収してもいいんだぞ?」


「ごめんなさい」


篤の言葉に直哉が一瞬で冷静さを取り戻す。

その反応でまた持ってきているんだなと2人は分かってしまった。


「それにしても湊は会長と付き合ってなかったのか。よかった……」


「なんでよかったんだ?」


「だって友達の彼女じゃないなら妄想してもいいじゃん!」


また変なことを言い出したとクラスメイトがチラチラとこちらを見ている。


「あまり良い予感はしないがどういう意味だ?直哉」


取り敢えず僕たちは関係ありませんと主張するように、あくまで直哉だけがそんなことを言っていると他の人にもわかるように話を進めていく。

すると直哉は目をくわっと見開いて胸を張った。


「何ってそりゃあ綾乃会長に話しかけるとするだろう?そしたら『あなたみたいな人が私に話しかけないでくれる?』って冷たい目で俺を見るんだ!どうだ!?ゾクゾクするだろう!?」


完全にヤバい人だった。

クラスの女子がドン引きした目で直哉を見ている。


「そ、そうか……」


「ちょっと俺たちにはついていけない話だったかな……」


とにかく直哉のおかげ?で湊のクラスで付き合う云々の話はなくなり代わりにクラスの女子からの直哉への評価が元々マイナスだったのがさらにマイナスになったのだった──


ちなみに後からやってきた桃にも同じ質問をされたのはまた別のお話。

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幼馴染であるみんなの憧れの美人でクールな生徒会長は俺に話しかけるとすぐに顔が赤くなる 砂乃一希 @brioche

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