第16話 幼馴染と登校

皿洗いを終え、時間はちょうど出発する時刻に。

湊は手を拭きながら綾乃に声をかける。


「綾姉、もうそろそろ行こうか」


「あ、うん。もうそんな時間なんだね」


「俺は部屋からバッグを取ってくるから少しだけ待ってて」


「うん、わかった」


湊は階段を上がり部屋に戻ると勉強机の下に置いてあるスクールバッグのファスナーが閉まっていることを確認して肩にかける。

そして扉を閉め、下に降りると綾乃が玄関で待っていた。


「待たせちゃってごめんね、綾姉」


「ううん、大丈夫だよ。それじゃあ行こっか」


「了解」


綾乃が先に靴を履き次に湊が履く。

高校生が二人立つと玄関は若干狭かったがぎゅうぎゅうになるほどではない。

扉を開けて外に出ようとすると奥から優香が歩いてくる。


「二人ともいってらっしゃい。車には気をつけてね」


「いつもは見送りのとき玄関まで来ないのに昨日は来るんだ?」


「ふふっ、そりゃあ将来の義娘むすめも一緒とあれば玄関まで来たくなるでしょ?それとも毎日玄関まで見送りに来てあげようか?」


「む、義娘……」


綾乃が優香の言葉に頬を赤く染める。

そんな綾乃を見て、湊はフォローに入った。


「綾姉のことをいくら気に入ってるからってあまりからかわない。毎朝の出迎えは母さんも忙しいし俺も高校生なんだから別に必要ないよ」


「はーい。まったく湊はからかいがいが無いわね。誰に似たんだか……」


「父さんだね」


湊の容姿やら性格やらは完全に父親似。

目や口元は優香に似ているのだが父親に似ていると言われていることのほうが圧倒的に多い。


「あの人も昔は可愛い反応を見せてくれたものよ?可愛い一面ももってないと奥さんに見捨てられちゃうわよ?」


「あぅ……奥さん……」


「はぁ……」


相変わらずの優香に湊はため息をつくことしかできない。

この母の手綱をしっかり握っている父に尊敬の念を改めて抱く。


「遅刻しちゃうし俺達はもう行くよ。行こ、綾姉」


「お、お邪魔しました。おばさん」


「うふふ、またいつでも来てね」


今度こそ外に出て、湊は一つ伸びをする。

今日の天気は晴れ。

雲一つ無い快晴とは言い難いが、太陽がしっかりと出た温かさを感じる気温だった。

湊と綾乃は学校に向かって並んで歩きだす。

綾乃の頬はまだ少し赤く染まったままで湊は少しでも落ち着けるようにと声をかけた。


「ごめんね、綾姉。母さんは相当綾姉のことを気に入ってるみたいでさ」


「え?あ、ううん!大丈夫だよ。優香さんは優しいし私にとってもう一人の親みたいな存在だから」


綾乃の笑みに無理している様子はない。

そんな綾乃の様子に湊は一先ずホッとした。


「普段からもっと綾姉を連れてこいって言われるくらい気に入ってるんだよ。男の家なんて警戒するに決まってるのにね」


「え?警戒……?」


「うん。綾姉だっていくら幼馴染とはいえ異性の家にあんまり上がりたくないでしょ?綾姉は人より美人だし」


美人という言葉に綾乃は顔がニヤけそうになるが湊の言葉にどんな返しをしようか悩む。

たくさん行きたいというのも男の部屋に簡単に上がるはしたない女だと思われるのは嫌だし、かといって同意してしまうと湊の家にお邪魔する機会を失ってしまうかもしれない。

いきなり回答に窮する質問がきてしまったのだ。


「お、幼馴染だから湊くんは特別だよ。湊くんさえ良かったらまたお邪魔したいな」


一種の告白のような言葉になってしまったが綾乃はもうこれしか思いつかなかった。

しかし、幼馴染という言葉を使ったからか湊は綾乃の気持ちに気づくことなく首を縦に振る。


「綾姉ならいつでも歓迎だよ。もちろん俺も変なことはしないから」


「ふふ、湊くんなら別にいいよ?」


綾乃としては湊になら手を出されてもいいのだ。

本当はこんなことを言うのは恥ずかしくてたまらないのだがオトナの女として余裕を見せなくてはいけない。

今日はやらかしてばかりだったからこそ、少し積極的にならないといけないという綾乃の焦りがこの状況を生み出した。

湊は珍しく驚いたように顔を赤くする。


「あ、綾姉……?」


「ふふ、冗談だよ」


「冗談って……」


珍しい湊の反応が見れて綾乃は嬉しくなる。

今このとき、優香が言っていた可愛い一面があったほうがいいという意味を本当の意味で理解した。


「ごめんね。ついからかっちゃった」


「はぁ……珍しいね……」


湊はホッとため息をつく。

そして少し怒ったように綾乃に近づいた。


「綾姉」


「は、はい」


怒らせてしまったかと綾乃は不安になる。

湊に嫌われたら生きていけない自信があった。

それだけですぐに謝りたい衝動に襲われる。


「綾姉。男は単純だし勘違いしやすい生き物なんだよ?」


「は、はい……」


「俺以外にそういうことは絶対に言っちゃダメだからね?」


そこで綾乃は湊はからかわれて怒っているのではなく、ただ心配して言ってくれているんだと気づいた。

しかし元々こんなことは湊以外には絶対に言わない。


湊は自分のことを大切に思ってくれてるし心配してくれる。

そんな事実に綾乃は心が温かくなるのだった──



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風邪引いてました。

更新できてなくてすみません。

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