第12話 即バレ
目の前にいるのは生徒指導の先生と教頭先生。
対する生徒会メンバーは綾乃、湊、静香の3人だ。
昨年のルールと大きな変更はないのでスムーズに話し合いは進んでいく。
「一般の方にもわかりやすいように校内図と出し物の説明、そしてスケジュールを記載した紙を校門にて配るのがよいと考えます」
「良い意見ではある。だが配るのが遅れれば一般道にまで渋滞する可能性がある。もし担当の生徒が忘れるなりで来なかったらどうする?」
学校側としては地域住民も加えて盛り上げるのは大歓迎。
しかしそれで逆に迷惑をかける結果は絶対に避けたい。
慎重になるのも当然のことだった。
「でしたら紙は置いておいてセルフで持っていってもらうのはいかがでしょう?風と雨の対策だけしておけば問題ないと思います」
綾乃が窮地に陥ったわけではない。
それでも自分にできることがあるのなら、と湊は発言した。
幸い話し合いの場は緊張感にあふれ、発言しづらいというわけではなかったので大して難しいことではなかった。
「一般来場者の大凡の数を計るという意味でも悪い試みではないと思います」
今までの光帝学園の学園祭は地図の類はなく、呼び込みや看板での集客が主だった。
しかし校内図を用意することは学校からしたら別に難しくないし、店舗説明はその出し物を誰よりもわかっている
集客がかかっているとなれば手を抜くことは無いはずだ。
「なるほど」
「編集は私たち生徒会でもちますので」
このタイミングで綾乃にバトンタッチする。
生徒会がやります、と副会長で更には1年である湊に言うことは出来ない。
正確にはできるのだがここは会長である綾乃を立てたのだ。
「だが大丈夫か?お前らはルール伝達の方も編集しているのだろう?」
「問題ありません。あらかじめ役員にはこのことを通達し、同意をもらっています。こちらの編集もできるようなスケジュールで動いていますので」
本来書類整理やらなんやらはもう少しゆっくりでもいい。
だが今回案内図を用意するとなればそれは光帝学園にとって初の試みでありノウハウがない。
なのであらかじめ予定を詰めて用意していたのだ。
「わかった。ではその件は君たちに任せよう」
「ありがとうございます」
これで無事全てのすり合わせが終わった。
年によってはルールを大幅変更の申請をし、話し合いに時間がかかることもあったらしいが綾乃の代はそんな冒険をしていない。
昨年の反省を踏まえどう良くするかという方向性だったのですぐに終わったのだ。
「お疲れ様だったな。やはり夕凪は話が通じてよいな。自分の代で結果を残さなくてはと大きなことをやろうとする会長も少なくはないからな」
「いえいえ、私なんてまだまだですよ」
生徒指導の先生の言葉に綾乃は苦笑しながら答える。
綾乃からすればルールは色んなことの積み重ねの結果できてるのだから無理に変える必要はないと思っている。
それに役員たちに大きな負担をかけてはいけないとも思っているのでわざわざ大きな動きをする必要がないのだ。
「それにしても日和は優秀だな。毎年1年がこの話し合いに参加するがここまで堂々と発言できた奴は中々いないぞ?」
「そうなんですか?」
「ああ、夕凪が日和を連れてきたくなった気持ちがよくわかる」
(綾姉が俺を連れてきたくなる……?)
経験を積ませるために副会長を連れて行くのは通例なはず。
どういうことかと思って隣に座っている綾乃を見ると綾乃は少し顔を赤らめて俯いていた。
それだけでこと恋愛事には疎いがそれ以外に聡い湊は理解する。
そして笑顔を浮かべて生徒指導の先生に向き合った。
「ありがたいことです。まだまだ実力不足ではありますが夕凪会長は期待してくださるようで色んな経験を積ませていただいています」
「はは、そうか。来年お前が生徒会長としてここに来るのかな?」
「そこまではわかりません。市井さんやその他にも優秀な人たちはいますので」
「高校生とは思えんやつだな。もっと可愛げがあってもいいんだぞ?」
生徒指導の先生は楽しそうに笑い、話し合いは終了した。
礼をして職員室を出ると湊は綾乃のほうを見た。
「……夕凪会長?」
「……うぅ」
「……鹿倉先輩。副会長を連れて行くのは通例じゃないんですか?」
「べ、別に決まっていないという感じですかね……去年の会長は残ってましたし……」
静香に嘘をつくという選択肢はなかった。
綾乃の嘘がバレた瞬間だった。
(心細かったのかな?いずれにしてもらしくないな)
湊は少し考え込み頷く。
そして綾乃の耳元に口を近づけた。
「頼ってほしいって言ったから頼ってくれて嬉しかったよ。ただもっと素直に誘ってくれていいからね?」
「……!?」
綾乃が心細さを感じているのなら公私混同するなと厳しい言葉は使わない。
だけど公私混同がよろしくないことも確かなのでやんわりとたしなめておく。
「好きなだけ頼ってくださいね。会長」
「は、はぃ……」
(うぅ……できる会長だって湊くんに思って欲しかっただけなのにバレちゃった……先生のバカ……)
綾乃としてはいつもからかわれて、なのに頼りがいのある湊に私のほうが年上で仕事ができるんだぞと見せたいだけだった。
結果的に嘘はバレ、恥ずかしさで顔が赤くなってしまったためその評価を覆すことはできなかったと落ち込むことになったのだった──
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