第11話 生徒会長の小さな秘密

時は流れ、放課後。

昨日は休みだった桃も今日は生徒会室に集まり、生徒会役員全員の顔ぶれが揃った。


「今日は先生とルールのすり合わせとその通達用の用紙制作に分かれましょう」


綾乃の言葉に異論は出ない。

文化祭のルールが確定したとき、担任によっての口頭説明と生徒会によって作られた用紙によって全校生徒に伝達される。

そのときにフォントやデザインなど凝ったものを出すのでルールが確定していなくともあらかじめある程度作っておく必要がある。


「私とあともう2人くらいに付いてきて貰おうと思うんだけど誰がいい?」


「はい!私行きたいです!」


綾乃が質問しほぼノータイムで桃が手を挙げる。

その目は爛々と輝いていてブンブンと振られる尻尾を幻視させた。


「うーん……市井さんかぁ……」


「えっ……ダメなんですか!?」


「桃ちゃんがダメっていうよりは桃ちゃんが広報だから連れていけないって感じだと思うよ〜」


驚く桃に咲姫がすかさずフォローする。

情報を伝えるための紙をデザインするのに広報がいなくては話にならない。

渋々といった様子で桃は席に座る。


「ほんとお前夕凪会長のこと好きだよな」


「何よ。悪い?」


「い〜や別に?」


「じゃあ一々突っかかってくるんじゃないわよ」


そう、桃は自他共に認める綾乃ファンだった。

髪型も綾乃の真似をして髪をストレートに下ろしているし口調もクールモードの綾乃に似せている。

初めて見たとき一瞬で目を奪われたらしく、1年生で一番早く綾乃のファンクラブに入会した筋金入りだった。


「二人とも喧嘩しないで。話が進まないわよ?」


「はい!すみませんでした夕凪会長!」


「さーせん……」


いつも通りとも言える篤と桃の言い合いを仲裁し、話が再開する。

まだ前置きしただけで何も本題に入れていないのだ。


「それで誰を連れて行くかなのだけれど……」


「1年生一人、2年生一人連れて行くのが妥当じゃないかな〜?」


「そうね、そうしようと思う」


咲姫の言葉に綾乃は頷く。

どちらにも今までの経験があったほうがやりやすいのだ。

ぴったり分けるのがちょうど良いという判断だろう。


「ならば俺が残りましょうか?」


湊は綾乃が会長として生徒会室を離れるのなら副会長の自分は残るべきだとして声を上げる。

しかし綾乃は首を横に振った。


「それはダメ。これは来年も見据えた話し合いにしないといけないから湊くんは逆に絶対に連れて行かないといけないの。私も去年副会長だった時に参加したし」


「そういうものなんですか?」


「ええ。大体は副会長がそのまま会長になることが多いことが理由ね。もちろん副会長が会長にならないこともあるけど今の時点では副会長が一番有力候補になるのは間違いないから」


確かにこの学校で1年生が副会長を務めるのは来年のために会長の下で経験を積むため。

そう考えれば確かに付いていくのは理にかなっているように見える。


「俺が話し合いなんてできると思うか?行ってこいよ、湊」


「はは……わかったよ。では俺も連れて行ってください」


「ええ、よろしくね」


綾乃は満足そうに頷く。

湊は恨めしそうに見つめてくる桃の視線に気づき手を合わせて謝ると顔をぷいっと背けられ苦笑することしかできなかった。


「それで次は2年生だけど咲姫には残ってもらうわ」


「ラジャー!よろしくねっ!桃ちゃん!天海くん!」


綾乃の言葉に咲姫はすぐに頷き敬礼のポーズを取る。

そしてすぐに桃と篤に笑顔を向けた。

どんなときでも咲姫は綾乃の味方であり、後輩たちを導いてくれると信頼しているからこそ任せられる。

綾乃にとって自分を支えてくれる存在は湊と咲姫の2人だからこその采配だった。


「2人はどうしたい?」


「それじゃあ僕は静香さんを推薦させてもらうよ」


「わ、私ですか……!?」


いきなり推薦された静香は目を丸くして驚く。

そして大きな声を出してしまったのが恥ずかしかったのかすぐに顔を俯けて赤く染めた。


「す、すみません……」


「いえ、大丈夫よ。でも確かに野々瀬くんの言う通り鹿倉さんは適任かもしれないわね。任せてもいいかしら?」


「で、でも私なんかじゃ……」


否定しようとする静香の肩に真は手を置きふるふると首を横に振る。

そして優しい表情で静香への激励の言葉を口にした。


「やってみたいんでしょ?だったら少しだけ勇気を出してみなよ。会長も湊くんも頼れる人だ。そんなに気負う必要は無いんだよ」


「野々瀬くん……」


静香はさっきとはまた違った意味で頬を染める。

そして人の機微に聡く恋愛が大の大好物である咲姫はその一瞬の表情の変化を見逃さなかった。


(えっ……なになに!?この2人ってもしかして……でも静香ちゃんも野々瀬くんも奥手そうな感じするし部外者は手を出さないほうがいいよね……)


手は出さず見守る方向でいくことを決めた咲姫は視線を切り、綾乃のほうを向く。


(問題はこっちだよね〜……日和くんって相当鈍感みたいだしどうしようね……)


2年生の3人は気づいていたのだ。

実は去年副会長だった綾乃は話し合いに参加せず生徒会室に残っていたことに──


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昨日更新できなくてすみません。

体調不良でずっと寝てました。

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