第6話 仕事と事故
遅れてすみませんでした!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
15時20分、1日の最後の6限目の終わりを告げるチャイムが校舎に響く。
湊が自分の席で荷物をまとめているとスクールバッグを持って篤がやってくる。
「湊、一緒に行こうぜ〜!」
「ああ、うん。いいよ」
今日は生徒会の仕事がある日。
二人は別棟の3階にある生徒会室へと移動していく。
「今日の仕事はなんだっけか?」
「まだ何も言われてないよ。まあどんな仕事でもやるしかないでしょ」
「違いねえ。あの会長のことだから仕事量が多すぎることはないだろうしな」
篤はうんうんと頷く。
生徒全体に綾乃はクールでカッコよくて優しい美人な会長だと認知されているためのこの反応だ。
組織のリーダーや重役にはこういう人気と実力を兼ね備えた人が付くんだろうな、と湊は自分が副会長なのに考える。
「こんにちは」
「ちわ〜」
生徒会室の扉を開けるとすでに先客が2人いた。
2人とも2年生の先輩で気弱そうなメガネをかけた女子の先輩と優しそうな笑顔を浮かべた男の先輩。
二人とも生徒会のメンバーであり湊からすれば頼れる先輩だった。
「こんにちは。日和くん、天海くん」
「こ、こんにちは……」
優しげな男の先輩は
生徒会会計を務めており常に笑顔を絶やさないいわゆる後輩に好かれる先輩だった。
見た目通り気弱な女の先輩は
本を愛する文学少女で生徒会庶務を務めている。
「2人は今日の仕事内容を聞いてるかな?」
「いえ、知らないです」
「そうかぁ、副会長の君なら知ってるかとも思ったけど、会長が来るのを待つしかないね」
湊たちは生徒会室の中心に置かれた机を囲み席につく。
さてこれからどうしようかとなったときに扉が開き綾乃と咲姫が現れた。
「私たちが最後ね。待たせてしまってごめんなさい」
「担任の先生の話が長くって長くって……本当にごめん!」
綾乃と咲姫がすでに来ていた4人に謝り席に座る。
そして湊はあることに気づいた。
「夕凪会長、まだ彼女が来てませんよ?」
「あいつかー……」
2人の思い浮かべた人物は生徒会に属する最後の一人。
湊と篤を除けば唯一の一年生役員の彼女の姿が今日は見当たらない。
「ああ、あの子は今日は体調不良で学校を休んでいたみたいなの。だから今日は休みよ」
「そうでしたか」
「あいつが体調不良って珍しいこともあるもんだな」
篤と今日欠席の彼女は犬猿の仲だ。
篤も流石に嬉しそうな顔はしないが若干驚いたような顔をした。
「とにかく遅れちゃってごめんなさい。今日の活動について話しましょうか」
綾乃が場を仕切り直し、湊たちは心を切り替える。
ここからは仕事の時間だ。
「今日は引き続き前生徒会から引き継いだ書類の整理と確認。そしてみんなもわかってると思うけどもうすぐ文化祭があるからそれに関する要望の内容確認ね」
光帝学園での文化祭では有志の生徒を募り実行委員会を組織してその実行委員会を中心に回していくのだが生徒会の仕事も多い。
文化祭での出し物のルールや配置などを先生たちと話し合ってすり合わせをし、実行委員と密接に連携して円滑に準備する。
それが毎年恒例の新生生徒会の初仕事であり大仕事でもある。
文化祭で失敗した生徒会への信頼は薄くなってしまう。
物事は最初が肝心でありこの初仕事を失敗させるわけにはいかなかった。
「私と野々瀬くんと鹿倉さんは書類の整理。湊くんと天海くんもと咲姫は文化祭の要望整理でいきましょう」
「俺が文化祭のほうを担当してもいいんですか?」
「もちろん。湊くんなら絶対大丈夫だし少しでも経験を積んでほしいから。もちろん私も助けるから心配しないで」
「……わかりました」
綾乃にそこまで言われてはやるしかない。
早速二手に別れ活動を開始する。
「よろしくね〜!日和くんと天海くん!」
「よろしくお願いします、皆上先輩」
「頼りにしてますよ、先輩」
湊たちの言葉に咲姫はニッコリ笑う。
そして生徒たちの要望が入った紙がまとめられた持って言う。
「まずはどんな要望がどれくらいあるか確認ねっ!湊くんたちパソコン持ってる?」
「ありますよ」
「もちろん」
光帝学園では、というか今の高校では全員パソコンをあらかじめ入学したタイミングで買わされる。
小学生でも学校から支給されるらしいし、タブレットなど形は違えど電子機器を全員持っている。
「それじゃあそこに何がどれくらいあるか要望の種類と数を書き込んでいこう!」
「それじゃあ共有したほうがいいですね。篤、皆上先輩。メアドを教えてもらえますか?」
「ああ」
「もっちろん」
2人の学校用のメールアドレスを打ち込み共有モードにすることで全員で編集ができるようになる。
そして紙の内容を確認しながら編集を開始した。
「では確認し終わった用紙はこちらに移し分担してやっていきましょう」
「任しとけって」
「は〜い!」
湊の号令に2人で同時に返事をし、どんどん打ち込んでいく。
集中していたのと3人で協力したのがよかったのか1時間ほどでまとめ終わった。
「ふぅ〜!終わったね〜!」
「お疲れ様です」
「こいつは肩が凝るなぁ……」
篤が肩や首をグルグルと回しながらつぶやく。
そんな様子を見て咲姫は笑みをこぼす。
「頑張ってくれてありがとね。おかげで想定以上に早く終わっちゃった。ほんとは今日中に終わればオッケーだったんだよ?」
「それはよかったです」
オーバーワークになるのもよくないが早く終わるに越したことない。
しっかりと仕事ができたとの判断ならば湊としては安心するばかりである。
「このまとめた奴を他のメンバーにも転送して後日確認をしてくから取り敢えず一段落だね」
「では夕凪会長に伝えてきますね」
「ありがと〜!多分綾ちゃん準備室にいると思うから」
「わかってます。では行ってきますね」
湊は隣りにある準備室に移動すると中では3人が書類やら段ボールやらを整理していた。
「夕凪会長、こちらは終わりました」
「え?もう?随分と早かったね……」
綾乃は椅子に乗り段ボールを上の棚に置こうとしていた。
他のメンバーも丁寧に書類をファイリングしている。
「何か手伝えることはありますか?」
「ちょっと待っててね。これだけ置いちゃうから。よっと……わっ!?」
その瞬間、綾乃が体勢を崩す。
想像以上に高い位置に置こうと背伸びをしていたのが原因だった。
「危ない!」
湊は咄嗟に綾乃を抱きかかえるとダンボールが地面に落ち中の者が散らばる。
「会長!」
「だ、大丈夫ですか……!?」
2人も急いで駆け寄ってくる。
綾乃は何が起こったのか分からずキョトンとした顔をしていた。
「綾姉、無理しちゃダメだよ。もっと遠慮せずに俺を頼って」
「ぁ、あ……ごめん……」
その瞬間、綾乃の顔がボッと音を立てるように赤くなる。
この年でお姫様抱っこのような体勢になるのが恥ずかしかったのかな、と湊は見当違いなことを考える。
でも反省してほしいからこのままにしてしまおうと考えた。
「だ、大丈夫すか!?」
「こっちまで音聞こえてきたよ!?」
慌てて駆けつけた咲姫と篤は中の様子を確認して言葉を失う。
ものが散らかりその中心では綾乃を抱きかかえた湊の姿。
((え……?どういう状況……?))
二人して状況についていけず目を丸くするのだった──
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