第5話 美少女たちの女子会

「あ〜やちゃん!お昼ごはん食べよっ!」


「あ、咲姫。いいよ。教科書しまうからちょっと待っててね」


4限目の授業が終わり昼休みへと突入した今、咲姫は綾乃を昼食に誘っていた。

綾乃は咲姫のお誘いをにこやかに承諾し、4限目にやっていた数学の教科書とノートをしまい始める。

咲姫はその間綾乃の前の席の人の椅子を拝借し回転させて綾乃と机を挟んで向き合う形になる。


机に弁当を広げ、食べ始めようとすると今日はいつもと違い来客があった。

その来客に一番に気付いたのは咲姫だった。


「あれ?エリちゃんどうしたの?」


「よっす!咲姫っち」


来客は倉住絵里で人懐っこい笑顔を浮かべて立っていた。

咲姫とは仲の良い友人であり、綾乃からすれば話したことがあるクラスメイトという立ち位置だ。

仲が良いとは言えないかもしれないが仲が悪いわけでもない。


「今日のお昼ウチも混ぜてくれないかな?」


「あたしは全然大丈夫だけど……綾ちゃんは?」


「私も大丈夫よ」


綾乃としては特に断る理由もなかったので首を縦に振るとエリは嬉しそうに椅子を持ってきて座る。

3人で一つの机というのは若干狭かったが女子の弁当はそこまで大きくないので余裕で置ききることが出来た。


「それにしてもエリちゃん今日はどうしたの?いつも一緒にお昼食べてるお友達は?」


「ん〜今日は久しぶりに咲姫っちとお昼食べたくなったから今日は別々にしたんだ〜。それにかいちょーさんとも仲良くなりたかったし」


そう言ってエリは裏表の無い笑顔でニシシと笑う。

綾乃はエリの表情の豊かさや明るさが少し羨ましくなるがエリは当然綾乃のそんな思いには気づかない。

3人は揃って弁当を開けた。


「うわぁ……相変わらず綾ちゃんのお弁当は美味しそうだね〜……!」


「ほんとだ……!かいちょーのお弁当レベル高すぎ……!お母さんは料理の教室とか開いちゃってるわけ?」


「ちっちっち〜!エリちゃん、それは違うよ。これはね〜!全部綾ちゃんの手作りなの!」


「な、なんだって〜!?」


咲姫の解説にエリはオーバーリアクションで答える。

綾乃としても褒められているのはわかるので嬉しいのだがそうも大層な言い方をされると若干の恥ずかしさもあった。


「綾ちゃんそのポテトサラダ私の唐揚げと交換して〜!」


「それは別にいいけど……交換として成り立ってるの?それ」


綾乃は少し呆れたように言うが確かに弁当の交換レートとして唐揚げとポテトサラダをトレードするのは少々珍しい。

それに唐揚げは咲姫の好物だ。

一応確認のため綾乃は咲姫に聞き直すが咲姫はなんの躊躇もなく首を縦に振る。


「もっちろん!綾ちゃんのポテトサラダだ〜い好き!」


「昨日の残り物だよ?」


「それでも全然おっけー!」


そこまで言うならと綾乃は自分の弁当箱に入っていたポテトサラダを咲姫の弁当の蓋に乗せる。

咲姫は満面の笑みを見せてポテトサラダを口に入れる。


「美味しい〜!綾ちゃんの料理相変わらず美味しいね」


「そう言ってくれると嬉しいな」


「かいちょー!ぜひ私のおかずとも何か交換を!」


咲姫の笑顔を見たエリが綾乃に積極的に提案する。

その食いつき具合に綾乃は一瞬動揺するがすぐにいつも通りのクールな表情に戻る。


「ええ、いいわよ」


「やったー!」


早速二人はシュウマイとコロッケを交換する。

綾乃としては若干カロリーが気になる面々になってしまったが後で運動しようと心に決める。

昼食は和やかな雰囲気で進み、ふとエリが口を開く。


「そういえばかいちょーってどうして口調が違うの?」


「口調?」


「そーそー。咲姫っちと私で口調が全然違うでしょ?」


綾乃が素を出せているのは現状家族と湊に湊の家族、そして咲姫だけだ。

綾乃は気分を害したかもしれないと思いエリに頭を下げる。


「不快にさせてしまってごめんなさい。倉住さんが嫌だから距離を取りたいとかそういうことじゃないの。ただ昔からの癖で……」


思い出すのは小学生の頃。

思えばこうして2つの仮面を使い始めたのはあの頃からだろうか。

湊や咲姫がいてくれるし無理して取り繕っているわけでもないので本当にただの癖だ。


「ふ、不快とかそーいうわけじゃないよ?ただふと気になって聞いただけだから頭上げてよ」


「そ、そう?」


そう言われて綾乃は頭を上げるとエリは屈託なく笑う。

咲姫もそうだがこうやって笑顔を絶やさないのも人気の理由の一つだろう。


「私も綾ちゃんと出会ったばかりの頃はこんな感じの口調だったよ、エリちゃん」


「あ、そうなの?」


「うん!最初の頃の綾ちゃんはクールで、カッコよかったなぁ……」


「ふふ、なにそれ。今の私は駄目ってこと?」


「そんなわけないじゃん!今の綾ちゃんはすっごく可愛いよ〜!」


「わっ!?」


咲姫が箸を置いて綾乃に抱きつく。

食事中に行儀が悪いが綾乃は怒る気になれず苦笑しながら頭を撫でた。


「ほら、食事中でしょ。咲姫が食べないなら私が全部食べちゃうよ?」


「あ〜!それはダメ〜!」


咲姫はパッと綾乃から離れ咲姫の母が作ったであろう弁当を心から幸せそうな顔で食べる。

こういう素直で純粋なところが咲姫への心を簡単に開けた理由かもしれない。


「でもまあ咲姫っちも最初はそうだったってことはウチも仲良くなれればチャンスあるってこと!?」


「え?それはまあ……」


綾乃としては仲が良い人を選んで素を出しているつもりは無いが落ち着けたり信頼できる人が相手だったらあっさりと素が出てしまう。

そういう意味ではエリの言っていることは正しい。


「やったー!じゃあかいちょーもっと仲良くなろ?ウチも可愛いかいちょーを見たい!」


「えぇ……」


そういう理由はどうなんだろうかと思ってしまう。

綾乃としては自分で意識してやっていることではないので可愛いと言われてもピンと来ない。


「適度な感じでお願いね」


「えっへへー!任せて!」


エリはサムズアップする。

そして綾乃に貰ったシュウマイを口に入れると目を丸くした。


「うわ……!美味しい……!」


「でしょ〜?」


「なんで咲姫っちが自慢げ……?」


美味しいと言ってもらえて綾乃の心はジンと温かくなる。

料理を作って美味しいと言われれば嬉しくない人はいないのだ。


「どうしてかいちょーはこんなに料理上手なの?女子力というかもはや主婦力の域で料理上手なんだけど……」


「そんなの好きな人食べさせたい人がいるからに決まってるよねっ」


「……!?ちょ、ちょっと咲姫……!」


エリの前で何を言うのかと綾乃は慌てる。

ギャルで友達も多くそういった人の機微に聡いエリはその反応だけでどういうことか理解してしまった。


「え、なになに!?それめっちゃ気になるんだけど!」


「か、家族……!家族だから!」


湊とは家族のように育ってきているのであながち間違いではない。

その回答に周りの男達が密かに安堵の息を漏らすのだが、3人は気づかない。


「え〜?怪しいな〜?」


エリはニヤニヤと楽しそうに笑って追撃する。

しかしそこは綾乃も生徒会長。

簡単には崩されなかった。


「さて、どうでしょうね?」


「教えてくれないの〜?まあ今日はこの辺にしておこっかな。あんまりしつこくしてかいちょーに嫌われても嫌だし」


エリの追撃が終わり綾乃はホッとする。

しかし中々話したことのないエリですらすぐに気づきそうになったのにどうして湊は全然気づいてくれないのか。

揶揄われかけた綾乃は内心湊に対して拗ねたのだった──

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