第2話 親友と先輩
(この学校はいつ見ても大きいよなぁ……)
秋の少しずつ冷たくなってきた風が吹く校門の前で一人の男子生徒が校舎を見上げ心の中で呟く。
今目の前に建つ綺麗な校舎を擁するこの学校は光帝学園。
県では有名な学校でありその男子生徒も約半年前の春からこの学校に通い始めた一年生だ。
「み〜なとっ!」
「わっ!?」
考え事をしている途中で突然肩を組まれ驚きの声を漏らす。
驚きの声を漏らした男子生徒──
「おはよう、篤。朝から元気だね」
「おはよ。元気というか別にいつもと変わらないだろ?」
そう言って屈託のない笑顔を見せる男子生徒──
二人は中学の頃からの親友で一緒にこの学校に受かったのだ。
「それにしてもどうしてこんなところでぼーっと突っ立ってたんだ?中入らないのか?」
「ちょっと考え事をね。もうすぐ時間だし入ろうか」
「ああ、そうだな」
腕時計が指し示す現在時刻は8:00。
校則によって定められた着席時間まではまだ30分以上あるのでまだあまり生徒は来ていない。
それでもこの二人がこの時間に来ているのにはある理由があった。
「さーて、始めますかね」
「うん。そうだね」
カバンを端の方に置き、肩からタスキをかけて校門の隣に立つ。
そして登校してきた生徒たちに挨拶をする。
「おはようございます」
「おはようございま〜す」
挨拶をすると大抵の人はちゃんと返してくれて気持ちが良い。
湊は笑顔を浮かべながら挨拶をしていった。
そのまま挨拶を続け、生徒の波もある程度収まってきた頃、篤は湊に話しかける。
「それにしてもこの学校って挨拶運動あったんだな」
「今まではなかったけど去年の生徒会長が復活させたらしいよ。挨拶の習慣がついて地域住民からの評価も良くなったって先生が喜んでるらしい」
「かーっ!真面目だねぇ」
「篤だって生徒会に入ってるんだから真面目な生徒の部類でしょ」
そう、二人は生徒会に属しており、今日は挨拶運動の担当の日だったのだ。
挨拶運動自体の頻度も多すぎるということは無いし生徒会役員に負担がかかりすぎることもない。
湊からすればみんな気持ちの良い挨拶を返してくれるし中々良い制度だと思っている。
「俺はお前が入るって聞いたから入っただけだ。こんな不純な動機で真面目もクソもないだろ?」
「ちゃんと仕事してるんだからやっぱり篤は真面目だよ」
「かっかっか。そうか。まあでも朝からいろんな生徒の顔が見れるのは結構良いよな。可愛い子がいないか探せるし」
「あはは。せっかく感心してたのに篤はすぐにこれなんだから」
篤はイケメンの部類、というかイケメンそのものだし身長も高く女子からモテることも多い。
実際に付き合うかは別問題としてこういって可愛い娘を探して「あの子可愛くね?」と聞いてくるのはもはや定期である。
相変わらずの篤に湊は苦笑いで返す。
「お前だってモテるんだからもうちょっとくらい興味を示したっていいんじゃないか?」
「俺は別にモテるわけじゃないよ。ただ身近な人に篤や会長がいるからその空気に当てられてるだけじゃないかな?」
「お前本気で言ってんのか……?いや、お前はこういう奴だったな。アプローチした奴ら可哀想に……」
「質問してきておいて自己完結しないでほしいんだけど」
本当にモテるわけじゃないのに、と親友に向かって言いたくなる湊だが再び生徒たちが登校してくるのを見て説明を諦める。
そして笑顔を浮かべて挨拶をする。
「おはようございます。皆さん」
「あ、ふくかいちょ〜じゃん!おはよ〜!」
「あはは、おはようございます。先輩」
なぜ、一年生である湊が副会長と呼ばれているのか。
それにはこの学校の長年続く特殊な伝統があったからだった。
この光帝学園では自由な校風のために生徒の自主性を重んじられており生徒会も流石に先生ほどではないがある程度の権限をもらっていたりする。
そのためいざ会長になったときに困らないように、生徒会長に一番身近なところで経験を積むという名目で副会長は一年生が務めるのだ。
湊はつい先日行われた生徒会選挙に勝ち上がり晴れて副会長に任じられたというわけである。
「ふくかいちょーの仕事って大変じゃないの?湊っち」
「会長や先輩たち、役員のみんなも助けてくれますしなんとかやれてますよ」
「あはは〜!優等生として百点満点の回答だね!」
目の前のギャルの格好をした先輩──
金に染めた髪は心なしか楽しそうに揺れ、女子にしては高い168センチある彼女も177センチある湊と並べばちょうど良い身長差で傍から見ればお似合いの美男美女カップルのようだった。
「後輩クンもふくかいちょーを見習ってちゃんと頑張るんだよ?」
「ちょっ!倉住先輩俺と湊で対応違いすぎませんか!?」
「う〜ん、ふくかいちょークンくらい頼りがいが出てきたら考えてあげてもいいよ?」
「これまた随分無理難題を……」
篤ががっくりと肩を落とすのを見て絵里は楽しそうに笑う。
この三人は中学時代の先輩後輩という関係だった。
そんな関係が高校に入った今でも続いておりたまにこうして話しかけてきてくれるのだった。
「篤は面倒見いいほうじゃない?子どもにもよく好かれてるイメージあるし」
「それはやんちゃ盛りの幼稚園とか小学生の野郎どもに対してのみだけどな……それにtheお人好し、気遣いの塊のお前がそれを言うか……?」
「どっちが良し悪しとかじゃないし小さな男の子に好かれるのもすごいことだと思うけど」
湊がそう言うと篤と絵里は揃ってため息をつく。
二人はコソコソと湊に聞こえないように話し始める。
(こりゃあダメだね〜)
(そうなんすよ。小中とどれだけの女子を泣かせてきたんだか……)
(そうだろうね……)
(昔小学校のとき手伝いで幼稚園に手伝いで行ったら何人か顔赤くしてたんすよ?)
(うわっ!完全な初恋キラーじゃん……それで自覚無しって一体どうやったらそんなふうに育つわけ……?)
「えっと……二人とも?」
完全に蚊帳の外に置いてけぼりにされた湊はどうしていいかわからなくなる。
篤と絵里は秘密の会話を終え、湊と向き合った。
「別に〜?」
「湊は相変わらず湊だなって話をしただけだ」
「俺は相変わらず……?」
篤と絵里の言葉は意味はわからない。
だけど悪口を言われたわけでもなさそうなので湊はスルーすることにした。
「ま、そういうわけでウチはこれくらいで失礼するね。二人とも挨拶運動頑張って〜!」
「はい」
「またな〜!先輩ー!」
絵里は手を振りながら校舎に向かって走っていく。
学校内でも美人で有名な絵里がずっと校門にとどまって湊たちと話していたものだからいくらか視線が集まっていたみたいだがそんな人だかりも徐々に消えていった。
「いやぁ、全く倉住先輩にも困ったものだな」
「そう?先輩は優しいと思うけど?」
「それはそうだけどな。だけど俺へのからかいがちょっと多いんだよな……なんというか遊ばれてるって感じで」
そう言われて湊は今までのことを思い出してみる。
そんなことはないだろうと否定するつもりだったが意外と心当たる部分があったので静かにそっと篤の肩に手を置いた。
「……気に入られててよかったね」
「それフォローになってないからな!?」
そんなこんなで篤とたまにじゃれ合いをしながら挨拶運動を続けていくと二人の女子生徒が
湊は篤と顔を見合わせて苦笑した。
「来たみたいだね」
「ああ。相変わらずの人気っぷりだな。あの二人は……」
篤の言うその二人こそ、光帝学園が誇る二大美女の二人だった──
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