幼馴染であるみんなの憧れの美人でクールな生徒会長は俺に話しかけるとすぐに顔が赤くなる
砂乃一希
第1話 幼馴染の想い
「夕凪会長!好きです!付き合ってください!」
人気の無い校舎裏。夕焼けの赤みと共に一人の男子生徒が告白をする。
普通の学校ならば校舎裏はゴミが多かったり汚かったりと告白のムードもへったくれもない場所だがこの学校は違う。
光帝大学という有名な大学の付属校であり偏差値67を誇る進学校でもあるこの学校は様々な進路先を選べたり自由な校風もあって人気の学校であり数多くの学生がこの学校を目指すことだろう。
治安もよく清掃員もかなりの数が雇われているため、普段人があまり通らない校舎裏ですらもゴミ一つ残っておらずその告白は幻想的でムードたっぷりのまるでドラマに出てくるような告白であった。
しかし──
「ごめんなさい、私はあなたと付き合うことはできません。今は生徒会の仕事が忙しいから恋愛をするつもりはないんです」
呼び出されていた女子生徒──
高校に入学してから告白を受けた回数はとうに二桁を超えておりそのたびに繰り返してきた光景。
告白してきた男子生徒を傷つけないよう丁寧に断ってから綾乃は校舎へと戻る。
今日は生徒会の仕事が無い日だったのでそのまま教室に戻ると一人の女子生徒がこちらを見てニヤニヤしていた。
「もう、何笑ってるの。咲姫?」
「相変わらず綾ちゃんはモテモテだな〜って思って。今日も告白されてたもんね。断り方もすごく丁寧でお相手さんも気持ちを伝えられてすっきりしてたし」
そう言って屈託のない笑顔を向けてくるのは
綾乃と並んで学園の二大美女と呼ばれ、地毛である少し天然パーマ気味の茶髪をポニーテールに結んでいるゆるふわ系の美少女。
2人は高校で知り合ってから意気投合し、咲姫は親友として、そして書紀として生徒会長である綾乃を支えている。
そんな親友からのからかいのような言葉に綾乃はため息をつく。
「もう……見てたの?」
「えへへ、見る気は無かったんだけど声が聞こえてきちゃってつい」
確かに校舎裏はこの教室の下であり窓が開いていれば声は聞こえてくるだろう。
親友に告白の場面を覗かれていたと知って少し気恥ずかしい気持ちになった。
「あまり見ないでよ……恥ずかしいから……」
「もう慣れちゃったんじゃない〜?綾ちゃんは学校一モテモテだし告白され慣れてるでしょ?」
「咲姫がそれを言うの……?咲姫だって相当の数、告白されているでしょ?」
咲姫は紛れもなく美少女であり隣に夕凪綾乃という美少女がいるにも関わらず輝きを放ちフレンドリーな明るい性格で男女両方から好かれている人気者。
告白だって当然たくさんされるわけで綾乃はつい先週咲姫が告白されたことを知っているだけに少し呆れてしまう。
「あたしのことは今は別にいいの〜!それより綾ちゃんでしょ?」
「そんなこと言われても……慣れるわけないでしょ。断るのだって気を遣うんだから」
「本当に綾ちゃんは優しいよね。クールでカッコいいのに優しいなんて綾ちゃんに告白した男の子たちは見る目あるね〜」
「もう……ほんと調子いいんだから」
「えへへ〜!ごめんごめん」
咲姫はちろりと舌を出す。
ウインクしながらあざとくテヘペロをする親友はすごく画になっていて綾乃はため息をつくことしかできない。
だがこの明るさに何回も救われてきただけにやはりどこか憎めないのだ。
「とにかく、そろそろ帰らない?」
「うん!帰ろ帰ろ〜!」
咲姫はカバンを持って綾乃の隣に駆け寄る。
2人で一緒に登下校をするのも友達になってからずっと繰り返されてきたことであり2人の日常。
今日もまた例に漏れず一緒に下校をする2人であった。
夕焼けの下、2人は並んで帰路につく。
「それにしても『生徒会の仕事が忙しい』か〜」
「まだその話するの?もう終わった話なんだし別に良いでしょ」
「え〜!なんでよ〜!花の女子高生なんだから恋バナしようよ〜!」
咲姫の今日一番のニヤニヤに綾乃は嫌な予感しかしていない。
こういうときは間違いなくからかわれる時だと1年半ほどの付き合いから理解しているのである。
「確かに今の時期は上の代から仕事を引き継いだばかりでバタバタしてるところはあるけど付き合う時間がないほど忙しくはないよね?」
「ちょうどいい断り文句があったから使っただけだよ。それに忙しいのは事実だし」
「素直に好きな人がいるって言っちゃえばいいのに〜!」
咲姫からの突然の爆弾発言に一瞬綾乃が固まる。
そして言葉の意味を理解すると頬が徐々に赤みを帯びていった。
「な、なんの話をしてるの?ちょっと言ってる意味がわからないよ」
「そんな恋する乙女みたいな表情しながらよく誤魔化そうとしたね……。素直じゃないと彼のこと取られちゃうよ?私も知り合ったばかりだけど彼は絶対にモテるでしょ。昨日あたしの友達も気になってる〜って言ってたし」
「か、彼って誰のこと?」
咲姫はカマをかけているだけであってまだそこまでバレてはいないはず。
そう綾乃は予想してしらを切る。
しかしそんな抵抗もこういった恋愛事が大好物である咲姫には通用しなかった。
「もっちろん生徒会室でいつも綾ちゃんが乙女の顔を晒してる旦那さんのことだよ!」
「み、湊くんは別に旦那さんじゃないよ!それにそんな顔を晒してなんか……。あ…………」
綾乃は遅れながらも自分の失態に気づく。
咲姫は先程『生徒会室でイチャついている旦那さん』と言ったのであって名前は出していなかった。
にも関わらず自分から『湊くん』と名前を出してしまった。
盛大な自爆に顔の熱は更に増していく。
「い、いつから気づいてたの……?」
「彼と一緒にいた綾ちゃんを見たら一発でわかったよ?幼馴染なんだっけ?」
「な、なんでそこまで知ってるの!?」
もう完敗である。
ここまで知られていたら綾乃に抵抗の術は残されていなかった。
「もう日和くんを見る目が完全に乙女の顔だったよね〜!」
「うぅ……恥ずかしい……」
恋する乙女の表情というのがどんなものかはわからないがともかくバレていたらしい。
そのことを理解した瞬間綾乃の頭に最悪のケースが浮かぶ。
まさか湊くんにも自分が好きなことがバレているのではないか、と。
「その……みんな私が湊くんのこと好きだって気づいてる……?」
「気づいてるのは生徒会の察しがいい子くらいだと思うよ。日和くんは気づいてないんじゃないかな。さっきあんなに簡単に言っちゃってすごく不安になったけど」
「そ、そう……」
最悪のケースは免れたことで綾乃は胸をなでおろす。
でも本当は心のどこかでわかっているのだ。
このままじゃダメだと。
綾乃の幼稚園に入る前からの幼馴染であり副会長として綾乃を補佐しているのが湊だ。
ルックスもよく本人のスペックも高くて気遣いもできる。
咲姫の言う通りモテない要素が無くいつ誰に取られてしまってもおかしくはないのだ。
「アタックしてみたら?」
「っ!」
まるで心の内を言い当てられたかのような咲姫の言葉に綾乃の心臓が跳ねる。
でもそれができたら最初から苦労なんてしていない。
そんなふうに少し拗ねながら咲姫を見つめる。
「あはは、そんな顔しないで〜!あたしは綾ちゃんに後悔してほしくないだけなの」
「後悔……」
「そう。このまま何もできずに日和くんが誰かと付き合い始めたら綾ちゃんは後悔しない?」
「それは……」
綾乃の頭に思い浮かぶのは知らない女の子と湊が仲良く並んで歩くその姿。
ただの想像なのに猛烈に悲しくなりなんとも言えない喪失感が心の内を占めた。
「後悔……すると思う」
「でしょ?もしフラれちゃったりして落ち込んでる綾ちゃんは見たくないけど後悔している綾ちゃんを見るのはもっと嫌なの。だから後悔のない選択をしてほしくて」
そんな親友の言葉で綾乃の心に小さな勇気の炎が灯った。
綾乃は少し控えめな胸の前で小さく拳を握る。
「わかった。頑張ってみる……!」
「うん!あたしも協力する!」
2人は顔を見合わせて笑い合う。
その光景は美しく通りかかった人たちが思わず足を止めるほどであった──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます