人魚の喰ふ

とうふう

第1話

人魚は静かに貪る。

柔らかな真珠を二つ。




それが私の元に流れ着いた。

その二人は腕を互いの背中へまわし、離さず沈んで、とうとう此処に流れ着いたようだった。

私は野暮な事だとは分かっていたけれど、二人を少し引き離して、同時に二人の表情を見た。実に悲しく、哀れだと思った。彼等の愛は、きっとその世界では認められなかったのだ。だから、こうして此処まで逃げてきたのだろう。

私は彼等の指を喰った。

親兄弟にも許して貰えず、世間からも後ろ指を指される。二人だけの孤独を、この海で分かち合いたかったのかもしれない。そう思いながら、親指、人差し指、中指、と交互に二人の指を噛み千切り、飲み込む。

神はきっと、最初から彼等に幸せな結末など用意していなかったのだろう。

最後に小指を喰った。

美味いとか、不味いとか、そういう事は考えもしなかった。ただ、彼等にはそれらが要らないと思ったので喰った。

彼等に唯一、薬指だけは必要だろうと、飛ばして残しておいた。彼等の薬指と薬指を繋ぎ絡ませて、また二人を向かい合わせた。

そのまま二人を底の見えない溝へ、そっと突き落とした。

永遠に二人きりで、深く深く沈んで行けばいい。そこは新月の夜よりも暗く、降りしきる雪の日よりも寒い場所。

だけれど、二人が最も望んだ場所であると思い、私が用意した彼等の結末だった。

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人魚の喰ふ とうふう @toufuu_

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