猛烈ハッピーエンド。
「え、雪柳……お前、本気で言ってる? ガチで? ドッキリとかじゃなくて……?」
「な、なにが?」
雪柳が困惑している。
その様子に流石に引いてしまった。
「……お前、それはないって」
ダウンを羽織り直す。気分が悪くなってきた。このまま帰ってしまってもいいかもしれない。
俺は雪柳のことが好きだ。
だけど、こんなことをするような人間であるなら軽蔑する。
食いしん坊でドジで子供っぽくて、突発的に変なことをやり始めるし、だけどそこには純粋さがあって、とても一途で鈍感で、俺の気持ちにも気が付かないで「ユズル先輩LOVE〜♡」とひたむきに突っ走るそんな一生懸命なところが好きだった。
だから、応援してやりたいと思った。
メインヒロインにするという作戦にも協力してやろうと思った。
だけど、こんなことをするだなんて見損なった。
いくらなんでも擁護できない。
「……気分悪ぃわ。帰る」
「え!!? なんでっ!? 米吉くん待って!」
立ちあがろうとしたが、腕を引っ張られた。
泣きそうな顔で「んーっと……」と苦笑している。そんな悲しそうな顔をされたら、こっちも悲しくなるので、黙って座り直す。
女子の涙には弱い。
「……あっ、えーっと……米吉くんはその……」
雪柳があわあわしている。
「ユズル先輩って人と仲がよかったの……? え、えーっと……前に話してくれたことあるのかな? わ、私その話をあまりよく覚えていなくて。ご、ごめんねっ! 今から思い出すね……んーと」
彼女が頭をひねっている。
俺は「はぁ」と水を一杯飲んで「ふぅ」と気持ちを落ち着かせることにした。
この様子だと雪柳が嘘を言ってるようには思えない。そもそも彼女は嘘が下手だ。何かを誤魔化そうとバレバレの嘘をつくときでもすぐに顔にでる。それが可愛くて、嘘に乗ってやるときはよくある。
そもそも、彼女がそんなことをするわけないと分かっていたのについつい感情的になってしまった。
あれだけの想い人から俺に乗り換えておきながら「えっ、誰?」なんて皮肉を溢して、過去の自分を抹消させようだなんて、そんな小賢しい真似をするわけがないのだ。そんな性格の悪い女の子だったら絶対に好きになっていない。
なればーー
信じられないことが起きているのかもしれない。
「──雪柳、ちょっと目を瞑ってろ」
「えっ!?」
頬を赤らめる雪柳。
俺はテーブルから身体を乗り上げて、前の席でちょこんと座っている彼女の、その赤らめたほっぺたをギューっと摘んだ。
急なことに腕をジタバタさせている。
「どうだ?」
「……うぅ……痛いっ……」
虫歯の治療が怖くて歯医者で泣いている小学生女子みたいに涙目になっている。
「よし、俺にもやり返していいぞ」
「米吉くん……どうしちゃったの……。ほっぺ痛いよ……」
「ごめん、俺が間違ってた。強くやって良いぞ」
「やだよ……優しくする。自分がされて嫌なことを他人にやりたくないからっ」
宣言通り、雪柳は俺の頬を優しくつねっていた。
あまりにも弱々しい力だったので、ほうれい線がびよんと伸びただけだった。
どうやら夢でもなんでもないらしい。
「ありがとう。そして本当にごめんな、雪柳。全部俺の勘違いだった」
「……勘違い?」
「うん。お前は何も悪くない。そして──ずっと言えなかったけど、お前のことが好きだ!大好きだ!! 他人のことを思う優しい気持ちがあるところが本当に好きだ!!!! 今の一連のやり取りでますます惚れた! お前への愛が止まらない!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ふぇ? えっ、ええええええええ!!!!??」
「さっきお前に告白されてテンパったけど、男の俺から改めて言わしてくれ! 雪柳 愛さん!! あなたのことが好きです!!俺と付き合ってください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
立ち上がって、大きく頭を下げた。
おまけにデカい声まで出した。
近くを通った店員さんがポカンと俺らのほうを見ていた。
「わ、私で良ければ……!よ、喜んでっっ!!!!」
彼女が居酒屋店員みたいな返事をした瞬間、周りのお客さんたちが拍手をし始めた。
拍手喝采、スタンディングオベーション、ヒューヒューと鳴り響く口笛たち。
ファミリーレストラン『ガスト』
2月4日(水)午後18時25分。
テーブルNo.8
注文品は「ドリンクバー」と「ポテから」。
こうして俺、米吉 徹平と雪柳 愛は──晴れて結ばれ、カップルとなったのである。
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〜Happy Ending〜
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