第39話 少女の母

「少女さんや。また何か?」

「そう、なんです……飲んだ後は元気だったんですけど、朝起きたらまた戻っちゃって……」


そうなのか。

エリクサーは病気や状態異常、HPの減少を全て直すので、その他となると栄養失調だろうか。


「ねぇ、君は料理できる?」

「ちょっとだけ……」

「よし、市場に行こう。」


でもこの見た目だとちょっとあれか?


「おばちゃん、髪質をよくする薬ある?あとはさみ。」

「ちょっと待ってなね。」


エリクサーを買った店でまた薬を買いはさみを貸してもらう。

てか髪質をよくする薬ってピンポイントだな。誰が作ったんだろう。


「これで良し。」


前髪ぱっつんのボブカットだが前よりはずっといいだろう。


「あ、ごめん勝手に切っちゃった。大丈夫?」


小さくコクリとうなずく少女。


「じゃ、服を買いに行くよ。」


すぐ近くの服屋に入り子供用の服とこの子の母親の分の服を買った。

宿屋で井戸を貸してもらい、少女の体を自分で洗ってもらい、水の入った桶をインベントリにしまう。あと布巾も。

買った服に着替えれば、あら不思議。


「ほら、もっとかわいくなったね。」


少しだけ目が輝いているように見える。

着替えた少女と一緒に本題の市場に繰り出す。


「君のお母さんはそれまでご飯を食べれてた?」

「ぜんぜんです……」

「わかった。なら重湯ぐらいがいいのかな。」


ファンタジーによく出てくる重湯とは水分マシマシおかゆの上澄み液のこと。

中世ヨーロッパ風なので売ってるか心配だったが米を無事入手。

着替えるのも面倒なのでお互いそのままの格好でスラムへ向かう。

少女はほんの少しだけ怯えていたが、無理はない。


「こうやって襲ってくるんだもんな。回し蹴り。」

「ぐひょっ!」


尋常じゃない目のつけられ方をする。

注目する人は変装時よりとてつもなく増えており、ほぼ全員がこちらを見る。

衝牙を構えて威圧しまくっているので襲われるのはたまにだが、怖い思いをさせて……って、別にゲームだったわ。リアリティの余り忘れそうになる。

ただ今後の関係値に影響はあると思うので、極力無いようにしよう。

縄をインベントリから取り出し、落ちていた角材を使い豚の丸焼きのような感じでさっき蹴った男をくくる。

そしてそれを肩に担げば威圧感アップという寸法だ。


「うん。重いけどいける。」


襲われるよりこっちの方が良いだろう。

それからは視線を外されることが多くなり、向かってくる大馬鹿も棒をちらつかせればやはり逃げていく。

そんなこんなで少女の家の前に着いた。


「ただいま、おかあさん。」


ベッドに横になり、無言で口だけを動かす目の前の女性。悲しそうな眼をしている。


「おかあさん、この人がエリクサーをくれた人だよ。」

「コルクラニアです。こんにちは。」


目を見開き、頭を下げる母親。話せないのかな?


「なあ少女……さすがにこの呼び方はやめるか。名前は?」

「ルミナ、です。」

「OKルミナちゃん。君のお母さんは元から喋れない?」

「いえ……具合が悪くなったのと同じ時です。」


本当に栄養失調か?これ。


「お母さん、食欲は?」


首を横に振るルミナの母親。

一応作るだけ作っておくか。

おかゆって米炊くんだっけ?まあいいや。

かまどに火をつけようとしたその時、


ドサッ


「おかあさん?おかあさん!?」


☆☆☆


「NPCに呪いなんて掛ける酔狂なプレイヤーはいないよ。この様子じゃ殺人エフェクト着くかもだろうし。」

「じゃあNPC同士、ってことですか?」

「そうだね。回復したら聞いてみるといい。」


リバース・スターのヒーラー、マリアンゲールさんにルミナの母親の治療をしてもらった。聖母マリアとナイチンゲール……ヒーラー特化すぎる名前だ。

空間接続の連続使用で倦怠感すら感じる。


「とりあえずここにお水とお米置いておくね。必要だったら使って。」


今日のところはログアウトして寝よう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る