第38話 エリクサーを求める少女
「暇だなぁ。」
クランの館に大穴を開けてから数日、対抗戦であるレイドバトルの日も少しずつだが近づいてきている。
前にグロウィスとネックレスを買った王都の大通り、相変わらず人は多い。
たくさん路地があるが、そちらの方は人が少ない。特に細い路地は。
そんな中、一人のプレイヤーがかなりみすぼらしい格好の少女と話している。
「エリクサー?そんなん買えねぇよ!」
「お、お願いします!おかあさんを助けたいんです!」
「はー、やめだやめ!そんな大金お前に賭けられるわけないだろ!」
うわ、乞食レベル99だ。
エリクサーとか現実で車が買える値段だぞ?
伝え方が悪いよね。ここのプレイヤーなんて損益でしか考えないでしょ。
ゲームだし人助けが称賛されることもないしな。
「おばちゃーん、エリクサーある?」
「エリクサーね。ちょっと待ってなね。」
無事購入。
「おーいそこの少女ー。」
「ひっ!?な、な、なんですか……?」
「ほいこれあげる。じゃ。」
「え……?」
「おかあさん、治るといいね。」
呆然と立ち尽くす少女。
たまにはいいことをするのもいいよね。
ふんふんと鼻歌を歌いながら大通りを歩く。
そういえば、貧乏以外に理由がありそうなみすぼらしさだったな。
服はほぼぼろ布で髪の毛は切れ味の悪い刃物で切った感じもするし痛んでいた。
ひょっとしてスラムの住人か?
王都には路地のそのまた路地のまたまた路地ぐらいの場所にスラム街ができており、そこはレベル35ぐらいの一般プレイヤーが行っても数の暴力で身ぐるみはがされるレベルでお金に飢えた人が多いらしい。これまたグロウィス情報。
「あー、スラムだったらエリクサー盗まれるか。」
もしそんなことがあったら腹立つな。
「よし、戻ろう。空間接続。」
ギリギリ目視で来たのであっという間にさっきの路地の前。
「おーい、少女やーい。」
水たまりなんかがあるから足跡が残ってる。
それをたどっていけば少し開けた場所に出た。
「返して……!」
「あ?この世界はなぁ、弱肉強食なんだよ!別にお前が死んだところで兵隊は動けねぇしな!お前を助けに来るもの好きもいねぇ。ま、たけぇ勉強代だ。」
「返してよ……っ!」
「いちいちうるせえなぁ!え!?こいつはもう俺のもんだ!」
うわー。典型的ー。
「運命感じるね。」
「あ?誰だお前?」
「毒染め。空間圧縮。」
「何言って、がはっ!」
エリクサーを取り落とす男。
「空間接続。ほいドンピシャ。」
空間接続を使い手のひらの上にエリクサーを持ってくる。
「てめぇ、何しやがる……」
「気まぐれだよ。本日二度目のね。」
「わけ、の、わ……」
「毒まわってきた。もったいない、エリクサー落とさなけりゃ動けたのにね?」
どんどん動きが小さくなっていく男。
今回は衰弱じゃなく麻痺だ。殺しはしない。
「じゃあ少女ちゃん。護衛するからお母さんのとこまで連れてって。」
あ、せっかくだし住人に成りすますか!
☆☆☆
「これで良し!」
先ほどの男をぶん殴って気絶させて服をはぎ取りました。
衝牙は質がいいのが一目でわかるのでインベントリ、代わりにゴブリンが持っていた錆びた剣を手に握っている。
威圧をするためにこれを持っている。襲われたら衝牙を出す。
「複雑そうな顔だね。」
「おじさん……大丈夫?」
「いや、だめ。君と違って未来ないし人のもの横取りするのは普通にクズだから。」
「……そっか。」
しばらく止まった後、少女はゆっくり歩いていく。
ちらちら見てくる奴こそいるが来る奴はいない。
エリクサーは見えないようにインベントリに隠してるし、見た目だけならスラム街の住人だ。髪の毛とかも泥水で汚したし。
「着いた。ここです!」
「そうか。はいこれ。治るといいね。」
「ありがとうございました!」
「気にしない気にしない。ただの気まぐれだから。」
空間圧縮を使いまくってすぐさま離脱した。
いやー人助けはいいものだね!
☆☆☆
二日後、また路地で立ち尽くすあの少女がいた。
「いやまたかよ。」
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