第24話 変身前に叩く

結論から言おう、抜刀術スキルは習得できなかった。

あくまで仮の話だが、正しい形と正しい武器じゃないとスキルが習得できないとかなんだろう。

このゲーム、スキルなどの条件が複雑なのと、一部のプレイヤー、クランが情報を秘匿しているためネットで調べてすぐに習得、というわけにはいかない。

抜刀術程度なら載っていたが、条件は「刀系の武器を抜刀した勢いで敵に攻撃をヒット」だった。おおむね予想通り。

覚えれば片手剣でも使えるが倍率が著しく下がるらしい。

抜刀術こそ覚えられなかったものの、乱れ切りというスキルを覚えられた。


乱れ切り

アクティブスキル

連続で相手を切りつけると威力、攻撃速度が上昇していく。発動途中で妨害を受けると失敗する。


強いかと言われればそうでもないし、弱いわけではない微妙なスキルだ。

王都グロリアスにはスキルを教えてくれる道場的な場所があるみたいなので早めに行っておきたい。そろそろ想像力の限界がきている。

何体かモンスターを倒したので街に戻る。

門をくぐり、人気のない霧のかかる道を歩く。

誰もいない街、僕の足跡だけが響く……わけでもなく。

少し離れた場所から金属が強くぶつかり合う音と悲鳴が聞こえる。

結構激しくやってるみたいだ。


「店に売ろうにも人がいないからできないんだよなぁ。」


関係ないので無視しよう。

ちょうど道の分岐になっている場所で紫ローブの集団と5人ほどのプレイヤーが争っているのを見てしまったが、触らぬ神に祟りなしだ。


「いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


向こうの方からものすごい大きい声が響いてきた。


「なんですかー?」

「コルクラニア!間違いない!なぁ、あのクエスト俺たちも出たんだ!一緒にぶっ飛ばしに行こうぜ!」

「いったん落ち着こう。はい吸って~。」

「すうぅぅぅぅ……」

「吐いて~。」

「ふうぅぅぅぅ……具体的にはいつやるんだ!?」


深呼吸したはずなのに勢いが変わっていない。

この人は多分素でこういう人だ。

プレイヤーネームは「bloodbread」。なんか物騒だけどふざけた名前だな。


「日時決めてないんだよ。もうちょっと待ってこのクエストしたい人が集まってからじゃない?」

「そうか!これ俺のIDな!決まったら連絡してくれ!」


ウィンドウにIDが出たのでチャットアプリに打ち込んでいると、


「お前らか!最近我々を侮辱しているというのは!」


装飾付き紫ローブとその取り巻きが出てきた。

殺したやつとは違い、取り巻きがなんか強そうだ。

剣やらナイフ、槍まで持ってきていて、体格も幾分か良い。


「仲間の仇、取らせてもらうぞ!」

「毒染め。空間接続。」


リーダーっぽい装飾ローブの周りにはなぜか空間があったのでそこに移動する。

ちょうど真後ろだ。

毒染め状態の衝牙で背中を二回切りつける。


「空間接続。」


初めに立っていた場所に紫ローブと一緒に移動する。


「ごめんなさいって言わないとこいつが死にまーす。」

「なんか、お前思ったよりひどい殺し方するんだな!」

「まだ死ぬかわかんないからよくないよブラッドブレッド。」

「あー、適当に略してくれていいぞ!」

「あーそう。ブレッドってこれから呼ぶね。」


たわいもないおしゃべりの間に何人かが雄たけびを上げながら突っ込んできたがブレッドのハンマーの一撃で粉砕されてった。


「く……教祖様!万歳!」


装飾ローブは碌に動けないだろう体を震えさせながら懐から少し前にジーナのクエストで見た数珠を取り出している。


「斬首。はいさよなら。これも割っとくね。」


ルール違反ではあるが変身途中に斬首、気味の悪い数珠も踏みつけて割った。

こいつが数珠を持っていたこと、同じセリフを吐いたことであのダインとかいう商人はこの解真教だかの関係者ということになる。

ストーリーないとか言われてるけどしっかりあるじゃんこのゲーム。

ブレッドはいつの間にか敵を壊滅させていた。



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