第4話 現実でできないことを
またもや30匹近くゴブリンを狩り、森の奥まで入ってみることにする。
草の背も高くなっていき、整理も何もされていないうっそうとした森。
出てくる敵は3~5体のゴブリンの群れに黒い犬。
ゴブリンの装備も錆びた片手剣や錆びたナイフ。
街道沿いよりもナイフ持ちがポピュラーになっている。
ゴブリンの流行の最先端は森の奥らしい。
木の裏に隠れながら石を拾い上げ5体のゴブリンの群れの近くの岩にぶつける。
すぐにまた木に隠れ、全員が岩のほうを向いた瞬間に、
「空間圧縮!」
一歩で近づき、ゴブリンたちが振り向くよりも先に、
「回転切りぃぃ!」
3体キル!残り2体だが1体はダメージあり!
岩に一番近い奴にナイフをぶん投げ牽制、その隙に傷を負ったゴブリンを倒す。
ナイフを手に持った剣ではじいた最後のゴブリンに向け、
「兜割り!」
ザクッッ
地面に当たってしまい、そのまま少しめり込む。
ゴブリンは剣を振り上げ攻撃しようとしている。
ナイフをインベントリから取り出して、
「パリィ!」
パリィ
アクティブスキル
相手の攻撃をはじいた時にスタン効果を付与する。
相手の剣をはじきがら空きになった胴に、
「急所突き!」
急所突き
アクティブスキル
相手のクリティカル部位に攻撃を当てた時のスタン時間を延長。
このゲームではDEXやLUCではなくクリティカル判定が相手の部位にある。
DEXは武器の耐久度が減りづらくなったり、一部のスキル、武器の攻撃に補正、LUCはドロップ率に補正。ただしLUCはクエストの判定やNPCとの関係が変化するという噂がある。
ちなみにSTRは基本的な物理攻撃力、VITは防御力、AGIは最高速度、INTは魔法の攻撃力、効力が上がる。
「そのまま倒しちゃった。」
スタンすることなく急所突きのクリティカルによるダメージでゴブリンは倒れてしまった。
ドロップアイテムはぼろ布5枚と錆びたナイフ、そして「錆びた剣」だ。
この剣はナイフよりも大きいので量を集めれば剣を鍛冶屋で作ってもらえるかもしれない。
「ナイフでもできるわそれ…」
帰り道で盲点に気づき少し悲しくなりながらエーデラントに帰る。
このゲームはタイトル通りもう一つの世界といって差し支えないほどにつくり込みがなされているし、NPCもほとんど人だ。
やればやるほど現実世界でできない、縛られていたことができていく快感を感じる。
現実なら世間体やらを気にしていてたこともできる。
倫理観は大切にしなきゃだけど。
せっかくのゲームなんだからはっちゃけた方が楽しめるはずだ。
そう思いながら門をくぐれば、
「うぅ……」
うわ、まだいる。
出るときにいた男がまだうなだれている。
「うぅ……」
とりあえず話しかけるか。
「ねぇ、どうしたの?」
「うぅ……」
「おーい。」
「うぅ……」
なんだこいつ。
「おーい。」
今度はトントンと体を触る。
「うぅ……」
どうしようかなこいつ。
ここまで来たらどうやってでも反応させたい。
あそうだ。
現実じゃできないけど、ここはゲームだ。
「お前ぶん殴るけどいいよね?」
「うぅ……」
さすがに殺すのはいけないので弱めに弱めに。
ドンッ
「起きてますかー。」
「うぅ…あぁ?あぁ…」
「言葉しゃべろうよー。」
「ほっといてくれ……」
「さすがに無理だよ。ずっとそこにいるんだもん。名前は?」
「ほっといてくれ…」
「だから無理だって。ほらまず立とうよ。」
「ほっといてくれっ!」
ドカッ
男に押されてしりもちをついてしまう。
僕は立ち上がりながら考える。
現実だったら速攻通報されて両方お縄。
だけどここはゲーム内、喧嘩をしたって誰も怒らない。
人通りもそこまでだし兵士NPCは門のところ、領主の屋敷にしかいないため、兵士に止められることもない。
プレイヤーによる仲裁はあるかもしれないがまあ何とかなる。
喧嘩は最終手段だ。文明人にとって倫理観は大切だからね。
「おっさ…いやお兄さんかな?どうしたのって。話さないとわかんないよ?」
「黙れっ!黙れ黙れ黙れ!うおぉぉぉぉっ!」
「問答無用かyってあぶなっ!」
この男予想以上に強い!
ただこれ見よがしに配置されたNPCだ。
何か特殊なもののキーになっているはず。
この挙動なら戦闘も強制かな?
ならやることは1個しかない!
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