22 夏休み、初日
夏休みの初日、今日は晴人たちと映画を見に行く日だ。
そして、朝からうちに来て服を選んでくれる先生……。正直に言うと、俺はあまり行きたくなかった。よく分からないけど、先生のことを裏切ってるような気がして、ずっと下を向いていた。
しかも、先生が買ってくれた服を着て、よく知らない女子たちとデートっぽいことをするんだからさ。なるべく……この服は先生と出かける時に着たかったけど、先生が選んでくれたから着るしかなかった。
わざわざそうしてくれなくてもいいのにな。
あいつらにカッコよく見えてどうするんだよ……。意味ねぇし。
「じゃあ、いってらっしゃい。私も今日用事があるから」
「はい……! い、行ってきます!」
「何かあったらすぐ電話してね。いっくん」
「は、はい……」
「私のことは心配しなくてもいい。いっくんも高校生だから、たまには友達と一緒に過ごす時間も必要だと思うからね」
「はい。じゃあ、行ってきます!」
「うん!」
当たり前のように、俺の頭を撫でてくれる先生だった。
「伊吹!」
「一ノ瀬くん!」
そして、待ち合わせの場所に来た時、三人が俺に手を振ってくれた。
これじゃマジでデートをしてるように見えるけど、しかもダブルデート……。それに知らない女子がもう一人増えた。多分、水原の友達だと思うけど、この空気が苦手でどうしたらいいのか分からなかった。
女子、多すぎる。
「どうした? 伊吹。もしかして、緊張してんのか? あははっ」
「へえ……、一ノ瀬くん緊張してるんだ。可愛い!」
「いや、別に……」
「あ、そうだ。紹介するね! こっちは私の友達、
「よろしくね。一ノ瀬くん」
「は、はい。よろしくお願いします。小林さん」
「なんで、敬語なの?」
「はい? ああ、よく分かりませんね。あはは……」
そう言いながら、二人から目を逸らす俺だった。
やっぱり、先生以外の女子と話すのは無理だったのか。この前には水原とちゃんと話したような気がするけど、女子たちの視線がめっちゃ気になってて、ずっと緊張している。
先生とデートっぽいことをしたから、少しは慣れたと思ってたけどダメなのか。
「じゃあ、行こうか! 今日の映画、めっちゃ面白そうだからさ! 伊吹」
「あっ、う、うん……。行こう」
……
おい、晴人。なんで俺が女子たちの間に座ってるんだ?
普通なら男は男同士で座って、女は女同士で座るんだろ? このままじゃ……そばにいる女子たちに気にしすぎて……、映画の内容が頭の中に入ってこないかもしれない。せっかく映画を観に来たのに……、この状況はなんだろう。
「一ノ瀬くん、ポップコーン食べる?」
「あっ、ありがとうございま———」
「あーん」
なんで、さりげなく俺に食べさせようとするんだ?
そして、水原の方を見ていた時、後ろから小林が俺の背中をつつく。
「飲み物もあるよ……? 一ノ瀬くんはどうして何も食べないの?」
「あっ、えっと。俺は……いいです」
俺はこんなに困ってるのに、晴人のやつはこっちを見て「グッドラック」って言ってるように親指を立てた。役に立たないやつ……、お前だけゆっくり映画を観るつもりなのか。それと……、水原……さっきからずっと俺の方を見てるような気がする。
なんでだ……?
「一緒に食べよう! 一ノ瀬くん! 私一人じゃ全部食べられないからね!」
「あっ……。は、はい」
映画じゃなくて、俺を見に来たのか……?
なんで、俺から目を離さないんだろう。なんでだよ……。この状況で俺は一体何をすればいいんだ……? 水原の視線がすごく気になって、小林にこっそり声をかけようとしたら……そっちも一緒だった。
晴人…………助けてぇ。
「ねえねえ、一ノ瀬くんは京子ちゃんに興味あるの?」
「はい……? いきなり?」
「京子ちゃん……朝からめっちゃテンション上がっててね。昨日は……、明日一ノ瀬くんとデートをするから可愛い洋服を買わなきゃ!と言いながら、私とショッピングしたし」
「そ、そうですか……?」
なぜ、俺にそんなことを言うんだろう。
「友達として、気になる! どうかな? 一ノ瀬くんは…………」
その時、水原が俺の肩に頭を乗せる。
「えっ? み、水原さん? ど、ど、どうしたんですか? いきなり……!」
「映画の主人公たちもこうやってるから、私も……やってみたかったっていうか。ロマンチックっていうか……」
「そ、そうですか? でも、やっぱり……こういうのは……。よくないと思いますけどぉ……」
「…………」
しかとか……?!
「…………」
困っている俺と水原の後ろでくすくすと笑う晴人、この状況が楽しいのかよ……。
なんで、今日の水原はこんなに積極的なんだろう。
俺たちは廊下で偶然会っただけで……、今までちゃんと話したこともないのにな。それに、俺は女子たちと話したことないから、普通の女子はどうなのかよく分からない。特に……水原みたいな陽キャとは全然接点がないから、なぜこんなことをするのか本当に分からなかった。
そして、左側にいる小林も俺の肩に頭を乗せる。
「どうして、こうなるんですかぁ……」
「なんか、面白そうに見えてね。ふふっ、本当に女の子が苦手なんだ。一ノ瀬くん」
「えっ? ああ……」
「めっちゃ緊張してるじゃん。あははっ」
「…………」
「もう結菜ちゃん、変なこと言わないで! 一ノ瀬くん緊張するんでしょ?」
「は〜い!」
なぜ、こうなってしまったんだろう。
そんなことより……映画の内容が頭の中に全然入ってこない。
そのまま、あの二人とくっついていた。
さりげなく腕を掴む水原とそばで変なことを聞く小林。
そして、困っている俺を見てニヤニヤしている晴人まで。俺たちは一体何しにここに来たんだろう。普通に映画を観るだけだと思っていたのに、それだけじゃないような気がした。
先生と一緒にいる時は楽しかったのに……、なぜ同級生と遊ぶのは楽しくないんだろう。
この状況、なんか嫌だ。
「一ノ瀬くん……! あーん」
「えっ!?」
「さっきから全然食べないから! 食べさせてあげる!」
「い、いいえ! 俺は……」
「いいから〜」
結局、断れない俺だった。
「京子ちゃんと仲がいいね。伊吹〜」
「…………」
なんだよ、一体……。
「…………」
そして、映画が終わる。
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