20 デートというのは③

 よく分からないけど、お店の看板になぜかフランスの国旗が…………。

 それにわけ分からないフランス語まで書いていて……、俺は100%「高級レストラン」だとそう思っていた。また、こんな高そうなお店にお金を使うなんて……、いくらお金持ちだとして、節約をしないと一瞬で貧乏になるますよ! 先生。


 と、言ってあげたかったけど、先生……めっちゃニヤニヤしてて無駄だった。


「いっくんはまだ食べたことないよね? フランス料理」

「は、はい……。でも、俺がこんなところに来てもいいんですか? なんか、周りの人たちめっちゃオシャレしてますけど、俺は……」

「あははっ、何言ってるの? 私のいっくんもカッコいいよ。周りの人は気にしないで、今は私だけを見て。いっくん」

「…………」


 なんですか、そのカッコいい年上彼女が言い出しそうなセリフは……!

 そして、問題はその後だった。


「…………」

「食べよう! ふふっ」


 なんだ……? この芸術品みたいな料理は?

 見た目では牛肉が入ってる料理に見えるけど、めっちゃ綺麗でどうやって食べればいいのかよく分からなかった……。


「なんで食べない? 口に合わない?」

「えっ! あ、い、いいえ……。こういうの初めてで、なんか食べづらいですね」

「また買ってあげるから、たくさん食べて。あーん」


 そう言いながら、自分のお肉を食べさせてくれた。

 てか、これ……先生が舐めたフォークじゃん。つまり間接キス……ってこと、どうして先生はそんな恥ずかしいことを何気なくするんだろう。そして、俺にお肉を食べさせた後は……何もなかったようにそのフォークを舐めていた。


 それはさっきまで……俺が舐めてたフォークなのにな。

 俺だけ、めっちゃ意識してる。恥ずかしい。


「…………」


 気にせず、今は料理の味に集中することにした。

 そして、世の中にはこんな味もあるんだ……とショックを受ける。


「美味しい?」

「はい……。すっごく旨いです!」

「美味しそうに食べるいっくんのその顔……私好きだよ♡」

「ケホッ!」


 いきなり「好き」って言われて、空咳が出てしまった。


「だ、大丈夫……? いっくん……」

「は、はい……。それより! い、いきなり好きとか言わないでください! 恥ずかしいじゃないですか! こ、こんな人が多い場所で……」

「そうかな? でも、私はいっくんと美味しいフランス料理を食べて、テンションがめっちゃ上がってる〜! 我慢できない! へへっ」

「神崎さんは……たまに子供っぽいことをしますね……」

「ふふっ♡ 私、可愛い?」

「そ、それは…………か、可愛いです」

「ふふっ、いっくんも可愛い♡ あーん」

「あ、あーん」


 高級レストランとか、そういうの慣れていないからずっと緊張していたけど、先生といろいろ話しながら食べる夕飯はやっぱり旨かった。そして、今更だけど……俺はワンちゃんじゃないのに、なんでしょっちゅう俺に食べさせようとするのかな。食べさせるたびに、ニコニコしてるから断りづらいし、どうしたらいいのか分からない。


 でも、先生が幸せなら……それでいっか。


「ごちそうさまでした。いつもありがとうございます……。こんな高い料理は初めてでした」

「ふふっ、私も誰かとフランス料理を食べたのは初めてだよ。ネットで検索してみたら、たくさんのカップルがあのお店に行ってね。私も……いっくんと行ってみたかった!」


 たくさんのカップルが行くお店……、なら俺たちも……。

 いやいやいや、それはあの人たちの話だ。


 ……


 車に乗って、すぐマンションに着いたけど、なんか物足りない感じ。

 俺たちは荷物を車の中に置いておいて、近所にある公園で少し歩くことにした。

 やっぱり、これはデートじゃねぇかぁ! 勝手にドキドキするな、俺の心臓!


「あの……神崎さん」

「うん? どうしたの? いっくん」

「神崎さんはいつも俺にいろいろやってくれるんですけど! 俺にできるのは何もないんですか?」

「えっ?」

「服とか、フランス料理とか、お弁当とか! 神崎さんに気にしなくもいいって言われても、俺はそうならないんで……。それ……、全部神崎さんが頑張って儲けたお金じゃないですか? だから……」


 薄暗い道を歩く時、ふと先生にもらったプレゼントを思い出したから。

 そう、お金はそう簡単に手に入るものじゃない。先生も頑張って、そのお金を稼いだはずだから。だから、俺も……そんな先生に何かやってあげたかった。まだ高校生だから高価なブランド品とかは無理だけど……、食べ物くらいならいけそう。


 てか、俺がこんなことで悩むようになるなんて。


「要するに……、いっくんも私に何かやってあげたいってことかな?」

「は、はい……! 俺もバイトしてますから、好きな食べ物とか……!」

「私、いっくんにやってもらいたいのがあるけど…………」

「な、なんですか?」

「まずは、やってくれるって約束して」

「な、なんでですか?」

「言ったら、断られるかもしれないから」

「じゃあ、約束します! 話してください!」

「ここにチューして」

「はい?」


 聞き間違いか、人差し指で自分の頬を指す先生が……今チューって?

 どうやら、今日一日ずっと緊張していてちょっと疲れたかもしれない。

 先生がチューとか、そんなこと言うわけないだろ?


「早くしてよ。さっきやるって約束したでしょ?」


 聞き間違いじゃなかった。


「…………でも、俺が神崎さんにそんなこと!」

「早くしないと、私怒るよ」

「…………」


 仕方がなく、先生の話した通り……その頬にキスをした。

 そして、恥ずかしすぎて、顔を上げられない。

 いや、俺は……てっきり「甘いものが食べたい」とかそういうことだと思ってたのに、いきなりそんな恥ずかしいことをさせるなんて。今更後悔しても遅いけど、女子の頬に……俺は一体何をしたんだろう。


 先生……、勘弁してくださいよ。


「ひひっ♡ 嬉しい!」

「そ、そうですか?」

「ねえねえ、こっち見て」

「はい……?」

「日が暮れて、よく見えないね〜」


 そう言いながら、両手で俺の顔を触る先生だった。


「何がですか?」

「真っ赤になったいっくんの顔♡」

「そ、そんなの見なくても!」

「え〜。なんで? 私は見たいよ。可愛いし!」

「…………」

「ねえ、ハグしてあげようか?」

「い、いらないです! お、お、俺は……! そんなことしません!」

「あはははっ、可愛い〜」


 なんか、損した気分。そして、先生にめっちゃ頭撫でられた。


「私はね」

「はい……?」

「これがいいの。いっくんと過ごすこの時間。だから、お金のことは心配しないで。いっくんが私のそばにいてくれるって言ったから……、その約束を私は信じているから……。一緒に楽しい思い出をたくさん作ろう! いっくん!」

「は、はい……」


 思い出を……たくさん、作る。

 それはいいことだ。


「ねえ、もう一回……チュー……」

「それはダメです」

「ひん……。じゃあ……、手! 手を繋ぐのは……?」

「……わ、分かりました。それくらいなら」

「やったー! へへっ♡」


 本当に子供みたいだ。先生は……。

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