19 デートというのは②

 俺たちはどうしてここにいるんだろう……?

 今日は……浴衣と甚平を買いに来たんじゃなかったのか、先生はなぜ俺の服を見てるんだろう。しかも、めっちゃ真剣な顔をして服を選んでいた。別に……俺の服などわざわざ選んでくれなくてもいいのに……、夢中になってる先生に声をかけられなくて、後ろでじっとしていた。


 てか、そんなにたくさん……?


「ねえねえ、いっくん。これ着てみて、それと! これも!」

「えっ? あの! 今日はこれじゃなくて」

「いいから! 早く! 一着だけじゃ足りないんでしょ?」

「は、はい……」


 ズボンとか、シャツとか、先生はセンスがいいからほとんど気に入ったけど……。

 問題はこれだ。


「なぜ……、下着まで……?」

「下着も服だからね!」

「…………」

「早く!」


 パンツも選んでくれるんですか!? どうしてだ!

 そんなことまで選んでくれなくてもぉ……! 恥ずかしすぎて、どうしたらいいのか分からなかった。てか、このパンツを着て先生に見せるのか? 試着した服もそうやって見てたから、パンツも見るんじゃ……。さすがに……そんなことは言わないよな、俺が気にしすぎて、勘違いしてるだけだ。


 とはいえ、すごく緊張している俺だった。 


「いっくん、見して!」

「な、何をですか?」

「下着姿に決まってるんでしょ?」

「神崎さん、そんなことを堂々と言わないでください! 見せませんよ! 恥ずかしいし!」


 すると、さりげなく試着室に入ってくる先生。

 ちょうどシャツを脱いでいて、ほぼ全裸になっているのに……。勝手に入ってくるなんて。


 体が固まってしまう。


「えっ?」


 しかも、じっとパンツの方を見てるし……。

 なぜか、全然動けない。


「…………」

「裸もカッコいい♡ いっくんの服たくさん選んでおいたから、全部着てみて! 下着とか、他に欲しい服があるならすぐ声かけてね! 全部買ってあげるから!」

「あ、あの……」

「うん?」

「服、こんなにいらないんです……」

「ダーメ! 全部買ってあげるから、タンスにちゃんと入れておいてね!」

「タンス……、持ってないんですけど?」

「ふふっ、心配しないで。昨日、ネットで注文しておいたから! 明日の午後になると家に届くはずだよ」

「は、はい……」


 なんですか、その凄まじい行動力は。

 どうやら、これも先生のプランに入っていたかもしれない。


 結局……、服と下着を含めて五万円を使う先生だった。

 てか、服に五万円はやばくね? 一体、どんだけお金持ちなんだ……、先生は。


「ねえ、いっくん」

「はい」

「またこうやってたくさん買ってあげるから、今家で着ている服……制服以外全部捨ててほしい」

「どうしてですか?」

「私がそうしたいから」

「は、はい……。分かりました。全部捨てます。どうせ、古い服ですし」

「うん♡!」


 本来の目的、浴衣と甚平を買うのはその後だった。

 そして、今度はどんな浴衣を着るのか一人でめっちゃ悩んでいる先生。女子の浴衣は全部可愛いし、先生は何を着ても似合うからさ。でも「どっちが好き?」って言われると、はっきりと答えられない俺だった。


 全部似合うし……。

 それより、これ……デートじゃん! 知っていたけど、本当にデートじゃん!


「いっくん、私これ着てみるから!」

「はい」


 甚平はあっという間に決めたけど、浴衣はそうならないよな。

 年に一度しか来ない夏だし、このお店……可愛い浴衣をたくさん売ってるからさ。


「ジャーン! どーかな? いっくんは白が好き? あるいは、赤が好き?」

「俺は……どっちも好きですけど、神崎さんに似合う色は赤だと思います」

「じゃあ、赤にしようかな! めっちゃ悩んでたからね! どっちも可愛いし!」

「はい。神崎さんは何を着ても可愛いから……、俺もはっきりと言えませんでした。あはは……」

「……いっくんのエッチ、私! 赤色の浴衣に着替えるから覗かないで」

「えっ? なんで?! そ、そんなことしませんよ!」

「エッチ!」


 そう言ってからカーテンを閉じる先生。

 俺は何もしてないのに……「エッチ」って言われた。それより、着替え中の試着室に勝手に入ってきた先生がそんなことを言うのかよぉ……! 俺はパンツしか履いてなかったぞぉ……! 先生のこと、だんだん分からなくなってきた。


 まさか、女子にそんな恥ずかしい格好を……。

 いや、忘れよう。


「ジャーン!」

「わぁ〜」


 ドヤ顔をしている先生の前でパチパチと拍手をした。

 やっぱり、先生は可愛いから何を着ても似合うよな。それにテンションが上がってる先生めっちゃ可愛い。本当に大人なのかよ……、子供みたいに喜ぶ先生を見るとなぜか笑いが出てしまう。


 そっか。だから、みんな必死に恋人を作るんだ……。

 誰かと付き合うのは、こんな気分だったのか。


「なんで笑うの?」

「あっ、すみません。俺……こういうの初めてなんで、神崎さんと一緒にショッピングをして、楽しいなと思ってました」

「…………楽しいの? 本当に!?」

「は、はい……」

「じゃあ、また一緒にショッピングしよう! いっくん!」

「はい! あっ。そして、神崎さんの浴衣は俺がプレゼントします!」

「えっ? なんで?」

「なんでって言われても、この服……全部神崎さんにもらいましたから。俺もプレゼントしたくて……」


 すると、俺の頭に手を乗せる先生。


「いいよ。その甚平もこの浴衣も、そしてさっきの服まで全部私が買うからね」

「どうしてですか?」

「私がそうしたいからだよ? いっくん」

「…………」


 いつの間にか先生の手が俺の頬を触っていた。

 そして、下を向いていた俺のあごを持ち上げる先生……。目が……合った。

 なんか、これ……めっちゃ恥ずかしいな。


「優しいね、いっくんは♡ これ以上私を刺激しないで…………」

「はい……?」

「なんでもなーい! ふふっ、そろそろ夕飯食べに行こうか? 昨日、いいお店見つけたからね」

「は、はい……」


 当たり前のように、頭を撫でられる俺だった。


「…………」

「ふふっ♪」

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