18 デートというのは
テストが終わった後の教室はいつもと違って、みんなめっちゃテンションが上がっていた。そろそろ夏休みだし……、夏祭りとか、海とか、いろんなイベントが待っているからテンションが上がるのも無理ではないよな。
そして、毎年ずっと部屋に引きこもっていた俺も……今年は夏を楽しむことになった。テストが終わった後……、先生と一緒にショッピングをするって約束をしたし、今まで全然なかったイベントだから少しは期待をしていた。それにしても、夏祭りに行くための浴衣と甚平か、買ったことないからよく分からないけど、けっこう高そうな気がする。
でも、たまには……こういうのも悪くないと思う。
今まで頑張ってきた俺に、ご褒美をあげないとな。
「おいおいおい! 伊吹、テストも終わったし! そろそろ、夏休みだからさ。予定あるのか?」
「今年はあるかも……」
「えっ! 毎年、部屋に引きこもってた伊吹に予定だなんて! そんな! 彼女でもできたのかよぉ!」
「いやいや、そんなことじゃない。高二の夏だし、いろいろ挑戦してみたいだけだ」
「へえ……。じゃあ、今日一緒に遊びに行こうよ! クラスの女の子たちと!」
「それもいいけど、先約があるからさ。ごめん! 今日は先に帰るから」
「…………」
教室を出る伊吹の後ろ姿を見て、晴人が「チッ」と舌打ちをした。
……
先生と一緒にショッピングをするのはいいけど、問題は……俺私服持ってない。
正確には……、全部中学生の頃に着てた服だからさ。せっかく、先生とデートっぽいことをするのに全然準備ができてない俺だった。それも当然か、先生とこんなことをするとは思わなかったから。
そして、マンションの前に着いた時、先生から電話が来た。
「はい」
「ねえ、いっくん。今どこ?」
「今ちょうどマンションの前に着きました」
「じゃあ、そのままうちに来て! あげたい物があるから!」
「あげたい物ですか?」
「うん!」
「は、はい……」
一応、あげたい物があるって言われたから……すぐ先生の家に向かった。
でも、ベルを押す暇もなく……、俺の足音を聞いてすぐドアを開ける先生。ちょっと怖いかも。
「ふふっ♡」
そして、ニヤニヤしている。
なんだろう。
「ジャーン! どー?! いっくんの服買っちゃったよ! 制服姿で私と歩き回るのは気になるんでしょ?」
「えっ! あげたい物って服でしたか?」
「そうよ?」
「でも、今日は服を買いに行くんじゃ……?」
「なんか、いっくん私服持ってないような気がしてね。いつも節約してるし……、服は高いから。これは前に買っておいた服だよ」
「は、はい……。そうですか……」
「今日は一緒にショッピングをして、外で美味しいものをたくさん食べよう! めっちゃ楽しそうだね!」
「は、はい」
目がキラキラしていて、それ以上は聞けない俺だった。
先生がそうしたいなら……、俺も先生の話を聞くしかない。
てか、この服高そう……。
「着てみて!」
「はい!」
てか、このアイボリー色のサマーニットと黒色のズボン……先生も俺と同じ色のサマーニットに黒色のスカートを着ているけど。
これって、リンクコーデってことかな……?
どう見ても! 「俺たち、付き合ってますよ!」って言ってるようなコーデ。
なぜか、急に恥ずかしくなる俺だった。
「へえ! いいじゃん。私もいっくんと同じカラーにしたよ! どー?」
「…………」
「いっくん? どうしたの?」
「えっ? あっ、いいえ……」
「もしかして、照れてんのかな〜? ふふふっ♡」
「べ、別に照れてないし……!」
「で、今日の私どー? まだ感想聞いてないけど?」
「か、可愛いです…………」
「ふふっ♡ いっくんも今日カッコいいよ! その服、めっちゃ似合う!!!」
「は、はい……。ありがとうございます……」
マジか、鏡の前に立ってるだけなのに、俺たち……普通のカップルに見える。
そして、さりげなく俺の方に寄りかかる先生。
「なんか、私たちカップルみたいだね? いっくん」
「そ、そんな恥ずかしいこと言わないでくださいぃ……」
「ふふっ♡」
「あっ、そうだ。サイズはどうかな? じっとしてね」
「えっ?」
いきなり体を触る先生にビクッとして、顔がだんだん熱くなっていた。
冷静を取り戻そう……。俺は今日先生と服を買って……、一緒に食事をして……、それだけだ。……って、普通のデートじゃねぇか! 先生は……こういうことに慣れてるかもしれないけど、俺には無理なんだよぉ! この状況。
なんだよ、一体……。
この変な気分はなんなんだ。分からないよ!
「どうしたの? いっくん」
「な、何も……」
「ねえ、いっくんはカッコいいからもっと自信を持って」
「…………」
先生……また何気なくそんなことを。
「それに、心臓すっごくドキドキしてるね〜。いっくん♡ どうしたの〜?」
「は、恥ずかしいから胸に手を当てないでください!!」
「私もすっごくドキドキしてるけど、手を当ててみる?」
「…………」
「今、エッチなこと考えたでしょ?」
「そんなことしませんよ! は、早く行きましょう!」
「うん!」
お弁当に、夕飯に、私服まで……。こんなにたくさんもらってもいいのかな。
また、「大丈夫!」って言いそうだから聞けなかったけど、お金の価値をちゃんと知っている俺は……そのお金を自分のために使ってほしかった。先生も大人だし、いろいろお金を使うところたくさんあると思うからさ。
「あ! また、お金のことで心配してるの?」
バレたのか?
「いいえ」
「いっくんは私に何かをもらった時にすぐそんな顔をするから、分からない方がおかしいと思う。なんで、こんなの買ってくれたのかなと思ったでしょ?」
「……はい」
玄関の前で、先生が俺の頬を触った。
「それは、いっくんだからだよ♡」
意味わかんねぇ。
「は、はい……」
「私はいっくんにたくさんの幸せをもらったからね……。だから、私もいっくんに幸せをあげたかったよ。それだけ」
「はい……」
「分かったら、笑って。私は笑ういっくんが好きだから♡」
「はい!」
「可愛い、ふふっ」
まあ、いっか。
マンションを出る二人。
その姿を電柱の後ろで覗いている晴人だった。
「マジかぁ……」
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