13 朝と先生
懐かしい夢を見ていた。
お母さんが子守唄を歌ってくれた時の夢……、お母さんと一緒に暮らしていた時の夢……。それは夢だけど、夢じゃないような気がする。そこに亡くなったはずのお母さんがいたから、幼い頃の俺がいたから……。なぜか、涙が出てしまった。
そして、誰かに抱きしめられてるような気がしてすごく気持ちいい。
「お母さん……」
思わず、そう言ってしまった。
「…………」
目が覚めた時、俺は当たり前のように……、先生のベッドで寝ていた。
そして、着ていた私服はいつの間にかパジャマになっていて、そばで寝ている先生と手を繋いでいる。なぜここにいるのか、俺には分からなかった。この前にも今と同じことがあったけど、どうして……こうなってしまったんだろう。
先生の寝顔を見つめながら、前髪を後ろに流した。
また、やらかした。
それしか思い出せない。
「おはよー」
「神崎さん」
「うん?」
「俺、どうして……神崎さんのそばで寝てるんですか?」
「昨日、勉強中に寝落ちしたからね……。いっくんを床に寝かせるのもあれだし、私のベッド広いから一緒に寝ちゃった♡ ふふっ」
「ええ……、起こしてもいいのに」
「ちゃんと起こしたよ? でも、起きないから…………仕方ないじゃん」
「すみません……」
「謝らなくてもいいよ。そして、私と約束したでしょ? そんな顔しないで」
「約束……、その約束は…………そんなにすごいことなんですか? 俺は……神崎さんと。いや、学校の先生と同じベッドで寝ましたよ? これが、これが……普通の状況だと思いますか……?」
その時、先生の目色が変わった。
そして、俺の腕を引っ張る。唇が触れそうな距離で、先生は……俺の目をじっと見ていた。何をするんだろう、緊張していつの間にか息を我慢している自分に気づく。そばにいることと一緒に寝ることは別だけど……、俺は何も言わずじっと先生の唇を見ていた。
目を合わせないから。
「ねえ、普通って何?」
「はい……?」
「私と一緒に寝ただけだよ? ただ、そばで寝ただけなのに。なんで、いっくんはいつもよくないことをしてるように言ってるのかな? 私には分からない。私はいっくんがそばにいてくれると安心できるのに、いっくんはいつも罪悪感を感じている。なぜ?」
「それは……! 生徒と教師ですから! これくらい常識だと思いますけど」
「常識……。いっくんは私と寝るのが嫌だったの? 一つ教えてあげようかな?」
「はい?」
「寝ている私を抱きしめてずっと離してくれなかったのは、いっくんだよ? 私の胸に顔を埋めてきたのもね……」
「そ、そんな……」
「でも、私は全部受け入れたよ。私のそばにいてくれるって、いっくんがそう言ってくれたから……私はそんなことをされても構わない」
「どうして、そう簡単に言えるんですか? 俺のこと気持ち悪いとか、言わないんですか?」
「なんで? 嫌だったら、うちに入れたりしないよ? そのパジャマもプレゼントしたりしないよ? なぜ、そう思うの?」
そういえば、俺……いつの間に? 昨日は、ちゃんと私服に着替えたはずだけど。
まさか、寝落ちした俺を……先生が? 俺たちは……一体どこまで……?
このままじゃ一線を越えてしまいそうな気がする。まだそこまでやってないから……、ホッとしたけど、それだけは絶対ダメだ。そうならないように、ちゃんと注意しないと。
俺は……なんで、先生と一緒に。
いや、もういい。
「は、はい……。すみません」
「言葉はね、すごい力を持ってるの。たった一言で今の関係が許されるから」
「な、なんの話ですか?」
「いっくんが私に何をしても……、私はそれを全部受け入れる。その約束をしたのはいっくんだけじゃない。私もだよ……? そばにいるってことはそういうことだからね」
「何をしても……って、正確に……?」
「思春期の男子高生なら、何を思い出すのかな? 私には分からな〜い」
「…………」
頭を撫でる先生が、キッチンに向かう。
そして、先生のその話に顔が真っ赤になっていた。さっきの「何をしても、全部受け入れる」ってなんだよ。それは……つまり俺が先生にエロいことをしても全部受け入れるってことなのか。もしものことだけど……。
なぜ、俺にそんなことを言うんだろう。
「朝ご飯は簡単に食べよう!」
「は、はい! ありがとうございます、神崎さん」
「ふふっ」
ご飯を食べるためにベッドから立ち上がった時……、俺は……履いてないことに気づいた。
どうして? なぜ、履いてないんだろう。
いつもより下が涼しくて、こっそり手を入れてみたら……マジで履いていない。
「…………どうしたの? いっくん」
「い、いいえ…………。な、なんでもないです! あ、あの! 俺の服は……」
「ああ、服なら机の上に置いておいたよ」
「あ、ありがとうございます」
テーブルの前で朝ご飯を食べる二人。
俺は……今の状況がめっちゃ恥ずかしくて、早くご飯を食べて家に帰ろうとした。
どうせ、すぐ隣だから着替える必要もないし、それを聞くのも恥ずかしいからさ。
「ご、ごちそうさまでした! あの! さ、先に帰ります! ありがとうございました!」
「うん!」
挨拶をした後、我慢していた笑いを吹き出す怜奈。
「あはははっ。な〜にも知らない〜。可愛い、可愛いすぎるよ……。どうしよう、ドキドキが止まらない。あんな純粋な人が世の中にいてもいいの? それに、ご飯を食べる時の顔も可愛すぎる……! 履いてないことに気づいてめっちゃ照れてたよね? いっくん♡ 大丈夫……、そうやって少しずつ……私に慣れていくんだよ♡ 電球、交換しておいて本当によかった♡」
化粧台の鏡を見つめる怜奈が、真っ赤になった自分の顔に笑みを浮かべる。
そして、ポケットからスマホを取り出した。
「やっと……、やっと……ここまできたよ。いっくん♡ 私は絶対いっくんを離れたりしないからね。約束する……♡」
アルバムの中。寝ている伊吹の写真を見て、自分を慰める怜奈。
その部屋には彼女の恥ずかしい喘ぎ声だけが響いていた。
「あっ。そういえば、首に残したあれをいっくんに言ってあげなかったよね……。でも、もう帰っちゃったし、いいかな。ふふっ♡」
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