12 夜と先生

 今日はバイト行かないから、久しぶりに一人で勉強をしている。

 そろそろテストの時期だし、将来先生みたいな立派な大人になるためにはちゃんと勉強をする必要がある。そして、こう見えてもバイトをしながらちゃんと勉強をしていて、五本指に入るくらいのレベルだ。


 だとしても、俺よりすごい人多いからな……。

 そこで生き残れるのかどうかよく分からない。


「…………うん?」


 その時、部屋が真っ暗になった。

 まさか、電球が切れたのか? 確かに昨日も……少し不安そうに見えたけど、なんとかなると思って交換しなかった。よりによって、勉強をしている今か……。仕方がなく、真っ暗になった部屋の中でスマホのライトをつけた。


 すると、先生からラ〇ンが来る。

 こんな時間に「そっち行っていい」って……、なんだろう。

 でも、うち真っ暗だから———。考える暇もなく、先生がベルを押した。


「いっくん! 寝てたの?」

「いいえ。勉強してました」

「えっ? こんな真っ暗な部屋で勉強してたの?」

「あっ、電球が切れて……。明日、買いに行く予定です」

「…………ふーん。じゃあ、うちで勉強しない?」

「えっ? どうしてですか? 神崎さんも神崎さんの時間が必要———」

「一応、テストの時期だし、勉強したいって顔をしてるけど? いっくん」

「…………本当に、神崎さんはなんでも知ってますね?」

「先生、だから!」


 ふと……、水原に言われたことを思い出してしまう。

 一体、二人の間に何があったのか。少し気になるけど、そんなことに時間を使ったらまた先生に怒られそう。そして……、先生は知らない女子と話すのを嫌がってるから、それが気になっても誰にも相談できない状態だ。


 まあ、先生の話通り……今の俺は先生と一緒にいるから。

 まず、勉強と先生に集中しよう。


「はい。ココアだよ」

「ありがとうございます。神崎さん……。そして、すみません」

「大丈夫! 応援してるから」

「は、はい……」


 それから夜の十一時半になるまで、俺は先生のそばで勉強をしていた。

 そして、なぜか疲れてしまう。まだ三時間しかやってないのに、すぐそばに先生がいるからか……? いや、多分……先生のそばで寝た時のことを思い出したからだろう。すぐ後ろで……俺は先生とくっついて寝ていたから。


 ダメだ。先生のことばかり考えて……頭の中が複雑になる。

 一応、明日は休みだし、三十分くらい仮寝をしようか。

 このままじゃ全然集中できない。


「神崎さん」

「うん?」

「俺……、三十分くらい寝てもいいですか?」

「ベッドで寝てもいいよ?」

「いいえ。いくらなんでも女性のベッドで寝るのは……ちょっと」

「なんで? この前、私とくっついて寝てたじゃん」

「そ、それは……!」

「それに、ベッドで寝るのは気持ちいいよ? 床より!」

「…………はい。じゃあ、三十分だけ! ほ、本当に三十分だけです!」

「うん!」


 俺、めっちゃ大胆なことをやっている……!

 今……先生のベッドで! 先生の枕と先生の布団を……。寝られるのか? 俺はこの状況で寝られるのか? しかも、先生が何をしているのか余計に気になってて、居ても立っても居られない俺だった……。


「…………」

「寝てないでしょ?」


 そして、二十分後、先生がベッドに座った。

 俺はバレないように、そのまま寝たふりをする。


「…………」

「ふふっ。じゃあ、せっかくだし〜。私もいっくんのそばで寝ようかな〜♪」

「ダ、ダメです! それは!」

「やっぱり、寝てないんだ〜」

「意地悪い……! あれ? 神崎さん、いつ着替えたんですか……?」

「パジャマ可愛いでしょ? この前に買ったの! これね、いっくんのもあるから、着てみない? サイズが合うのかどうかよく分からないけど、一応買ってきちゃったから」

「えっ? いいですよ! そんなの……」

「着て……」

「は、はい……」


 着ないとすぐ落ち込んでしまいそうな顔、先生のその顔には敵わない。

 てか、サイズがぴったりで少し驚いていた。少し大きいとか、小さいとかじゃなくて、本当にぴったりだったからな。しかも、これ……先生と同じ色のパジャマなんだけど、あれか……? 恋人同士で着るパジャマなのか……? 先生、めっちゃニヤニヤしてるけど。


 なんか、恥ずかしくなってきた。


「へえ〜。ぴったりじゃん。こっち来て!」


 隣席をポンポンと叩く先生が、両手で俺の体を触る。


「これあげるから! プレゼントだよ!」

「えっ? い、いいんですか? これをもらっても」

「うん!」


 このパジャマ高そうに見えるけど、プレゼントしてくれるのか……。

 大事にしよう。


「あっ、俺……そろそろ帰ります。あの……帰る前に水を飲んでもいいですか?」

「あっ、それならまた勉強をするかもしれないと思って、お茶淹れておいたよ! 机にあるから」

「あ、ありがとうございます!」


 私服に着替えて、パジャマを教科書の上に置いておいた。

 まさか、先生の家で勉強をする日が来るとはな。明日は電球を買ってこよう。


「温かい……」

「ふふっ」


 なんか、俺のためにいろいろやってくれるような気がして、すごく嬉しかった。

 こういうの慣れてないし、誰も俺にこんなことをやってくれなかったから……。先生がお隣さんで少し安心した。そして……、なぜこんなことをするのかは分からないけど、何もなかった俺の人生が少しずつ……楽しくなってるような気がした。


 だとしても、俺は生徒で神崎さんは教師だから注意しないといけない。

 その事実だけは絶対変わらない。


「神崎さん、いつもありがとうございます!」

「ふふっ、また来てもいいよ。いつでもね」

「は、はい……。ありがとぉ———」


 えっ? うん? あれ……?

 なんで、目眩がするんだろう。

 なんで……。


 体に力が入らない。

 どうしたんだろう。


「かん、か、ざき……さん?」

「…………」


 そのまま玄関で倒れてしまう俺だった。

 なぜ? 分からない。


「ふーん。すごい……五分も経ってないのに、倒れちゃった」


 微笑む怜奈が伊吹の頬を触る。

 彼はたった三十秒で意識を失った。


「いっくんは……私のだから……、誰にも取られない。そして、離れさせない♡」


 そう言いながら、伊吹の顔を見つめる怜奈。

 彼女は両手で、真っ赤になった自分の顔を触る。


「はあ……♡」


 潤んだ瞳と少し開いた唇、怜奈は自分の欲求を隠せなかった。

 そして、少しずつ息を吐く。


「どうしよう……! ドキドキするじゃん♡ 本当にいいのかな? ベッドに連れて行ってもいいのかな? めちゃくちゃにしたい衝動が止まらない…………♡ 止まらないよ。いっくん♡」

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