第22話:西の領土
東の領土を制覇して、奥に足を踏み入れると、そこには人影がなく、魔人たちが暮らしていた家屋が点在していた。その荒れ果てた土地には不気味な静けさが漂っていた。
「・・・不思議ですね。」
アクアがぽつりと呟く。
「私たちはこれまで多くの魔人を倒してきました。それなのに、全然減る気配がないんです。それどころか、どんどん増えているように感じます。」
アクアの言葉には、長く戦いに身を置いているからこそ気づいた違和感があった。戦争が始まってからもう1ヶ月が経つが、魔人の数は減るどころか増えているようだ。
俺は新参で分からなかったが、アクアがそう感じるなら、何かしら原因があるのかもしれない。しかし、そんな疑問を投げかけたところで、今の状況を変える手段は思いつかない。原因の解明は勿論必要だ、しかし今では無いということは俺にも何となく理解出来た。
「まぁ、ここにいるボスをぶっ飛ばせば解決するだろ」
俺はなるべくアクアに気負って欲しくないので軽く言い放つ。深く考えることは苦手だ。脳筋的な発想だが、ボスを倒せばある程度日差しも見えてくる。
俺の言葉を聞いてアクアは苦笑いを浮かべながら、軽く肩をすくめた。他に答えを見つけられないまま、その場に立ち尽くしていた。
「兄貴の言う通りだ、仮に魔物が何人いようが関係ねぇ!ぶっ潰すだけだ!」
ダクネスは力強く宣言する。高らかに笑い声を響かせた。その豪胆な態度は、どんな敵でも恐れずに立ち向かうダクネスらしさが表れている。
「貴方達、行くわよ。」
クリムゾンがそう言い放ち、次なる目的地である西の領土へと向かった。俺たちは無言で従い、潜入作戦を開始する。西の領土には、数多くの魔人たちが待ち構えていたが、俺たちはその群れを次々と投げ倒していった。
道中、突然現れたのは四天王閣の一人だった。
「俺は四天王閣の一人!サムだ!」
サムは堂々と名乗りを上げ、威圧的な雰囲気を漂わせていた。しかし、俺の進化した力の前では、彼はもはや敵ではなかった。サムの動きは俺の目には遅すぎた。瞬く間に、俺は一撃で倒した。四天王閣とは名ばかりで、進化した俺には到底及ばない。
「紅の戦士、そして魔術師アクアよ。やはり貴様たちが我々の領土を侵しているのか」
そう、現れたのは今までの四天王閣とは一線を画す雰囲気をまとった男だった。存在感は圧倒的で、エネルギーの総量がこれまでの敵とは比較にならない。
「俺はハルク様だ!」
ハルクは自信たっぷりに名乗りを上げた。
「しかし君たちは無駄な努力だ。例え取り戻したとしても、すぐに取り返される。今までもそうだろ?天城が動けば、全ての領土なんて一瞬で奪われる」
ハルクは冷静に指摘した。その言葉には重みがあり、今までの戦いの経緯を反映している。
実際に北の領土を取り返したこともあったが、その後の天城の出現によって、あっという間にすべてが奪われてしまった。奪い合いの無限ループに巻き込まれているかのようだった。と、クリムゾンが前に言っていた。
「だから何、それでも私は諦めない。例え死んでもね」
クリムゾンは冷静に双剣を構えた。アクアも魔法を展開している。
「ふん!いいだろならば俺のユニークスキル“虫型:
ハルクは自分の腕の形を百足に変化させる。どうやらハルクはユニークスキルらしいな、しかし愚直にまぁ良くもスキルを言えるものだ。
不規則に動く百足の腕はクリムゾンやアクアを翻弄していく。
「兄貴、どうしやすか」
と、ダクネスは俯瞰していた。どうやら俺の命令がないと動かないと言う意志を見せる。俺とダクネスは少し離れた所にいる。入るタイミングを失ってしまったからだ。まぁ、流石に見殺しには出来ないので
「助けるか」
俺は人差し指にから『雷帝』を放った。しかし驚くことに──
「甘い!俺は各種属性耐性を保有している!」
ハルクは俺の『雷帝』を簡単にいなした。各種属性耐性は属性攻撃に対する耐性を獲得する。耐えば炎とか水とか。俺も保有しているので別に驚くことはない。しかしこれなら『炎帝』も効果は薄いだろうな。
「水刃!」
アクアは魔法で応戦するが、各種属性耐性を保有しているハルクに取って効果は薄い攻撃だった。一応“無効“じゃないのでダメージは通ってるはずだ。
「無駄なんだよ!
ハルクは百足の回転率を上げる、更に速度が上がり縦横無尽の攻撃する、流石のクリムゾン達も回避出来なくなってきている。
俺は急いでアクアを救出する、クリムゾンと違いアクアはどうやら近距離に長けて無さそうだったし。
「──ッ生意気だ!」
ハルクはそんな俺が気に食わなかったのか攻撃を仕掛ける。しかし
「俺様から視線を逸らすなあ!」
と、よく分からない事を言うダクネス。ダクネスの強靭の刃がハルクに向けて放たれる。
(餓鬼の攻撃なぞ無視でいいわ!)
ダクネスが子供だからと見くびっていた、その判断が勝敗を分かる。ダクネスからは子供と思えない程の力が発生した。
「──ッ?!なんだその力は!」
左腕1本じゃ受け止めきれない、地面が歪んだのだ。その隙を逃がさまいとクリムゾンはハルクの首を切り裂いた。
一瞬の出来事だった。
俺すら何が起きた分からないから当の本人も訳が分からないだろうな。
「この俺様が負けた・・・だと」
そう言い残し奴は去っていく。
「黒鬼あんた意外に強いんだね」
確かにクリムゾンの言う通りダクネス強いな、子供とは思えない程の力だ。
「強いって枠じゃ収まらん!俺は最強だ!ガハハ!」
と、ダクネスは高らかに笑った。アクアは苦笑いしていた。
つーか敵弱くないか。この程度ならば俺だけじゃなくともクリムゾンさん達で何とか出来そうな気がするけど。ちょっと気になったので聞いて見たらクリムゾンは口を開けた。
「えぇ、彼ら弱いわ。“彼ら“はね。問題なのは“奴“よ。“奴“が出てくれば全て水に流される。全てね。」
クリムゾン達は領土を取ったり取られたりを繰り返してる、この光景も既に何回目見た事かとクリムゾンは口を噛んでいた。毎度毎度後一歩の所でやられらしい。
「こいつらを倒しても無駄。奴らの“本部“を叩かない限り終わらない」
クリムゾンはため息をつく、何か思う事があるのだろう。双剣を鞘にしまうとクリムゾンは休憩を提案した。
「リオンさん強いですね」
ゆっくりとしていると俺の隣に腰をかけたのはアクアだ。所作全てが優雅だ。ちょっといい匂いするし。
「まぁ、な」
強いか弱いかって聞かれたら強い方なのか。でも俺は最強!!とかいえばダクネス見たいになってなんか嫌だし。とはいえ弱いとも思えない、だから曖昧な返事になってしまった。
「アクアさんはクリムゾンと双子なの?」
「うん、双子だよ。でも全然似てないけどね」
「いやいや、そっくりだよ」
どっちかって言うとクリムゾンさんは
でも、本当に似ていると思う。胸の大きさは若干アクアの方が──
「私、お姉ちゃんに憧れているんです。私より頭も切れて容量も良くて・・・同い年なのにクリムゾンさんは
それと比べたら私は──」
気持ちは分からないものでもない。会社で言う同じ日に入社した同期が自分を差し置いてどんどんと出世していくような者だろうな。
劣等感や屈辱感、アクアにのしかかっているのだろうな。それこそ双子なら尚更比べられるだろう。優秀な
姉を持つと苦労するものだ。
「そんなことないと思うけどな」
「え?」
「人には得意、不得意って言うものがある。たまたまクリムゾンが得意ってだけで自分が劣っているなんて考えない方がいい、必ず自分が得意なものはあるんだから」
「いや、でも私」
「探すんだよ、自分が得意な物を、自分が戦える
上には上がいるもんだ。学力や運動神経、比べればキリがない。相手と自分を比べるより、過去の自分と比べた方が成長につながる。
アクアは俺の言葉を聞いて、深く考え込んでいた。その反応が響いたのかどうかはわからないが、彼女の表情には何かを思索する余韻が漂っていた。
そんなやり取りをしていると、突然クリムゾンが声を荒げた。彼女の激しい反応に、俺は一瞬驚き、話の流れが断ち切られるのを感じた。
「奴が、奴が来たわ!!」
♢♢♢
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