第18話:王の強さ

 天城は不敵な笑みを浮かべながら、自身のユニークスキル『異能型:キング』を発動させた。その力が戦闘の激しさを一気に引き上げ、空気が一層重く、殺気が場を支配する。櫻井はそれを察し、すぐに警戒態勢に入った。


「行け青龍で、ござるよ!!!」

 櫻井は背後に待機させていた青龍に命令を下す。巨大な青龍は雄叫びを上げ、大きく口を開けると、螺旋状の水光線を放った。水流は地面を抉り、石や土を巻き上げながら、一直線に天城へと向かっていく。


 しかし──。


「ム・・・何をしたでござるよ?」

 青龍の攻撃が届く直前、何か異変が起きたのを感じた櫻井。天城はただ笑っていた。


「身体に教えてやるから、焦んなよ」

 天城は首をポキポキと鳴らしながら、冷静に『王政権限テオクラシー』を発動させていた。このスキルは“防御系”に分類され、自分に忠誠を誓う人数に比例して防御の強度が増すものだ。


「そうでござるか!青龍、行けでござるよ!」

 櫻井は再び青龍に命令を下し、青龍はさらに大きな雄叫びを上げながら天城を喰らい尽くそうと突撃する。しかし天城は微動だにしない。


「俺に勝てるやつなんて、銀河系に誰一人存在しねぇよ」

 天城はそう言い放つと、たった一振で青龍を完全に消滅させた。


「な・・・で、ござるよ・・・」

 驚愕する櫻井。しかし彼の口癖は、こんな状況でも変わらない。


「仕方ないでござる」

 櫻井は何かを決意し、『青龍槍』を生成する。その槍には、青い龍が絡みつき、まるで生きているかのようにうねり動く。櫻井は天城に向かって矛を構えた。


「んじゃ、ちょっと面白い事してやるよ。王様の権利キング・ライツ

 その瞬間、櫻井は驚愕し目を見開いた。


「そ、それは僕のスキルでござるよ・・・!」

 天城の背後に現れたのは、禍々しい色をした“青龍”だった。『王様の権利キング・ライツ』は一度見た技を完璧にコピーし、使用できるスキル。ただし、コピーできるのは一回までという制約がある。


「貴様!!!で、ござるよ!」

 怒りを滲ませた櫻井は、『青龍槍』を手に天城の攻撃圏内へ突撃する。しかし天城は全く動じることなく、櫻井の攻撃を軽々とかわしていく。そして、すかさずカウンターを放つ。次々と繰り出される天城の攻撃は徐々に櫻井に蓄積され、彼の体は苦悶に歪んでいった。天城の笑みは広がり、まるで猫がネズミで遊んでいるかのようだ。


 だが、櫻井は諦めない。

(今こそ、見せてやる。僕が集めてきた知識の集合体・・・ラノベ必殺技を!!)


 櫻井の頭の中には常に考えが渦巻いている。いや、彼だけではない。厨二病という病にかかった者は常に己の“必殺技”を考えているのだ。櫻井は異世界に来た時からその技を磨き続けてきた。そして今こそ、その瞬間が来たのだ。


「今でござるよ!しねぇ!青龍覇極!!」

 櫻井は全てのエネルギーを『青龍槍』に込め、大気がその槍にまとわりつく。

 だが──。


「う、嘘でござる・・・」

 櫻井の目に映ったのは、自身の渾身の一撃が天城の『王政権限テオクラシー』を破壊するだけに留まった光景だった。結界は砕け散り、パリーンという音が耳に残る。しかし、それは天城には決定打とはならなかった。


「その程度か。んじゃ、終わろうか」

 天城は冷たく呟き、背後に待機していた“青龍”に命令を下した。青龍は櫻井に襲いかかり、鋭い牙で彼の身体に深く噛み付き、そのまま壁へと激突させた。衝撃で壁が砕け、青龍の牙は櫻井の肉体を深く抉る。櫻井はもはや立つことさえできず、青龍はゆっくりと天城の背後へと戻った。


仲間ゴミを守るために、自らの命を投げ出す・・・分からねぇな」

 天城は冷徹な声で言いながら、ゆっくりと櫻井に近づく。その足音は、まさに死の前兆のように重く響いた。


「ゴッフッ・・・そうでござるか、君はずっとひとりぼっちだから分からないでござるよね、仲間の尊さを」

 櫻井は吐血しながらも、微かに笑みを浮かべ、天城に言葉を投げかけた。


「──ッあ?」

 その一言は天城の心の中にある何かを確実に逆撫でした。彼の表情に怒りが宿り、殺気が一層濃くなった。

 天城の目には狂気が宿り、静かな怒りが限界を超えた瞬間、全身から凄まじい圧力が放たれる。

「殺すわ──」

 天城は冷酷に呟き、『青龍』に最後の命令を下した。それは、櫻井の命を奪う命令だった。しかし、その命令が実行されることはなかった。


「天城 君?」

 突然、静かな声が響く。そこに現れたのは“綾小路”一派。「綾小路 奏」、「おおとり 玲奈」、「大国たいこく 大和」、「睦月むつき 正一」の四名が天城の前に姿を現した。 彼は拠点に戻る最中に音を聞き付けやってきたのだ。


 天城は振り返り、その中の一人に目を向けた。

「・・・大国たいこく

「分かってる」

 綾小路 奏は穏やかな性格だが、決して愚かではない。この場で何が起こっているのかを瞬時に理解し、無駄な時間を使わずに命令を下した。大国 大和はすぐに櫻井の救助に向かった。


 一方、天城は櫻井について何も言わない。もはや興味などないようだ。自分に敗北した者は、彼にとっては何の価値もない存在だった。天城はその視線を綾小路に向け、じっと見つめた。


 綾小路は無表情で天城を見返す。その冷たい眼差しは、天城に一瞬の不信感を抱かせた。

「なんでテメェ・・・?」

 天城は苛立ちを隠し切れず、綾小路に問いかけた。しかし、綾小路はその迫力に全く動じることなく、静かに天城を見据えている。


「なんで、なんでクラスメイトを殺そうとした?」

 綾小路は静かだが、確かな怒りと失望を感じさせる声で問いかけた。


「クラスメイト?おいおい甘ちゃん、なんか勘違いしてねぇか?ここは日本じゃねぇんだよ。俺らは友達でもねぇ。分かるか?俺はやりたいようにやる。それが俺のやり方だ。お前もあの奴みたいになりたくねぇだろ?」

 天城は、自分なりの理論でこの異世界の状況を理解していた。彼にとって、この世界は力で支配するべき場所であり、その目的は“世界征服”だった。自分の邪魔をする者は、たとえ旧知の仲間であっても容赦なく排除する覚悟があった。


「なんで・・・戻ろう、今なら間に合う!俺は許す。だから、一緒に日本に帰ろう!」

 綾小路は必死に天城を説得しようとする。彼の声には、かつての友に対する強い信念と希望が込められていた。


 しかし、その答えは綾小路にとって期待したものではなかった。


「俺は帰らねぇぞ?俺に日本は狭すぎた。この世界では、なんでもできる。あんな小さな国に帰って何すんだよ?」

 天城は冷静に、だが明確に答えた。その言葉には迷いはなく、彼が選んだ道が揺るぎないものであることがはっきりと伝わってきた。


 天城の目は既にこの異世界での力と可能性に魅了され、過去の世界に戻る意志は全くなかった。綾小路の必死の訴えも、彼の心には届かなかったのだ。


 で!」

 綾小路が呟いたその瞬間、おおとり玲奈が素早く動いた。


「危ない!」

 玲奈は躊躇なく綾小路を庇い、その場を駆け抜けた青龍が咆哮を上げ、狙ったのは綾小路の喉元だった。鳳が間一髪で守らなければ、その鋭い牙に命を奪われていただろう。


「今ので死んどけよ。てめぇには“借り”がある。その面、二度と見せんなよ」

 天城は冷たく言い放ち、ポケットに手を入れたまま、その場を去っていく。その背中には未練も後悔もなく、全てを切り捨てる決意だけが感じられた。


 残されたのは、傷ついた櫻井と、彼を見守る綾小路たちだった。鳳は立ち上がり、冷静さを保ちながら言葉を紡ぐ。


「彼は無理ね」

 鳳の言葉には諦めが滲んでいた。天城には、もはや交渉や理解の余地がないことが明白だった。彼は仲間を殺すことに躊躇がない。それが、もう決して分かち合えない大きな溝であることを、玲奈は理解していた。


 綾小路は言葉を失い、ただ静かにその場に立ち尽くしていた。


「とりあえず戻ろうぜ」

 睦月の発言で彼らは戻ることにした。


 ♢♢♢


「な、なんでこれしかいないんだ」

 綾小路に待っていたのは更なる悲劇だ、20名以上居たクラスメイト達はほとんどが居なくなっていた。

 更には拠点が崩壊していた。


「どうやら、ここは長耳人エルフ族の領域テレトリーらしく襲撃にあった。しかも殆どのクラスメイト達も森に彷徨い違う場所に出た。」


 そう現れたのは『神宮城 ツバキ』『 五十嵐 柊紀しゅうき』『佐々木 典安』の三名だった。

 ツバキたちの言う通り、この地は長耳人エルフ族のテリトリーで、拠点は襲撃を受けたらしい。行方不明のクラスメイトたちを捜しに森に入った者たちも、エルフ族に襲われ、バラバラに散り散りになってしまった。

 さらには拠点も襲撃され、残りのクラスメイトたちは逃げ出すしかなかったのだ。

 つまりクラスメイト達は完全に今“世界“に散っていった。

「嘘だろ・・・」

 綾小路は膝から崩れ落ちた。


「綾小路君、大丈夫。」

 鳳は優しく綾小路の背中をさすり、落ち着かせようとする。彼の動揺は深かったが、鳳の存在が少しだけその心を和らげていた。


「これからどうすんすか、リーダー?」

 空気を読まずに声を上げたのは五十嵐だった。今、残されているメンバーはオタク組、綾小路一派、そしてツバキたちを含めた11名のみ。かつての大勢が今はすっかり減ってしまった。


「ここは危ない。とりあえず、櫻井と伊志嶺いしみねを治療するために街に出よう」

 睦月は冷静に状況を分析し、提案する。それに賛同したのは鳳だった。


「そうね。これだけの怪我、私の“聖加の浄生”じゃ回復しきれないわ」

 鳳は、彼女のスキルは多少の傷を癒すことはできても、瀕死の状態を治療するには力不足だった。今できるのは、傷の進行を遅らせること程度であり、早急な治療が必要だった。


「・・・」

 大国たいこくは違和感を感じていた、それはツバキ達だ、何故がニヤニヤしていると。

 だが、それを指摘しなかった。いや、ダメだと本能が訴えていたからだ。


「わかった街を探そう」

 綾小路は頷いた──。彼はこの地から離れることにしたのだ。



──

明日から主人公視点です!!

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