第17話:頑張れオタク軍団

南の班は『東堂 光』『櫻井健二』『伊志嶺 織』

『阿瀬川 亜鵞』オタク軍団・・・いや、暗黒騎士団の面々だ。

 オタク軍団の創設者、櫻井健二は堂々の森を歩いていた。

「ふん、爽快でござるな」

 ボソッと呟いた、櫻井は自身のユニークスキル

『龍型:青龍』に目覚めたのだ。四神の一人であり東の守護神『青龍』の力をその身に宿した。

 その力は絶大だ。中でも『竜化ドラゴン・スコール』は自分の種族を竜に変える事が可能だ。

「かっけぇ〜歩く姿も様になってる!!」

 櫻井の後ろを歩くのは東堂 光だ。オタク軍団を設立した櫻井に深い尊敬を抱いてる、故にこうやって煽てる。この行動が櫻井の自尊心を爆上げしているのだ。


「何かあったら頼るといいでござるよ」

 特にない髪の毛をふさっと巻き上げる。櫻井。

 完全に調子乗っていた。

「そりゃ頼りになるぜ」

 阿瀬川 あせがわ亜鵞あがるは思ってもない事を口にする。

 一見すると彼は他のオタクよりも容姿も整っている。

 実は彼はアニメや漫画に興味など無い、何故入っているのか、それは櫻井でも分からなかった。しかし来る者拒まずだ、オタクは寛容なのだ。


「あぁ〜早く戦いてぇな」

 伊志嶺いしみねは先程の戦闘で完全に調子付いていた、今のこれは人生の全盛期だ、特に日を浴びることも無く注目されることも無く過ごしていた、しかし今はどうだ、自分が目覚めたユニークスキル『異能型:六属性』

 チートだ、六つの属性を自在に操れるのだ。

 漫画やラノベでは一つしか基本的に操れない、しかし彼は六つ。優越感が押し寄せる、それに抗うことなく伊志嶺は受けれている。



「早速現れたでこざるね!」

 現れたの魔物だ、オタク達は忘れていた綾小路のなるべく戦うなってことを忘れて。迷いなく戦闘体制を取る。

 彼らは強い、そう強かったのだ。

 伊志嶺達は直ぐに戦闘態勢を取る。流れるような攻撃を開始していったのだ。


「ふぅ〜余裕」

 阿瀬川達は汗一つ流さない、魔物に対して恐怖感などまるでない、何故なら自分の方が強いからだ。弱い奴に恐怖など湧かない、所詮見かけ倒し。


「このスキルをもってゲームの世界に行きてぇな」

 伊志嶺は更に調子乗っていた、『六属性』を巧みに操り魔物を撃退していく。欠伸をしてBランク相当の敵を倒しているのだから。


「流石でこざるよ」

 櫻井は手を組み部下達の活躍を俯瞰していた、彼は戦わない、何故なら自分が“ボス“だと勘違いしているからだ。雑魚相手に腕を解く必要すらないのだ、完全にゲーム脳、いや自分が妄想していた事が現実となったのだ。そうなったオタクを止める者は居ない。


 油断していると大きな音共に現れた。奴が。

「あ、天城・・・」

 本能か、伊志嶺は呟いた、声色は震えていた。

 オタク達は一気に警戒体制を取る。


 何故なら彼らが目の前にしているのは喧嘩最強と謳われた『天城 あまぎおう』だ。

 天城の両手には“人“らしきものが存在している、天城はがっちりと大きな手で顔を鷲掴みにしていた。その人達は血だらけだ。


「よォ、ゴミ共」

 天城の目が光る、それだけで死にそうになる伊志嶺。

 だか・・・伊志嶺は恐れない、いや、恐れていたがかつての自分では無い。何故なら今の自分にはユニークスキルがある。

「天城、そいつらは」

 呼び捨て、本来なら有り得ない。天城は呼び捨てされる事を何よりも嫌う、それを知っているにも関わらず伊志嶺は呼び捨てした。それは挑発でもあり挑戦でもある。


 天城は冷ややかな目で伊志嶺を見下ろしながら、軽く肩をすくめた。周囲には緊張が漂い、空気が一瞬凍りつく。

「こいつら?知らねぇよ。とりあえず俺に敬語使えねぇから潰した」

 悪びれた様子もなく、当たり前だと言わんばかりの態度。一切の迷いがなく、その無関心さが逆に恐ろしかった。

 天城は両手に持っていたものを無造作に投げ捨てた。それは伊志嶺の足元に落ち、冷たい音を立てる。


 伊志嶺は足元を見て、落ちたものを確認する。彼の目に映ったのは細長い耳の人型。

(まさか、長耳人エルフ族・・・?)

 彼の脳裏に、かつて趣味で集めたオタク知識が浮かんだ。人とは明らかに異なるその特徴──長い耳が、伊志嶺の不安を煽った。

 しかし、天城の視線が再び彼に向けられた瞬間、伊志嶺は現実に引き戻される。


「それより、てめぇ、呼び捨てしたよな」

 その言葉は、伊志嶺の心臓に突き刺さるようだった。天城の態度からは、何かが起こる前兆が感じ取れた。

「あぁ、だからなんだ!」

「殺す・・・」

 天城に売り買い言葉は通じない、殺すと言われたら天城は本気で殺しにくる、そういう人間だ。

 伊志嶺は自分のユニークスキル『異能型:六属性』を展開する。


 天城が動いた瞬間、周囲の空気が一変した。

 火、水、風、氷、地、電の六つの球体が伊志嶺の周囲を囲み、伊志嶺を護るように浮遊していたが、天城は全く意に介さない。

 一瞬で距離を詰め、まるで空間を切り裂くかのように純粋なスピードで走り込んできた。


(速い・・・!)

 伊志嶺は思わず息を呑んだ。天城は強化魔法やバフなしでこの速度を出している。

 通常ならスキルや魔法で身体能力を強化するはずだが、彼はそんなものを使っていない。

 純粋な身体能力だけでこれだけの速さと威力を誇る。


「グゥッ!」

 次の瞬間、天城の拳が伊志嶺の防御を貫き、腹部に直撃した。ぶっとい拳が体に食い込み、衝撃が全身に走る。

 エネルギーを纏わせていないその攻撃にもかかわらず、力強さが尋常ではない。


(なんつう力ッ・・・!)

 伊志嶺は衝撃に耐えながら冷静に思考する。天城の拳にはエネルギーを纏わせていない、つまりこれは純粋な物理攻撃だ。

 それでも、衝撃は骨の芯まで響き、もし自分の体に魔力での防御を纏わせていなければ、腕の骨が一撃で粉砕されていたことは間違いない。


「天城ィ!耐えろよォ!」

 伊志嶺は風と炎の球体を組み合わせた、更に電気の球体も組み合わせ一気に放つ。電気のショックで相手の攻撃を止め炎で焼き付くし風の刃で切り刻む。

 完璧な攻撃術だった、しかし天城はニヤリと笑った。

「弱ぇ!」

 そのまま天城は太い手で伊志嶺の首をつかみそのまま持ち上げた、伊志嶺は空に浮かびジタバタと足を動かす。

「お前なんで」

 伊志嶺の目に恐怖が浮かんでいる。今まで無双していた、どんな相手でも簡単に倒してきた。

 怖い──と。

「・・・普通だろ?つーかその程度の攻撃で死ぬと?どうやったら死ぬんだよ」

 と、天城は笑いながら言っている。


 伊志嶺は思う、イカれてると・・・いや、イカれてるのだ。今思えば天城だけじゃない。『クマを素手で殺すやつ』もいた、『拳銃相手に勝つやつもいた』

 元々身体能力が『人間離れ』していたのだ、忘れていた自分が特別だと思い。

 どこまで行っても才能ある奴はどこにいても凡人より上を行く・・・勝てない、凡人は勝てない・・・


 否!!伊志嶺は憤慨する。これは下克上だ、伊志嶺の目に熱意が篭もる。

「舐めるなぁ、天城ィ・・・」

 伊志嶺に周囲に浮かんでいる球体が伊志嶺に集まる。

「ッチ・・・」

 危険を感じとった天城は距離を取った。


「これは、下克上だ。天城ィ、てめぇの表情に哀を刻んでやるよ」

「俺は人生で泣いたことがねぇ、生まれた時も、そしてこれからも」

「んじゃ!!今日は記念日になるなァ!」

 伊志嶺は勢いよく叫ぶと、雷の球体を天城に向かって放つ。球体は大気を切り裂き、激しい電光を伴いながら、一直線に天城の顔面を目指して突進した。


「おせぇ」

 天城は反射的に体を動かし、一瞬の身のこなしで雷を避けた。本来、そのまま直撃を受けても問題なかったかもしれない。

 だが、天城は避けていた。本能的な動作は、長年の戦いで刻まれたものだ。純粋な防御の判断ではなく、身体に染み付いた反応だった。


 それと同時に伊志嶺 走り出す、繰り出したのは上段の蹴り、直前に炎球を足に纏わせた。

「炎蹴!!」

 ドーンと大きく天城に直撃した。取ったと──思われたが次の瞬間天城は伊志嶺の足首を掴んだ。

「嘘だろッッ!」

「ご苦労、雑魚なりに頑張った。けど終わりだ」

 天城は蹴りを繰り出す、それは伊志嶺の横頭に直撃しそのまま伊志嶺は倒れていく。

(頭が痛てぇ・・・立てねぇよこれ)

 頭がキレ、血が流れる。ズキンズキンと痛みがする。

 立ち上がろうとも力が入らない、ただ痛い。

『東堂光』はビビって動けない、彼は戦闘用のスキルでは無い。

『阿瀬川 亜鵞』も警戒をして相手の出方を見てるようだった、終わりだ──そう思った時。

 ぱちぱちと乾いた音が鳴り響く。


「あぁ?」

 不快に思ったのか天城は“そいつ“視線を向けた。

「君なら僕と遊べるなござるな」

 口を開けたのは『櫻井健二』だ。オタク軍団を設立した男。櫻井は大きな岩から飛び立つと腕を解く。


「天城く──」

 櫻井が最後まで言葉を吐く前に天城の拳が振りかぶる。

「ふん、でござるか」

 櫻井は右手で天城の攻撃を受け止めていた、本来なら有り得ない光景だ。

 だか櫻井はやってのけた。それもそのはず櫻井は『竜化ドラゴン・スコール』を発動しているのだから、竜並に硬い身体だ。人間程度が傷をつけられる訳が無いのだ。

「──ッ?!」

 天城も驚いているようだ、こんな雑魚に攻撃を止められるとは思ってなかったのだろう。

「では、次はこちらから行くでこざるよ!」

 櫻井はお礼として天城の腹を思いっきり殴る、その勢いで吹き飛ば天城。

 岩壁にぶつかり立ち煙が舞う。

「なるほど、これなら多少は遊べそうだ」

 何事も無かったように天城は立ち上がる、無傷のように見えるが──ダメージは入ってるだろう。

 天城は全身にエネルギーを張り巡らせる。


 その直後天城が消える・・・いや、高速移動だ。

 呼応するように櫻井も応じる、真空波が飛び交う。

(何も見えねぇ)

 東堂は怯えている、天城と対峙して感じた威圧感。動くことすらできない、目の前には死にそうな伊志嶺が居る。すごいやつだ、と思う。あいつを目の前にして動けたんだから。

 今は我らがリーダーが戦っている、今の自分に出来る事はなんだろうか、そう考える。

「伊志嶺、阿瀬川!逃げるぞ!」

 その答えが邪魔にならないように逃げることだ、リーダーを信じ伊志嶺を担ぎその場から離れた。


(良い判断でこざるよ)

 それを横目で見ていた櫻井はそう評価した。

 幸い天城は奴らを気にしてない様子だ、何時でも殺せるからだろうか、眼中に無いのだろう。


「そろそろ終わらせるでこざるよ!」

 櫻井は己のユニークスキル『龍型:青龍』の全開する。確かに天城は強い、しかしそれ以下でもそれ以上でもない。

「青龍召喚!!」

 櫻井の背後に現れたのは青一色の青龍だ。主に『水属性』の攻撃を得意としている。

「でけぇ蛇だな、おい」

 それを見て尚天城は不敵に笑っている。

「んじゃ俺の力の一端を見せてやるよ」

 そう言う天城は力を解放した──。

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