第16話:それぞれの行動
翌朝、食堂で事件が勃発した。静かな朝食の時間を打ち破るように、
「ふざけんな、てめぇ!」
その怒声に、周囲のクラスメイトたちは一斉に振り返った。五十嵐の前に立ちはだかるのは須藤 大輝だ。五十嵐は須藤の胸ぐらを掴む。
「あぁん?ここで能力使うなって言ってんだよ!危ねぇだろうが!」
須藤の低い声が食堂に響く。身長も体格も五十嵐より明らかに大きく、圧倒的な威圧感を放っていた。通常なら、五十嵐が須藤に逆らうことはなかっただろう。しかし、今は違った。
「お前、調子に乗んなよ?」
五十嵐は鼻で笑うように言い返す。
「なんなら今ここでお前を殺してもいいぜ、俺は。」
五十嵐の言葉は、これまでの彼からは想像できないものだった。未知の力──スキルを手に入れたことで、自分の価値が大幅に上がったと信じていた。須藤に対しても、もはや恐れはなかった。
むしろ、その力が自分を優位に立たせると考えていた。
周囲のクラスメイトたちは凍りつき、二人の間に漂う緊張感に息を飲んだ。
「落ち着け、二人とも!何が起きたんだ!」
綾小路が颯爽と食堂に現れ、状況を把握しようとした。
しかし、その瞬間、五十嵐は怒りの矛先を向け、綾小路の胸を力強く叩いた。
「部外者は引っ込んどけ!!」
綾小路は一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻した。五十嵐の腕を払いのけながら、落ち着いた声で言った。
「君達たちがこうして争っていても、何も解決しない。話をしよう。まずは冷静に、状況を説明してくれ。」
優しい口調だが、確かな圧がある。それを感じ取った五十嵐はあとずたりした。所詮彼は小物なのだ。
「う、うるせぇ。」
そのまま五十嵐の勢いが落ちていった。
「能力は危険だ。むやみに使うのはやめよう」
綾小路は冷静な声でクラスメイトたちに警告した。
その言葉に、一人の女性が即座に応じた。
「賛成!!賛成!!」
と、声を上げたのは、学年の四大天使の一人『東雲姪』だ。更に続けて鳳 玲奈も声を上げた。
「私たちはまだこの世界のルールや自分の強さを把握していない。スキルを無闇に使えば、逆に危険を招く可能性があるわ。」
その言葉に他のクラスメイトたちも頷き始めた。
スキルの危険性を重々承知しているからだ、しかし全員がそうという訳じゃない。
少なからず、綾小路の提案に不満を抱く者もいた。大勢の前では表立って反対しなかったものの、密かに不満を口にする者たちがいた。
人里離れた場所に集まった二名のクラスメイト、五十嵐 紀柊と佐々木 典安は、苛立ちを隠そうともせず会話を交わしていた。
「ッチ、ムカつく奴だ。せっかくスキルがあるのに、なんで使うなってんだよ。」
五十嵐が苛立ちを込めて悪態をついた。怒りに任せ木を蹴る、本来ならビクともしないがへこみが出来ていた。
「本当それだわ。能力が手に入ったってのに、いちいち制限されて、つまんねぇよ。」
佐々木も同じく不満を露わにし、同調した。
二人は、自分たちが手にした強力なスキルを自由に使えないことに腹を立てていた。未知の世界で力を試したいという欲求が強く、慎重な行動を呼びかける綾小路の方針に反発していたのだ。
「んじゃ、面白いことしねぇか」
そう言い放ったのはツバキだった。その声に、五十嵐たちは驚愕の表情を浮かべた。
いや、それよりも気配がまるで感じない。事前に周辺の調査を徹底していた彼らは、人の気配を全く感じ取っておらず、ツバキの突然の登場には思わず反応してしまったのだ。
「ツバキ、お前、いつからそこに?」
五十嵐は焦りながら問いかける。その間にも、ツバキは一歩づつ近づきながら、冷静に続けた。五十嵐にとってツバキはトラウマそのものだ。かつて自分の暴走族を潰されなのだから。それ以来どこか関わりずらいのだ。
「安心しろ、俺もお前らの意見には賛成だ」
五十嵐はその言葉に一瞬だけ安心感を覚えたものの、すぐに疑念が湧き上がった。
「どういうことだ?それって?」
五十嵐は疑念を深めたまま問いかけた。ツバキは冷静に答える。
「だから言った通りだよ。 ド派手なことしようぜ?退屈だろスキルも自由に使えない、行動も制限される。」
「・・・」
五十嵐は眉をひそめた。
「近々おもろい事が起きるはずだ・・・そん時──」
ツバキの冷徹な言葉に、五十嵐と佐々木は一瞬の沈黙を迎えた。五十嵐はツバキの提案に、一理あると感じた。
現状、クラスメイトたちの実権を握っているのは綾小路であり、彼の指導のもとで物事が進行している。そのため、綾小路の意向に従うことが求められているが、その方針に対して不安を抱いている者も少なからず存在している。
確かに一理あるなと、五十嵐は思った。綾小路が権力を持ち続ける限り、自分たちが望む自由な行動は制限される。
「それでどうやってやる」
と、五十嵐は応じた。
「つっても綾小路は人徳もある一筋縄で行かないだろ」
自分だけがユニークスキルを獲得していると言う状況は特別過ぎる。
そもそもの話五十嵐と佐々木はお互いにユニークスキルの存在を確認している。
つまり自分だけがユニークスキルを獲得しているという説は破綻したのだ。
そうなれば綾小路も持っている可能性が高い、所持していると言う前提で動かないと足元を救われる可能性がある。
「だから、内部から崩壊させればいい」
ツバキの提案に五十嵐は聞き返した。
「と、言うと?」
ツバキは語った、今後この周囲の情報を収集するためにクラスメイト達は一時的にバラバラになるその時に問題を起こすと。五十嵐と佐々木は疑問を持ちつつも頷いた。
ツバキの脳内には思い描く未来が既に存在していた、後はそれになぞって行動するだけ。誰一人としてツバキの邪悪な思惑には気づかない。
♢♢♢
綾小路は提案する、他のクラスメイト達を探しに行く為に班を組むと。
ここにクラスメイトが来る可能性もあるので何名かは残していく方針に決まった。異論は出なかった。
流石、綾小路の人徳だろう。これだけスムーズに進むのだから。
東の班は『1綾小路 奏』『
『
『
西の班は『藤原 みつき』『
『天海ルナ』『東雲 姪』のギャル軍団だ。
南の班は『東堂 光』『櫻井健二』『伊志嶺 織』
『阿瀬川 亜鵞』オタク軍団・・・いや、暗黒騎士団の面々だ。
北の班は『
『
の体育系メンバーだ。
残りメンバーは居残り組だ。
そうして彼らは出発した、遠くまで行かないように綾小路は釘を刺す、人がいたら敵対せず、魔物と遭遇しても極力戦闘を避けること。
そして夜は遅くならないこと、それを肝に綾小路達は足を動き始めた。
♢♢♢
東の班は「綾小路 奏」「
「
『
綾小路をリーダーに彼らは主に東の方向を探索していく。
「しかし、流石綾小路だな。」
リーダーシップに感心したのは
「いや、僕が凄いんじゃないよ。他の子達が優秀なんだよ」
「そう、また謙遜を。貴方のリーダー性は誇るべき長所だと思うわ」
女子からの人気も高く告白されて数は数しれず。
そのカリスマ性に誰もが惹かれるのだ。
「いや・・・」
「いやいや、お前すげぇだろ。実際に問題児が多いうちのクラスの委員長なんだからよ」
しかし、学力や身体能力が秀でた人も多いのもまた事実。名門校だけあるのだ、彼らが通う学校は“実力が全て“なのだから。
ちなみに大和は綾小路の幼馴染だ、綾小路が“光“とすれば大和は“闇“だ。綾小路のない無情さを補っている。
「そ、そうかな、あんまり実感無いけど」
と、照れくさそうに頬をかく綾小路。
本当に気にしてなさそうだった。
彼が会話を弾ませていると視界に何が動く者を捉えた。
「誰がいるのか・・・」
綾小路は警戒しながら問いかける。なるべく挑発しないように優しい音色で、しかし返答は無い。
銃声が鳴り響く、それは睦月の足を射抜いた。
「グッ・・・」
足を抱えて座り込む、誰もが理解出来ない。綾小路は素早く動いた。
「大丈夫か!鳳さん!」
「えぇ、分かってる!」
すぐさま、鳳は回復スキルをかけた。鳳のユニークスキルは『天使型
その権能の一つ『聖加の浄生』は回復能力があるのだ。
「大和、わかってるか。」
「分かってる、逃げ道を探す」
綾小路は流石だな、と思う。長い年月を過ごしただけあるの、自分の気持ちを直ぐに読み取ってくれたのだ。
大和は周囲を細かく観察する、逃げ道を探すように。
少しずつ後ろに下がっていか。
再度銃声が鳴り響く、今度は鳳の方だった。
「やっぱりそっちか!」
綾小路は推測していた、まず潰すなら支援系だと、自分ならそうする。だからこそ完璧に相手の攻撃を読む事が出来た。
綾小路の胸に銃弾が当たる。
「綾小路、お前」
それを見た大和は驚いていた。なんせ死んでいなかったのだ。
「大丈夫だ」
綾小路は瞬間的に『不屈の肉体』を発動させていた。効果は一定時間不死身になるスキルだ、そのおかげで無事だったのだ。
綾小路達はその場から直ぐに離脱した。
「ん・・・何物」
狙撃手シシアは静かに呟いた。
明日は12時に2本投稿します!
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