第15話:クラスメイト編

 クラスメイトたちは、突然見知らぬ場所に転移させられたことに気づき、驚きと戸惑いの声が次々と上がっていた。目の前に広がるのは見たこともない不思議な風景。広大な広場が広がり、その周囲はすべて森に囲まれている。


「ここ・・・どこだよ?」

 誰かが呆然とした声でつぶやく。その声はかき消されることなく、静寂の中に響き渡る。


「おい、俺たち死んだんじゃなかったのか?生き残ったってことなのか?」

 別のクラスメイトが焦燥と不安を滲ませながら叫ぶ。飛行機事故で確かに命を落としたはずの彼らが、なぜかこうして存在していることに、誰もが同じ疑問を抱いていた。

 周囲を見回すが、どこにも手掛かりはない。この場所は一体何なのか?どうしてここにいるのか?不安と疑念が次々と頭をよぎり、気持ちの整理がつかないまま、ただ立ち尽くす者も少なくなかった。


「まさか・・・本当に異世界ってやつなのか?」

 誰かがぼそりと漏らしたその一言が、状況の不可解さを象徴している。


「おい!んなこと有り得ねぇだろ!現実的に考えろや!」

 低く怒鳴るように声を上げたのは、大柄な男、“須藤大輝“。

 体育系のエースであり、たった一人で弱小チームを全国大会まで導いた経験がある。

 その体格と戦闘力はクラス内でも一目置かれ、喧嘩となれば右に出る者はいないと言われるほどの存在だった。


 須藤の発言に、他のクラスメイトたちも一斉に野次を飛ばし始める。異世界という非現実的な仮説に納得できない様子だった。


「現実的に有り得ないことが起きてるからこそ、異世界だと考えるべきじゃないのか?俺たちは確かに一度死んだんだ。飛行機が墜落してな。何かしら非科学的な現象が俺たちに起きたのは間違いないだろう?」

 冷静な口調で言い返したのは、小林海斗。学年トップの成績を誇り、医者の家系に生まれた彼は、知的な雰囲気をまといながら、メガネをクイッと押し上げた。


「ふざけんなよ、小林!お前、夢でも見てるんじゃねぇのか?くだらねぇ!」


 須藤は小林の言葉にすぐさま反発したが、小林は威圧されることなく冷静だった。


「感情的にならないでくれないか?そうじゃないと、まともな話し合いができない。君みたいな馬鹿な人と、同じヒト科の括りとはつくづく心外だ」

 挑発的な口調で小林は鼻で笑いながら続ける。須藤が怒りに任せて詰め寄ろうとした瞬間、緊迫した空気を破るように、別の声が響いた。


「みんな、ちょっと待ってくれ!こうして俺たちが揉めても、何も進展しないだろう?」


 その声は、学年で一番人気を誇る綾小路葵のものだった。整った顔立ちと落ち着いた物腰は、クラスメイトたちに絶大な信頼を寄せられており、彼が一言声を上げると、一瞬でその場の空気が変わった。


「まず、ここがどこなのか。そして、この世界について調べるべきだと思う。」


 綾小路の言葉にクラスメイトたちは頷き始める。しかし、そのときクールな声が響いた。


「賛成よ。でも、一ついいかしら?」


 発言したのは、クラスの美形クール系女子、おおもり玲奈だった。は豊かな胸とモデル並みのスタイルを持ち主だ。


「どうしたんだい?」


 綾小路が問いかけると、鳳玲奈は少し眉をひそめた。


「リオンがいないわ。それだけじゃない。他の人も居ないわ。」

 玲奈の言葉に、クラス全体がざわついた。みんな自分の事だけで精一杯で周囲を見れなかったのだ。


「そうだね・・・。それも含めて、近くの調査をしよう。見知らぬ世界の可能性が高い今、慎重に動こう。人を見かけたら、敵対的な行動は控えて。」

 綾小路が冷静に提案する。もしこれが異世界なら、現地の人々と衝突すれば、何が起きるか分からない。自分たちは何の武器も持たない高校生だ。慎重に動かなければ、圧倒的な不利な立場に追い込まれることは明白だった。


 だが、その瞬間綾小路の身に有り得ない事が起きた。身体に電気が走る感覚。

(統率リーダーシップ??)

 その瞬間綾小路は自身のユニークスキルを朧げながらに理解した。


『ユニークスキル英雄型:神人ヘラクレス

 その権能は統率と対キラー、身体能力。

『不屈の肉体:発動中は不死身になれる』

『神殺しの拳:どんな種族に対しても弱点属性のダメージを与える事が出来る』

『十二の試練:対象に12の試練を与える、また自分に課す事も可能』

毒龍ヒドラの牙:猛毒を放つ事ができる、武器やスキル、魔法に組み合わしてもいい』

『ネメアの獅子の毛皮:敵の物理攻撃や魔法を完全に

 無効化する強力な防御力を誇る 発動時間 1分』

統率リーダーシップ・・・???』


 以上の6つだ。圧倒的な主人公さいきょうの力。それこそが神人ヘラクレスの権能だ。

 クラスメイト全員が、異常な状況にあることを本能的に感じ取った。綾小路だけでなく、誰もが自身の中に眠っていた力に気づき始めていた。


「へぇ〜、これが俺のユニークスキルか…」


 須藤大輝が、まるで当たり前のように呟いた。彼のユニークスキルは「英雄型:弁慶」

 尋常ではない力を秘めていた。規格外の能力に、彼の口元がニヤリと緩む。


「これが私のスキルか・・・」

 玲奈もまた、自分の中に新たな力を感じ取っていた。彼女のユニークスキルは「天使型浄聖天使ハニエル」聖属性に特化したそのスキルは、悪魔や魔人に対して圧倒的な力を発揮するものだ。


「ふーん、いよいよ本当に別世界だな・・・」

 小林も、メガネをクイッと上げながら呟く。彼のユニークスキルは「英雄型:聖徳太子」。知識欲と解明力に特化したこのスキルは、小林の知的な側面をさらに際立たせていた。


 それからの行動は迅速だった。綾小路はリーダーシップを発揮し、クラスメイトたちにそれぞれの役割を指示した。周辺の調査を行うため、班ごとに分かれて探索を始めたのだ。


 ♢♢♢

 東に転移したのはツバキを筆頭にした五人だ。


「にしても、お前、リオンがいなくて残念だな」


 ツバキの後ろを歩いていた阿瀬川あせがわ亜鵞あがるがからかうように声をかける。彼は須藤ほどではないものの、身体能力に優れたクラスメイトだ。

 だが、須藤の存在が大きすぎるせいで目立たず、彼に対して嫉妬に近い感情を抱いている。


「本当だよ、つまんねぇな。この世界、ぶっ壊しちまおうかな」

 ツバキの冷ややかな声に、阿瀬川は笑って答える。


「ぶっ壊すって、お前・・・現実的に考えたら無理だろ?と、思っていたが。この世界には未知なる力があるんだよな」

 阿瀬川は手に電気をまとわせて見せた。彼が手に入れたのは、電気系のスキルだ。


「そうだな。俺のスキルも異能型に分類されるらしいぞ。『六属性』とか言って、火、水、風、氷、地、電の六つの属性技が使えるらしい。強くないか?」


 阿瀬川の隣に立っていた伊志嶺いしみね織田おりたが自慢げに語る。

 彼のユニークスキル「異能型:六属性」は、火、水、風、氷、地、電の属性ダメージを操る強力なものだった。手数が多く、様々な状況で使える攻撃力を誇っている。


「てめぇ、俺だけの電気とっけんを奪うんじゃねーよ!俺が劣化版みたいじゃねぇか!」


 阿瀬川は悔しそうに叫ぶが、伊志嶺は煽るように肩をすくめて笑った。


「いやいや、電気“だけ“ならお前が勝ってるだろ?」

 軽口を叩く伊志嶺に、阿瀬川はますます苛立つ。それを横目で見ながら、ツバキは内心で静かに考えていた。


(どうやら、俺だけが特別じゃないな・・・まぁ当たり前だわな、俺のスキルは隠しておく方がいいか)

 そんな思考を巡らせていたツバキ。スキルが不明と言うアドバンテージを捨てるなど愚の骨頂だ。

 こいつらは馬鹿だなと思いながら足を運んでいた。

 その時、前方に何かが現れた。突然現れたのは、巨大な魔物だった。


「おいおい、なんだこれ!」

 阿瀬川が驚愕の声を上げる。周囲のクラスメイトたちも、魔物の圧倒的な存在感に狼狽し、声を上げ始める。“ただ“一人を覗いて。


「おい、忘れたか?俺たちには力があるんだろう?守られるだけの存在なのか?弱い奴らなのか?」

 ツバキの冷静な声が仲間たちを鼓舞する。その言葉に奮い立ったクラスメイトたちは、魔物に立ち向かう意志を見せ始めた。


「行くぜ!」

 伊志嶺は自らのユニークスキル『異能型:六属性』を全開で発動した。六つの属性、火、水、風、氷、地、電の球体が一つに重なり、魔物に向かって飛んでいく。そして、魔物に直撃した瞬間、大規模な爆発が辺りを轟音と共に包んだ。


「うぉおぉぉぉ!!」

 クラスメイトたちは一斉に声を上げ、未知の力を体感した喜びで興奮を隠せなかった。


「やっぱ、ここやべー!」

 伊志嶺は自分の力だと信じられない様子だった。

 何物でもない自分がこれほどの力を扱えるのだ。正に気分主人公だ。


(思った以上にすげぇ力だな…これがこの世界か…おもしれぇ、ここなら退屈しないかもな。それに“あいつ“の気配も感じ始めた)

 ツバキは狂気的な笑みを浮かべた。向こうの世界では退屈だった。熊を素手で殺し、サメを海で仕留めたこともある。しかし、それでも満足できなかった。唯一張り合えたのはリオンだけだったが、今はそのリオンもいない。

 だが、この世界には未知の力がある。ツバキの心は期待で躍っていた。


 そのとき、遠くから声が聞こえた。


「君たち、大丈夫か!」

 綾小路たちが爆発音を聞きつけ、駆けつけたのだ

 綾小路の顔には緊張が滲んでいたが、ツバキはただ冷ややかに見つめていた。


 ♢♢♢


 それから20名程が集まると、綾小路は中心に立ち、冷静に口を開いた。


「さて、みんなのおかげで、ある程度の情報が集まった。まず、この数キロ圏内には人工物らしきものは一切確認できなかった。それに、人影も見当たらなかった。」

 綾小路は冷静に喋る。状況の深刻さを示すかのように静かで落ち着いていたが、その裏に隠された焦りや不安を誰もが感じ取っていた。周囲のクラスメイトたちは、重苦しい空気の中で黙って耳を傾けていた。


「それと、周辺の地形は未知のものだ。見たことのない植物や動物が確認されている。現実の世界とは異なる環境に置かれている可能性が高い。」

 綾小路の言葉に、一部のクラスメイトは顔を見合わせた。


「現状、ここがどこか、そしてなぜ僕たちがここにいるのかはわかっていない。ただ立ち尽くしているわけにはいかない。今後の行動を計画しよう。」


 綾小路はそう言って、次の指示を出すべく一瞬の間を置いた。落ち着いた態度が、混乱する仲間たちにわずかながらの安心感を与えていた。


「まず、拠点を作る。ここにとどまる以上、しっかりとした防御体制を整える必要がある。そして、次に探索班をもう少し広範囲に送り出す。もう少し情報を集めよう。人との接触もまだ諦めるには早い。」

 綾小路の提案に誰もが頷いた。


「なら、俺に任せてくれ!」

 と、東堂 光が前に出て、自信満々に声を上げた。

「俺のユニークスキルは生成系に分類されるらしいからよ。」


 東堂のユニークスキルは「神将型:金屋子神かなやごかみ」という名のスキルで、物を生成する能力に特化していた。彼が一歩前に出ると、両手を前に掲げてスキルを発動した。


 次の瞬間、目の前に広がる空き地に巨大な家が一瞬で姿を現した。壮大な造りの建物が、彼の手によってまるで魔法のように現れたのだ。スキルの名は「高級家柄リゾート」。このスキルによって五つの異なる家がランダムに生成するのだ。

 その時に出現したのは、リゾート地に相応しい豪華な家だった。


「おおっ・・・!」

 クラスメイトたちは驚きの声を上げ、目の前に突如現れた大規模な家を見上げていた。


「この家で拠点を作ろう。内部には寝る場所もあるし、食事も作れる設備が整っているはずだ。」

 東堂は胸を張って言った。

 その豪華な家は、まさに異世界での生活の拠点として理想的な場所だった。


 中に入ると女性陣が声を上げた。

「うわぁ〜凄い!!」

 と、声を上げたのは四大天使の東雲 姪だ。小悪魔系の美少女であり小柄な少女だ。

「凄いね、やっぱ東堂くん頼りになる」

 わざとらしく姪は東堂の肩に抱き着いた。

「ま、まぁな」

 ヘヘッと東堂は完全に惚れている様子だった。こういう勘違いさせやすい行動は密かに女性の間で反感を買っている。


「タケル君・・・」

 その反面いつも暗い顔をしているのは桐谷詩音だ。四大天使の一人だ。

「大丈夫だよタケル君は生きてる」

 そう彼女を慰めているのは 村雨 シンジだ。

「グスん・・・本当かな」


 それぞれの葛藤・・・それはやがてクラスを崩壊に追い込んでいく。

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