第10話:VSニセガミ

【分析完了。個体名:雷の怪獣ケラノウスの情報を元に、固有スキル雷撃ケラノウスを獲得しました。

 また、雷の怪獣ケラノウスの情報因子はデータに保存しておきます。必要時に再利用可能です。擬態も可能になりました】

  早速俺は使ってみた。雷撃ケラノウスは対個人用って感じだ。動きは直線的だがその分速度と貫通精度が高い。

 風速に近い速度なので避けるのもほぼ無理だろうな。

 炎熱プロメテウスは広範囲の攻撃だ。

 攻撃力はそこまで高くないが殲滅には向いている。ただエネルギーを一点に集めれば高威力出す事も可能だけど。

 その分エネルギー消費も激しくなる。

 どちらも要所要所で使う事にしよう。

 そして俺は擬態をする事にした、まじでかっこいい。

 似たような魔狼よりも素早さは雷の怪獣ケラノウスの方が圧倒的、パワーも攻撃力も・・・魔狼に擬態する事は無さそうだ、唯一勝ってる点は俊敏性、または機動力だ。そして、擬態した際のエネルギー消費率だ。擬態する対象が大きければ大きい程必要な身体を補う為にエネルギーが消耗されていくのだ。

 さて、色々確認したので俺は洞窟内を歩いた。


 巨大な扉を押し開けると、ギギと鳴る。

 異様な空気が俺を包んだ。そこに待ち受けていたのは、悠然と岩の椅子に腰掛けるニセガミ。足を組んでる。


「お見事!流石はリオンだ。」

 ニセガミは称賛の言葉をかけてきたが、その声には余裕が見え隠れしている。俺は、別に褒められて嬉しくもなく、ただ一言応えた。

 ニセガミは言葉を続けた。


「けど、足りないな。まだ足りないな!肉体依代ミディアム!」

 その言葉と同時に、ニセガミの前に現れたのは、白い肉体の三体。それぞれがニセガミの命令に従い、ゆっくりと姿を変えていく。

 最初に形をとったのは腐敗した死体のような姿の腐食人ゾンビ。映画に出てくるようなグロテスクな外見で、腐敗が進んだ箇所からは骨が露出している。


 次に変わったのは、液体スライム。だが、俺の知っている青いスライムではなく、全身が真っ黄色だ。AIの分析によれば、強力な麻痺エネルギーを持っているらしい。

 最後に現れたのは、筋骨隆々のトロール。手には棍棒を握りしめていて、その巨体が圧倒的な存在感を放っている。


「僕は神になる者だ──命の生成など造作も無いのだ。」

 と、ニセガミは自慢げに語る、悪いが俺は奴の言葉に応えられる程余裕は無い。


 ニセガミが軽く手を上げた瞬間、最初に動き出したのは腐食人ゾンビだった。腐敗した体がカタカタと音を立てながら、直線的に俺に突撃してくる。攻撃は右腕の大ぶり。単調な動きだ。読むのは容易く、俺はそのまま横にステップして避けた。


 同時に、チャンスを逃さずに雷撃ケラノウスをニセガミへ向けて放つ。雷の閃光が一瞬で距離を詰め、ニセガミに直撃する・・・はずだった。しかし、予想通りニセガミの周囲に展開された結界がその一撃を軽々と防いだ。


「ははは、その程度の攻撃じゃ僕を殺せないよ、リオン。」

 ニセガミは余裕の笑みを浮かべている。

 俺が一瞬気を取られている間にも、腐食人ゾンビは再び襲いかかってくる。だが、動きは鈍い。トロイもいいところだ。簡単に避けられるが、油断は禁物だ。

 問題はあのトロールか・・・俺の視線は、後方で控えている巨人トロールに向けられる。奴は一撃の破壊力が高い。もしトロールが動けば、一瞬のミスが命取りになる。トロールの方はAIに任すわ。


 俺はすぐさまAIに命令を下した。攻撃プログラムを開始してくれ──と。

 AIが了承してくれたので目の前の敵を倒す事にする。


 俺は腐食人ゾンビ麻性液体スタン・スライムの対処を優先することにした。奇妙なのは、ニセガミが未だに戦闘に参加する気配を見せないことだ。

 もし奴が本気で参加すれば、今の俺では勝ち目がないかもしれない。それなのに、何を考えているのか、意図が全く読めない。

 まぁいい・・・今は好都合だ。利用させてもらう。


 俺は再び気を引き締め、目の前の敵に集中する。ニセガミが動かない今がチャンスだ。この隙に少しでも敵を削る。


「お前、そろそろ鬱陶しいぜ!」


 俺は右手を炎熱プロメテウスに擬態させた。こんな馬鹿げた行為は本来なら不可能だが、俺には『情報操作』がある。自分の体内の情報を自在に操作し、擬態すらも現実のものに変えることができる。これが俺の能力だ。


「ァァァ!」


 腐食人ゾンビは俺の炎に焼かれ、苦しそうな呻き声を上げる。しかし、妙だ。トロールも麻性液体スタン・スライムも、全く動かない。俺は今、完全に隙だらけの状態なのに、なぜ襲いかかってこない?


 この不自然な静けさに一瞬の不気味さを感じつつ、俺はその不安を振り払う。今は考えるよりも動く時だ。腐食人ゾンビを引きちぎり、そのままトロールに向かって『設定怪物システム・モンスター超濃度火力エンバーズ』を放つ。


 俺が事前にAIに命じたおかげで、攻撃プログラムは準備万端だった。トロールは抵抗することなく倒れた。その巨体は崩れ落ちた。


 麻性液体スタン・スライムも同じように倒そうとしたその瞬間、ニセガミが自らスライムを破壊した。


「お前、何がしたいんだ?」


 俺は思わず問いかけた。ニセガミの行動が読めない。だが、彼は冷静に、淡々と答えた。


「ハンデだよ。僕は“神”だ。これくらいのハンデをやらないとつまらないだろう?さぁ、さっさとそいつらからスキルを奪えよ。」


 ニセガミは俺の能力を完全に把握しているらしい。俺がスキルを奪う能力を持っていることなど、すでにバレている。思い返せば、俺はこれまでその能力を惜しみなく使い、実験もしてきた。

 手の内を見せすぎたか・・・


「まぁともかく怖いが、俺はニセガミの言う通り、それぞれからスキルを奪った。」


 俺は腐食人ゾンビから『腐食』を獲得した。このスキルは触れた物を腐食させる効果があり、生物にも適用される。次に麻性液体スタン・スライムからは『麻痺』の効果を得た。触れた対象を麻痺させることができる。そして、トロールからは『酸吐アシッド・ブレス』を手に入れた。これで岩すら溶かす強力な酸性の液体を放つことができる。


「お前、随分と慢心だな。」


 ニセガミが俺を強化させる機会を意図的に与えているのが見える。いや、今回だけではない。炎の化身プロメテウス雷の怪獣ケラノウスの時もそうだった。俺が倒せる敵ばかりだった。まるで、俺を強化させるために彼は戦わせているかのようだ。


「神が慢心ではなくてどうする。神は常に自分を驕り、奮い立たせる。それに、僕にとって君は強化されてもない。Lv1が2になった程度だ。」


 ニセガミはそのまま立ち上がり、俺を見つめる。


「僕は君の肉体が欲しい!君の肉体は異常だよ!まさに神だ!いや、この迷宮で生まれたのだから当たり前だ!僕の肉体よりも!遥かに!遥かに!!・・・悪い興奮してしまった。」


「何が言いたい?」


 嫌な予感がして、俺は最大限の警戒を鳴らす。ひっそりと攻撃プログラムを開始した。脳内に響く声。


【攻撃プログラムを開始します──

 システム起動プロセスを開始します。現在の状況を分析中。情報収集を行い、敵の動向を把握しています。

 全センサーが稼働し、データがリアルタイムで解析されています。

 攻撃モードの起動を確認。目標の特定を行い、ロックオンプロセスを開始します。

 最適な戦略を計算し、効果的な攻撃手段を選定中。

 攻撃準備が整いました。次のステップに移行します。

 10・・・9・・・8】


 AIが静かに作動している中、ニセガミは興奮状態で話を続けていた。馬鹿が!その顔にエネルギーをぶち込んでやるぜ。


「僕は君の肉体が欲しいの。でも、神は寛容だから、君に抗う権利をあげるよ。」


【3・・・2・・・1、攻撃準備完了】


「んじゃ遠慮なく超濃度火力エンバーズ!」


 超濃密度のエネルギーが解き放たれる。ニセガミはその場から動かない。反応できないのか、それとも避ける価値がないと思っているのか。洞窟を揺らすような衝撃音が響く中、俺はニセガミの不気味な笑い声を耳にした。


「アハハハ、素晴らしい!それが君の限界か!」


 その声が響くと同時に、まるで時間が止まったかのように感じた。衝撃波がニセガミの周囲を吹き飛ばし、土埃が舞い上がる。だが、ニセガミは無傷だった。


「君の攻撃は僕に通じない。神の力は、そんなものでは揺るがない。」


「あはは!!!!いいね!もっと惨めに抗えよ!」

 ニセガミの声が洞窟の壁に反響し、俺の心を刺激する。あのクソガキが、何を笑ってやがるのか。こいつを絶対に潰してやる。だが、目の前に広がる結界の強度はなかなかのもので、簡単に壊せるとは思えない。物量で攻めれば、いずれは壊れるだろうが、ゴールが見えないマラソンを走っているような感覚だ。焦りと不安が心に影を落とす。


「おい、結界解いてくれねぇか。」

「悪いけどそれは出来ない。神と人の間には壁があるのだから。」

 ニセガミの冷たい言葉が、さらに苛立ちを募らせる。さっきから神、神とやかましい。俺の感情が高ぶるのを感じながらも、状況を冷静に分析する必要がある。


【対象の結界に干渉すれば解除可能です】

 AIの声が耳に響いた。なるほど、まずは近づくことが重要らしい。果たして、こいつが素直に触らせてくれるかは疑問だが、挑戦してみる価値はあるだろう。俺は思い切って走り出した。


「物理で攻める手段が悪くない、だが君は危険だから抵抗させてもらうよ!」

 ニセガミはそう言い放ち、瞬時に魔法陣を展開した。その瞬間、無数の魔法から放たれるのは、灼熱の炎だ。俺はそれを見た瞬間、すぐさま炎の化身プロメテウスに変化した。炎無効の特性を持つこの姿なら、無効化できるはずだ・・・と思ったが。


「いってぇぇぇ!」

 直撃した瞬間、異変を感じた。それは、炎属性の炎の化身プロメテウスにとって弱点の水属性の攻撃だったのだ。


「魔法はイメージ力、スキルとは汎用性が違うのだよ。灼熱の炎と見せかけて水属性の攻撃。雷と見せかけて回復の効果の魔法。イメージ力でなんともなる。」

 ニセガミの声が耳に響く。俺は炎の化身プロメテウスを解除し、冷静に状況を見極めることにした。こいつ、めちゃくちゃ強いな。正直、負けるかもしれない・・・いや、何弱気になってるんだ!このまま終わってたまるか。


「さて、そろそろ君の身体も弱ってきたな。」

 ニセガミは満足げに笑みを浮かべ、俺を見下ろしていた。どこまでも俺を追い詰めようとするその眼差しが、再び闘志を燃え上がらせる。


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