第43話 守り抜くもの

「護剣バルムンク……それがお前の本当の……」


『ああ、そうだ。黙ってて怒ってるか?』


「怒ってるよ、生きていながら10年も姿を現さなかったことにな」


『……そうだな、どうしたら許してくれるんだ』


「これからもずっと親友としてそばにいろ、そしたらいつか許してやる」


『……なるほど、じゃあここでオマエを死なせるわけにはいかねーよな』


 突然、俺の目の前に光輝く結界が作り出される。


『見ての通り俺は守護結界を作り出すことができる。この能力で隕石の落下を食い止められるはずだ』


「完璧だ、これで隕石も破壊できる!」


 なんというタイミングで来てくれたのだろうか。

 この結界で隕石の動きを僅かにでも止められるというのならば、布都御魂の射程距離内に隕石を留めることができるはず。

 数秒もあれば十分だ、時間の許す限り切り刻んでバラバラにしてやる。


『凰真クン!来るよ!』


「わかってます!一発勝負だ、みんな頼むぞ!」


 遂にこの時が来た。

 隕石が地表に落下するまで残り1秒、だがその直前で未来が見えなくなった。

 本来起こるはずだった『隕石がこの街に落ちる』という未来に綻びが生じたのだ。


「早速頼むぞ!バルムンク!」


『任せろッ!!』


 互いの心を一つにして、全身全霊をかけた強固な結界を前方に作り出す。

 直後、宇宙の彼方から遥かなる距離を超えて飛来した隕石が結界に衝突した。


「ぐ、うっ……!」


 わかってはいたがとてつもないエネルギーだ、だが六本の星剣の力を束ねればどうにかぶつかり合うことができる。


『凰真!やっちまえ!』


 バルムンクの結界によって隕石の動きが止まった。

 ここがチャンス、逃すわけにはいかない!


『凰真くん、お願い!』


「布都御魂、お前の力を俺に貸してくれ!」


『うん!いくよ、おにいちゃん!』


 右手に握りしめた布都御魂が妖しく光を放つ。

 次の瞬間、俺が振るわずとも無数の斬撃が隕石に襲いかかる。


『うそ、前ウチらと戦った時よりさらに強くなってない……?』


『暴走状態でしか扱えなかった力を己のものとしたか』


 以前は周囲に向けて無差別に繰り広げられていた攻撃が、今はたった一つの標的に向かって放たれている。

 いつの間にかさらに成長していたらしい、嬉しい誤算というほかない。

 だがその分体力の消耗も激しく、一瞬にしてとてつもない倦怠感と疲労に襲われる。


 それでもここで倒れるわけにはいかない。

 再びクラウソラスの未来視によって隕石の破片がそれぞれどう移動するのかを見極める。

 そしてそれら全てをなぞるような軌跡を導き出す。


「あと少しだ……レーヴァテイン!」


『はい!一つ残らず破壊します!』


 バルムンクの結界を解除すると同時に“破壊をもたらすもの”レーヴァテインの一振りが、細かく砕けた隕石の破片を薙ぎ払う。

 その一振りは大気圏をも突入した頑強な星の分子の結合そのものを切断し、宇宙のチリへと変えてしまった。


「やった……のか?」


 辺りを埋め尽くしていた轟音も熱風も、嘘のように消えてなくなった。

 空には雲の隙間から覗き込む太陽がポツンと一つあるだけ。


『さすがは我の見出した男だ。空より降る星さえも砕いてしまうとはな』


「は、はは……」


 膝から力が抜け、仰向けに倒れ込んでしまった。

 既に筋肉痛のようなものも全身に襲いかかってきている、もはや指ひとつすらも動かせそうにない。


「おにいちゃん、つかれた……」


 仰向けになった俺に重なるようにして芽亜が倒れ込む。

 実際芽亜があれだけ頑張ってくれたからこそ星の破壊に成功したのだ、これだけ疲れるのも無理はない。


「ふへ〜、ウチももう限界」


「さすがに疲れますね……」


 やはり桜さんも澪葉も限界以上の力を出してくれていたらしい。

 みんな続々と人の姿に戻っては、その場に座り込んだり倒れたりしている。


「ここまで大方予想通りだな」


「うん、あとは私たちに任せて」


 今回翼と江莉香の能力は使ってない。

 戦闘の後こうなることはある程度予想できたので、二人には動けなくなった俺たちのサポートをお願いしている。

 といってもどこかに運んでもらう程度でいい、何せ隕石の脅威はもう去ったのだから。


「言ったろ?オレが護るって」


「ああ、俺はまた来夢に助けられたんだな」


 そして俺たちは再会した。

 かつて降り注ぐ星によって親友を失った俺は、10年の時を超え、今度は親友とともに降り注ぐ星を退けたのだ。


 積もる想いはたくさんある、文句も言ってやりたいし感謝も伝えたい。

 この胸を埋め尽くす気持ちを語るには時間も語彙も足りないけれど、今言いたいのは一つだけ。


「お前、女だったのかよ……」


「ははっ、お決まりのセリフだな」


 10年ぶりに再会した来夢は長い黒髪を後ろで一つに束ねた、かっこよさと綺麗さを併せ持つ男勝りな美少女に変貌していたのである。


「まあいいや、他の話は全部帰ってから──」


「待って!翼!」


「言われずともわかっておる」


 なんだ、この不穏な気配は。

 いや、俺はこれを知っている、10年前のあの日も経験したはずだ。


「協会からメールが来ておるな」


「私が読むね」


 動けない俺たちに変わって江莉香がメールを読んでくれる。

 突如として地球に複数の小隕石が接近、日本に落下すると予測されたものは全部で5つ。

 そのうち一つは破壊を確認、周辺への被害はゼロ。

 つまりここのことだ。


 だが残る4つは落下し、再びこの地に大きな爪痕を残していった。

 そして星の落下の次に起きることは決まっている。


 そもそもここ数日のモンスターの襲撃も、真の原因は芽亜たちの戦闘ではなく、星の接近にあったのだ。

 それらが地球に落下したということは、今が最接近しているということ。

 その影響によって──


「グガァァァァッッ!!!」


 あの日と同じように、大量のモンスターが暴れ出したのであった。

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