第42話 星を破壊せよ
『小隕石の落下まで残り10分とされており、現在も予想される範囲内では避難が継続して──』
街頭のテレビで流れるニュース速報を見上げながら、美沙はまだ現実を直視できずにいた。
その微かに震える手を、隣にいた希梨の両手が優しく包み込む。
「ここにいれば私たちは助かります、安心してください」
「わかってる……でも、お兄ちゃんから連絡がないの」
避難誘導を終えたら必ず避難する、そう言っていた。
だがニュースによれば避難活動はまだ続いているらしい、ということは凰真もまだ隕石の被害が及ぶ範囲にいるのではないか?
そんな不安が胸を埋め尽くしていた。
『皆様、命を守ることを最優先に行動してください!荷物は全て置いて、一刻も早く被害が予想される範囲から逃げてください!』
「お願い……無事でいて、お兄ちゃん……」
『もう間も無く隕石の落下が予想されます。ですが皆さん、最後まで希望を捨てずに……って、あれは⁉︎』
ヘリによって上空から映し出される誰もいなくなったはず街中を、一つの影がとてつもない速さで移動している。
『誰かが隕石に向かっていきます!一体誰が……⁉︎』
「あれは……」
美沙はその正体をすぐに理解した。
忘れるはずも間違えるはずもない、誰よりもそばで一番見てきたのだから。
「お兄ちゃん⁉︎なんで⁉︎」
最愛の家族である兄・雨宮凰真はただ一人隕石へと向かって突き進んでいた。
それぞれの手に剣を持ち、背中にさらに三本の剣を携えながら。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『今更止めはしない……覚悟は良いな』
「ああ、みんなの力を合わせればあんなもの壊せるはずだ」
神代三剣を含む五本の剣を携えたことにより、俺の力は莫大なものとなっている。
まさに人智を超えた力は、俺たちの遥か頭上に広がる星々にまで届こうとしていた。
「ただ……一手足りない」
既に作戦は決まっている。
星剣を持てば持つほどに、相乗効果によってそれぞれの能力も強化される。
今ならばクラウソラスの未来予知によって落下地点、及び落下時刻は完璧に割り出せている。
迎撃ポイントも既に決まっている。
そして布都御魂の能力によってとにかく斬る。
射程距離に入った瞬間、ひたすらに剣を振るうことで触れることなく斬れるはずだ。
だがそれだけでは足りない、細かくなった破片が落ちては街に甚大な被害が出る。
だからそれはレーヴァテインによって消滅させる。
落ちてくる星そのものを一振りで消滅させることは難しいが、細かく砕けた破片ならば分子レベルで切断して粒子に変えることができる。
つまりこの作戦における一番のポイントは、いかに布都御魂の能力で隕石を細かく切断できるかどうかだ。
普段の戦闘ならばともかく、落下してくる隕石に対して20mの射程距離はあまりにも短い。
未来予知の能力で完全にタイミングを測ることができるとはいえ、猶予はごくわずか。
十分に斬れなかった場合、レーヴァテインの能力で消滅させることは叶わず、街は消し飛び俺たちも命を落とすことになるであろう。
危険な賭けだがやるしかない。
何もしなければ全てを失うのだ、なら全てをかけてでもごく僅かな可能性を掴んでみせる。
「この街は……美沙の笑顔は、俺が絶対に守ってみせる!」
「そうか、ならオレがお前を守ってやるよ」
「……え?」
突然背後から声がした。
既にこの区域に住んでいる人は全員避難しているはず、まだ残っている人がいたというのか。
いや、それよりも……
今の声は聞いたことがある。
俺はこの声をよく知っている。
「いつの間にか強くなったな。まさかオマエがみんなを逃して残る側になるなんて。まっ、10年もありゃ成長するか」
「お前、まさか……⁉︎」
「今は再会を喜んでる場合じゃないだろ?早くやっちまおうぜ、凰真!」
「来夢⁉︎」
信じられない、これは夢なのだろうか。
10年前のあの日、今と同じように星が落ちてきたあの日。
俺を逃すためにモンスターの群れに飛び込んで死んだはずのアイツが、親友だった
「何ぼさっとしてんだ、あれをぶっ壊すために来たんだろ?ならもう時間がねーぞ」
「わかってる!でもお前こそ、なんでここに……いやそもそも生きてたなら──」
「悪かったって。でもその辺は後にしてくれ、ほら」
色々と聞きたいことがありすぎる、だが今はあまりにも時間がない。
隕石が落ちるまであと1分24秒。
そんな切羽詰まった状況の中、来夢は俺に手を差し伸べる。
「早くやろうぜ。安心しろよ、オレがオマエを護るからよ」
来夢はあの時と同じセリフを口にする。
一つ違うのは、今は俺は逃げるだけじゃない、ともに戦うことができる。
何もかもわからないことだらけだ、でもコイツのことは信頼できる。
例え10年の時が流れようと、俺と来夢は親友なのだから。
「あとで全部説明しろよな!」
「わかってるよ。ほら、全力でアイツをぶっ壊しな」
その事実は何があっても変わらない、例えコイツが星剣だったとしても。
「それじゃあ行こうぜ。オレは“加護を授けるもの”護剣バルムンク、オマエはオレが守ってみせる!」
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