第41話 緊急事態

「それじゃあ行ってきます!」


「行ってらっしゃい。事故には気をつけて楽しんできてな」


 精一杯のオシャレをして元気いっぱいに手を振る美沙を見送る。

 昔だったら美沙が出かけた後は部屋が静かになるのだが。


「凰真よ、今日の昼食はどうするのだ?」


「たまには翼が自分で作れば良いのに」


「おにいちゃん、あそぼ!」


 いまはいつも騒がしい。

 もちろん嫌ではない、むしろ寂しさを感じる暇もないくらいに楽しく思える。


「昼食か、そうだな……って協会から緊急連絡?」


 連絡が来たのは俺だけではなかった。

 ギルドメンバー、つまり俺たち全員が協会に呼び出されている。

 何があったのかはわからないが、ただ事ではないのは確かだ。


「みんなごめん、一旦行こうか」


「うむ」


「すぐ準備するね!」


「わたしにまかせて!」


 俺たちは急いで準備を済ませ、澪葉や桜さんと連絡を取りながら協会で集まることとなった。


 




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「あっ、凰真クン!こっちこっち!」


 協会に着くと澪葉と桜さんの二人が待っていた。

 そこに俺たち三人が合流してSランクギルドメンバー勢揃いである。


 ちなみに芽亜はギルドメンバーの登録はしていないので、今は布都御魂となって背中に隠れている。


「しかし全員呼び出しなんて一体何が──」


「浦洲様、並びにメンバーの皆様!この度は招集に応じていただきありがとうございます!」


「いーよいーよ、それより何があったの?」


「それが……」


 血相を変えて走ってきた職員の方は一度息を整え、まだ青ざめたままの表情で言った。


「複数の小隕石が接近しているのです」


「なっ⁉︎」


 まさか、また星が落ちてくるというのか⁉︎

 10年前のあの日、俺から家族も友人も何もかも奪った星が再び……


「そういうことか。ここ数日のモンスターの活性化はその影響というわけか」


「星が近づいてるなら納得だね」


「いえ、それよりも今は対応が最優先です」


「うんうん、どこに落ちてくるの?」


「現在予測されている落下ポイントは、我が国においてはこの5つです」


 それを見た俺は言葉を失った。

 俺だけではない、みんなも目を見開いたり両手で口元を押さえたりと、反応は様々であるが動揺を隠しきれていない。


 そりゃそうだろう、俺たちが住む街に星が落ちようとしているのだから。


「美沙が……美沙が危ない!」


「落下ポイントが割り出されたのはつい先ほどのことです、そして既に対象区域には緊急避難命令を出しております」


「落下は今から何時間後ですか?」


「およそ2時間後かと……」


 美沙に電話をかけると運よく繋がった。


「美沙!聞こえるか⁉︎」


『お兄ちゃん!今さっきメールが来たんだけど』


「それに従って天羽さんと一緒にすぐに逃げてくれ!できるだけ遠くに行くんだ!」


『私たちはちょっと離れてるから大丈夫……でもお兄ちゃんが!お兄ちゃんはどこにいるの⁉︎』


 一度スマホから耳を離して顔を上げる。

 既に協会内も半パニック状態であり、職員や冒険者がこの上なく慌ただしく動いている。

 俺たちにできることは少ない、だが呼び出されたからには避難誘導を任されるのだろう。


 恐らく外も大混乱に陥っているだろう。

 そんな中で人々に指示を出して動かすには、ある程度腕っぷしが必要だ。

 そう考えると冒険者は適任なのだ。


「俺も大丈夫、ただ少し避難の手伝いをしなきゃいけないんだ。それが終われば俺たちも避難する、だから美沙も今は逃げてくれ」


『……わかった、絶対無事でいてね』


「ああ、任せろ!」


「美沙は大丈夫なのか?」


「ああ、心配はいらない……」


 昨日もどこに遊びに行くのか聞いていたが、確か落下予測地点からはかなり距離がある。

 今から避難を始めれば巻き込まれることはないだろう。


 だがそれ以外はどうなる?

 俺たちが住むあの家も、栞奈さんやルカねぇが守ってくれている孤児院も、美沙や希梨ちゃんが通う中学校も、龍斗やみんながいるあの学園も。


 星が落ちればみんな無くなってしまう。


 そんなの認められるはずがない。

 ようやく美沙が普通の女の子として過ごせるようになったのだ、この日々は必ず守り抜いてみせる。


 そのためにやるべきことはただ一つ。


「……星を破壊する」


「凰真クン?今なんて?」


「まずは避難誘導をする、それは変わらない。でもその後、俺は逃げない。落ちてくる星を壊してあの街を守る」


「バカなことを言うな!人の身で星を破壊するだと?そんなこと」


「できるよ。みんなとならきっと……いや、必ずできる」


 ここには五人の星剣がいる、しかもそのうち一人は神代三剣が一つ。

 その力を結集すれば星だって破壊できるはずだ。


「確かにそれは可能かもしれません。ですが、凰真さんの身体は……」


「澪葉ちゃんの言うとおりだよ。凰真くんの身体はまだ万全じゃない……ううん、万全であってもそれだけの力に耐えられるかは」


「それでもやるしかない。そうじゃなきゃたくさんの人が犠牲になる」


 ハッキリ言って死者をゼロにすることは不可能だ。

 今から2時間で移動できる距離なんてたかが知れている。


 俺は星剣の力を使えば範囲外に出られる、美沙のように落下地点から離れていても被害は免れる。

 だが中心部に近い人たちはどんなに頑張っても逃げられない、星が落ちればみんな死ぬ。


「それに何より……美沙の笑顔を曇らせるわけにはいかない」


 人だけでなく街も守る、そのためには星の破壊しか方法はないのだ。


「わかった、ウチらが絶対になんとかする」


『おにいちゃん、わたしにまかせて!』


「ありがとう、みんな。まずは一人でも多くの人を救うためにも避難誘導を始めよう」


 今はまずやるべきことをやるしかない。

 星が落ちてくるまであと2時間、この限られた時間内で一人でも多くの人を予想される危険地帯の外に出さなければならない。


 30分もすれば落下地点には人っこ一人いなくなるだろう、そこからが本番だ。


 絶対にやらせはしない。

 人々を救いこの街を守り抜くための、星を破壊する戦いが始まった。

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