第39話 転校生
「それじゃあ長いことお世話になったけどそろそろ行くよ、本当にありがとう」
「またいつでもおいで、ここはアンタの家なんだからね」
「うん、今度は元気な時に美沙やみんなを連れてくるよ」
「それならちゃんと連絡してくれよ?とびきりのご馳走を作っておくからさ」
ルカねぇが作ってくれるご馳走か、想像しただけで今から楽しみだ。
大変な時期ではあるけれど、なんとか全員で予定を合わせて行こう。
「栞奈さんもルカねぇのサポートとみんなのこと、よろしくお願いします」
「はい、任せてください!それとお姉ちゃん、ですよ?」
「はは……」
モンスターが襲ってきたあの日、助けを求めた俺の言葉。
お姉ちゃん、というのは一応ルカねぇに向けて言ったつもりだったのだが、どうもあれが栞奈さんの何かを目覚めさせてしまったらしい。
あれから今日までの一週間、栞奈さんは俺に『お姉ちゃん』と呼ばせようとしてくるのだ。
これまでの優しくて穏やかなイメージからは想像もできない執念なので、そろそろ根負けしてしまいそうだ。
「それじゃあ行ってきます!」
「ああ、元気にやりなよ!」
「いつでもお姉ちゃんを頼ってくださいねー!」
傷が完治したわけではないけれど、普通に生活する分にはもう支障はない。
こうしていろいろあったけれど、ようやく俺は普通の日常に戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやー、お前が無事に帰ってきてホント良かったぜ」
「悪い、心配かけたな。それも休んでいる間のノートもサンキュ」
「気にすんなって!」
ハッハッハ、と豪快に笑いながら龍斗は俺の背中をバンバンと叩く。
傷口に響いて普通に痛い。
まあでも本当にいい友人を持ったと思う、おかげで高校の遅れも取り戻せそうだ。
「朝礼を始めます、皆さん席についてください」
結局ろくに参加できなかったとはいえ修学旅行も終わったし、これからまた変わり映えのない平穏な日々が幕を開けるのだろう。
と思ったら、金色のボブヘアをした見たことのない子が先生の隣に立っていた。
「なんだあの子、可愛いな」
「お前、いつもそれだな」
「また新たに転校生が来ました、皆さん仲良くしてあげてください」
なんとも珍しい話だが、このクラスに三人目の転校生が来たらしい。
「初めまして、ボクは
元気いっぱいで快活な子だ。
俺が転校して最初の挨拶をする時なんて緊張してたまらなかったというのに、この子からはそんな様子は微塵も感じない。
「席は雨宮くんの後ろのところね、わからないことがあれば私にでも周りの子にでもいつでも聞いて。雨宮くん、藍守くん、色々助けてあげてね!」
助けてあげたいのは山々だが、俺も転校して日が浅いので力になれるかどうか。
まあその辺は龍斗に任せればなんとかなるだろうか。
「俺は藍守龍斗ってんだ、よろしくな!」
「俺は雨宮凰真、割と最近転校してきたばっかだから仲間だな」
「よろしくね、龍斗くん、凰真くん。ボクのことはこれから大亜って呼んで」
このクラスはみんないい人ばかりだし、大亜も明るい性格なのですぐに馴染めるだろう。
「一人称がボクの女の子……アリだな」
大亜はともかくとして、席が隣の俺には聞こえてるぞ、龍斗。
というかすごく小さな声で言うな、ガチな感じがして嫌だ。
「なあ大亜、今日の放課後は暇か?」
「特に予定はないよ」
「凰真は?」
「大丈夫、今のとこは。なんかあれば呼ばれるかもしれないけど」
「さすがSランクギルドのメンバー、多忙だねぇ」
言ってはみたが実際どうだろうな、みんな俺に対してやけに心配性だから止められるかな。
まあ協会からの連絡が来たら行くつもりではあるが。
『まだたたかっちゃだめだよ、おにいちゃん!』
しかしキッチリ芽亜に制されてしまった。
どこにいるのかというとカバンの中だ、布都御魂となって学校までついてきてる。
今朝は本当に大変だった、絶対についていくと言って聞かないのだ。
だが当然芽亜を連れて高校に行くことなんて不可能。
みんなで説得を試みたのだが次第に涙目になっていき、遂には泣き出して能力が暴発しそうな気配すらあった。
なので妥協案として布都御魂としてついてくる、ということになった。
「みんな予定が空いてるなら歓迎祝いってことでカラオケ行こうぜ!楠葉さんと澪葉も誘ってな」
俺と一緒に転校してきた江莉香はともかくとして、澪葉は完全に龍斗が一緒に遊びたいだけだろう。
声をかければ来てくれる、というか声をかけないと後で怒られそうなので当然呼ぶつもりではあるが。
みんな来れるかな、最近も一日一回は日本のどこかでモンスターの襲撃事件が発生してるからな。
早く全部が落ち着いて、平穏な生活に戻れればいいのだが。
なんて考えてたら隣に座っている龍斗からメッセージが来た。
『本気で大亜ちゃん狙うわ、サポートよろしく!後お前は楠葉さんと澪葉のどっちか決めたのかよ、お互い協力しあっていこうぜ!』
なんだか色々と頭を悩ませているのがバカらしくなってきた。
ちなみにこの後カラオケは全員揃い、龍斗が望むような展開は全くなかったものの普通に楽しかった。
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