第37話 療養中に……

 孤児院で療養生活に入って3日が経ち、俺はある程度歩き回れるくらいには回復した。


「治りが早いねぇ、これが若さなのかい?」


「若さって、ルカねぇも俺と5つくらいしか変わらないだろ」


「いやいや、アタシなんてもう歳でね……」


「なんの冗談だよ」


 まだ万全の状態ではないので復帰はしていないが、ずっと寝ていても体がウズウズする。

 なので今はリハビリも兼ねて、孤児院でルカねぇや栞奈さんの手伝いをしていた。


 芽亜も年が近い(?)子が多いので、その子たちと遊んで過ごしている。


 残念ながら世間ではまだモンスターの脅威に晒されているらしく、翼たちはいつも戦っている。

 言うまでもなくみんな半端なく強いのであまり心配はいらないのだろうが、こうも戦いの日々が続くとたまには休んで欲しいし、早く俺も復帰しなければと焦る気持ちが芽生えてくる。


 まあ少しでも無茶をしようとすればみんなに鬼の形相で止められるのだが。


「しっかし洗濯物多いな、いつもこんな量があるなんて大変だろ」


「そうですね、でもみんなの笑顔を見ていたら頑張れます!それにこれだけたくさんの子の面倒を見れるようになったのは、雨宮さんのおかげなんですよ?」


「俺の?」


「はい、仕送りのおかげで余裕もできたって瑠夏さんが言ってました」


 良かった、どうやら俺も力になれていたらしい。

 ただ最近の不穏な状況を見ていると、またモンスターによって両親を失った子どもが増えるだろう。

 

 これからはもう少し援助を増やした方がいいかもな。

 人手不足も問題だな、どうにかスタッフを増やせればいいのだが。


「栞奈さんはどうしてここで働こうと思ったんですか?」


「私、昔から小さい子のお世話するのが好きで、将来も保育士になりたくて大学で勉強してるんです」


「え、すごいですね!」


「そんな、私なんてまだまだです。それに実際は保育園にも通えない、親がいない中で生きていかないといけない子どもたちがたくさんいます。私はそれを知らなかった……」


 栞奈さんは庭ではしゃぐ子どもたちに目を向ける。

 今でこそ元気に過ごしているあの子達も、昔はずっと暗い顔をしてて、笑顔を見せることなんてなかった。

 これだけ伸び伸びと過ごせているのはこの孤児院のおかげだ。


 もちろん俺も美沙も、この孤児院やルカねぇのおかげでこうしていられる。


「だから今は将来どうするべきか迷っています。でもとにかく子どもたちの力になりたい、だから少しでも役に立てたらとここのお手伝いをしてるんです」


「……ありがとうございます」


「お礼を言われることじゃないですよ」

 

「それでも言わせてください。あの子達も俺にとって家族のような存在です。そんなみんなが笑っていられるのは、間違いなく栞奈さんのおかげでもあるんですから」


「それを言うなら雨宮さんのおかげでもありますよ。私より年下なのに自立しているだけでなく、私たちのことも支えてくれる。本当に凄いと思いますし、尊敬しています」


「ならお揃いですね。俺たち二人とも感謝してるし、尊敬もしてるんですから」


「ふふっ、そうですね!」


 そうだ、俺たちはみんな互いに助け合い、支え合って生きていくことができる。

 これまでは俺と美沙、二人だけで頑張っていたから毎日を生きていくので精一杯だった。


 でも今は翼を始めとするたくさんの星剣がいて、学校に行けば龍斗が笑わせてくれる、孤児院ではルカねぇや栞奈さんがみんなをお世話してくれている。


 周りにいる人たちと手を取り合っていけば、もっとたくさんの人の力になれる、どんな困難だって乗り越えられるはずだ。


「さあ、そろそろみんなのお昼ご飯の準備をしましょうか」


「わかりました、俺もお手伝いしま──」


「おにいちゃん!」


 洗濯物を干し終えて、部屋に戻ろうとしたその時だった。

 さっきまで子どもたちと仲良さげに遊んでいた芽亜が血相を変えてこちらに向かってきた。


「たいへん!わるいものがたくさんきてる!」


「悪いもの?」


 ズボンのポケットに入れていたスマホが震え出す、桜さんからの着信だった。


「桜さん?どうかしましたか?」


『気をつけて!また各地で一斉にモンスターが出てきたみたい!それでそっちにもいるみたいなの!』


「なっ、この孤児院に⁉︎」


『ウチらも今別のところにいて、すぐにはそっちにいけないの!冒険者を派遣するよう協会には頼んだけどすぐに着くかわからないから、とにかくみんなを連れて逃げて!』


 よほど切羽詰まった状況なのだろう、桜さんはそれだけいうと電話を切ってしまった。

 本当にどうなってるんだ、芽亜とみんなが戦っただけでこんなにも大変なことになるものなのだろうか。

 実はもっと別の恐ろしい何かの前兆だったり……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


「栞奈さん、大変です。この孤児院にたくさんのモンスターが向かってきているそうです」


「えっ⁉︎」


「まずは子どもたちの安全が最優先です、みんなを連れて避難の準備をしておいてください」


「雨宮さんはどうするんですか⁉︎」


「大丈夫、孤児院は絶対に守ります。なっ、芽亜」


「おにいちゃん……」


 芽亜は俺に不安そうな顔を向ける。

 わかってる、まだ完全に回復していないこの身体で戦うのは無謀だといいたいのだろう。


 真の力を解放したダインスレイブの協力があって、ようやく芽亜を振るうことができたのだ。

 しかもその後は3日も意識を失ってしまった。

 今の状態ではうまくいく保証はない。


「ダメです!雨宮さんは安静にしないといけないんですよ!」


「それでも、戦えるのは俺だけなんです。それにみんなに俺と同じ思いをさせるわけにはいかない、ようやく自然と笑えるようになったこの場所を失わせるわけにはいかないんです!」


 やってやれないことはない、今までだってそうだった。

 なら今回だって死ぬ気でやればなんとかなる。


「絶対にダメです、それだけは許可できません。もしそれでも、と言うのなら……私が代わりに戦います!」


「栞奈さん⁉︎」


 栞奈さんは突然走り出してしまった。

 なんてことを、彼女は冒険者ですらない、モンスターと戦った経験なんてないというのに。


「芽亜!みんなを連れてルカねぇのところに行ってくれ!」


「おにいちゃんはどうするの⁉︎」


「俺は栞奈さんを追いかける。芽亜もできるだけすぐにこっちに来てくれ、頼めるか?」


「わかった、まかせて!」


 見た目は幼いとはいえさすが神代三剣、芽亜は目にも留まらぬ速さでみんなの元へ向かっていった。

 さて、俺も栞奈さんを追いかけなければ。

 最悪みんなが来るまで耐えればいい、それまでは必ず守り抜いてみせる。

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