第35話 神代三剣の力
「芽亜の力を?」
「うん、わたしとけいやく、して?」
芽亜は俺に向かって小さな手のひらを差し出す。
『やめとけよ、アイツらが言った通りソイツは特別だ。テメェだって間近で見ただろ?あの力を本当に制御できると思ってんのか?』
芽亜の力は文字通り規格外、人智を超える力を持つと言われる星剣をも赤子扱いするほど強大だ。
それを制御できる保証はない、下手をすれば先ほど同じように周囲を無差別に破壊し、俺もまた封印すべき対象になってしまう可能性だってある。
でもなんとかなるする気がするのだ。
保証なんてどこにもない、でも大丈夫だ。
俺と芽亜はずっとそばにいたのだから。
「芽亜、俺に力を貸してくれ」
「うん!おにいちゃんをきずつけるわるいひとは、みんなわたしがきるね!」
芽亜は俺の手の中で姿を変える。
そうして現れたのはあの日見つけたボロボロの剣ではない。
芽亜のように小さいながらも、陽光を反射して白銀に輝く美しい剣、神代三剣が一つ“布都御魂”の真の姿だった。
『ホント、大馬鹿野郎だな。その力を使ってボロボロの身体が持つわけがねぇ』
「いいや、なんとかなる。お前が俺を助けてくれるんだろ?ダインスレイブ」
『っ⁉︎テメェまさか、アタシを利用して!』
「そこはお互い様ってことで。win-winだしいいじゃねえか」
準備は整った。
万全でない分は俺の血を吸ったダインスレイブがなんとかしてくれる、後はそもそも俺に神代三剣を振るうだけの資格があるかどうかだ。
『だいじょうぶだよ、おにいちゃん。そのままわたしをふって!』
「わかった」
布都御魂に言われた通り、その場に立ったまま布都御魂を縦に振るう。
その直後、近くにいたモンスターが同時に縦に切断された。
『わたしはね、きるのがとくいなの。はなれてても、かげにかくれてても、ぜったいきれるよ!』
『これが神代三剣の真の力かよ……』
圧倒的、それ以外に表現のしようがなかった。
ただその場に立って剣を振るうだけで、少しでも近づいてきたモンスターがことごとく切断されていく。
空を飛んでいようが、決まった形を持っていなかろうが、どれだけ硬かろうが関係ない。
ただひたすらに“斬る”だけだった。
「布都御魂は半径20mの間合いに存在するものに対し、防御も回避も不可能な斬撃を浴びせる」
「だけど決まったものだけを狙うことが難しくて無差別に斬ってしまう、だから危険すぎてウチらで封印したのに」
「今の凰真さんは私たちには危害を加えることなく、モンスターだけを斬っています」
「凰真よ、其方はまさか本当に、神代三剣を制御しているというのか……⁉︎」
軽く振るうだけでモンスターが霧散していく。
それに不思議なほどに身体への負担はない、むしろ軽いくらいだ。
ダインスレイブのおかげでもあるのだろうが、それ以上の何かを感じる。
「なんなんだ、これ。今なら負ける気がしない」
『おにいちゃんじょうずだね!わたし、こんなにたのしいのはじめて!』
『何も楽しくねぇよ。ったく、恐ろしいったらありゃしねぇ……』
しかしひっきりなしにモンスターが押し寄せてくるな。
このままここで待ち構えて次々と斬っていくのもいいが、一気に片付けてしまおう。
「二人とも、あと少し力を貸してくれ」
ダインスレイブによって強化された身体能力を利用し、モンスターの群れに向かって一直線に突撃する。
そして布都御魂を一振りするだけで、間合いにある100を超えるモンスターが消滅する。
後はそれを繰り返すだけ。
数の差なんてない、そこにあるのは布都御魂という絶対的な力のみ。
「これで片付いたかな」
1000体近くいたはずのモンスターは、ものの数分で片付いてしまった。
これこそが神代三剣が一つ、布都御魂。
「すごい、すごいすごい!おにいちゃんすごかった!」
人の姿に戻った芽亜は、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びをあらわにしている。
「芽亜のおかげだよ、ありがとな」
頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める、本当に可愛らしい子だ。
「玲音もありがとな。お前のおかげで芽亜も守れたし、敵も倒せた」
「礼を言うんじゃねぇ、鳥肌が立つ」
玲音はこちらに背を向けたまま冷たく言い放った。
「後は勝手にしろよな」
「どこ行くんだ?」
「血をもらう代わりに力を貸す、そういう契約だったろ?ならもう終わりだ、じゃあな」
そう言って玲音はどこかに行ってしまった。
後を追いかけようと思ったが、彼女の力が無くなったせいで足に力が入らない。
やっぱり血を流しすぎたみたいだ。
「全く、無茶をしおって……」
後ろに倒れそうになった俺を支えてくれたのは翼だった。
「みんな……」
「凰真くんは私の想像よりずっと凄かったんだね」
「まさか神代三剣すらも操ってしまうなんて」
「さすがウチら全員と契約してるだけのことはあるね!」
「あの……」
芽亜はおずおずと翼たちの前に出る。
そして勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!わたし、おねえちゃんたちにひどいことしちゃった……」
「謝ることはない。いや、むしろ謝るのは我らの方だ。幼き其方に辛い思いをさせてしまった」
「でも、もう大丈夫だよな?芽亜も俺たちと一緒にいていいんだよな?」
「むしろ一緒にいてもらわねば困る。あの力を制御できるのは其方の近くにいる時だけだろうからな」
「そうか、良かった……」
「おにいちゃん⁉︎」
安心してしまったからだろうか、急に眠くなってきた。
みんなの心配する声をどこか遠くに聞きながら、俺はゆっくりと意識を手放した。
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