第34話 停戦
「芽亜!もうやめろ!」
「おにいちゃん⁉︎」
翼たちと芽亜の間に割り込み、無数に繰り出される斬撃を受け止める。
『このバカ!アタシを殺す気か⁉︎いくら血を吸ったとはいえ向こうは神代三剣だ、真っ向からやって勝てると思ってんのか!』
「真の力を見せてくれるんじゃなかったのかよ」
『限度ってものを考えな!』
ダインスレイブの言う通り少し弾いただけで手がビリビリと痺れる。
しかし芽亜の攻撃を防ぐことはできた、生き血を吸って力を解放したダインスレイブを侮っていたかもしれない。
「凰真、其方まさかダインスレイブと契約をしたというのか!」
「まあね、でも大丈夫。おかげで今は動ける」
『こっちは神代三剣とぶつかったから大丈夫じゃねぇけどな』
「うるさいな、お前が言い始めたんだろ」
しかしダインスレイブの力は本物だ。
特に立つことすら難しいほどの深い傷を負っても動けるようになるのが素晴らしい。
この力を正しく使ってくれればいいのだが……まあコイツには期待できなさそうだな。
「もしかして、使いこなしているんですか?」
「なんか仲良さそうだねー」
「ま、今はコイツのことは置いておいて……」
今なんとかすべきは芽亜の方だ。
芽亜が俺に懐いてくれているのは、図らずも常に一緒にいたからだろう。
そして思えば最初から俺にだけは絶対に攻撃が飛んでなかった。
自惚れかもしれないけど、芽亜を止められるのは俺だけな気がする。
「芽亜、俺の話を聞いてくれ」
もしかしたら攻撃が飛んでくるかもしれない。
慎重に、ゆっくりと歩みを進めて距離を詰める。
「こないで!」
だが芽亜の口から飛び出したのは拒絶の言葉だった。
俺はそれを無視して一歩ずつ前に進む。
「だめ!わたしにちかづいたら、またおにいちゃんのことをきずつけちゃう!」
どうやら芽亜は自分の能力を制御できていることに気づいていないらしい。
ならわからせてあげないと、芽亜だけでなくここにいるみんなに。
もう戦う必要はない、芽亜を封印しなくていいんだと。
『おい、正気か?そう何度も防げるもんじゃねぇぞ。一応忠告しておいてやるが次は死ぬぜ?さっきので傷口も開いてんだろ』
ダインスレイブの言う通り、確かにさっきの衝撃でまた血が流れ出している。
芽亜が放つ一撃も、それを防ぐことのできるダインスレイブも凄すぎるのだろう、恐らく人間である俺の身体はこれ以上はもたない。
でも大丈夫、もう芽亜が誰かを傷つけることはないのだから。
「芽亜は気づいてないんだ、もう自分の力を操れてることに」
「そんなことない!だってわたし、おにいちゃんのこと……」
「大丈夫、ほら」
芽亜の元に辿り着いた俺は、小さな体を優しく抱きしめる。
「芽亜のこと、触れるだろ?」
「おにいちゃん……わたし、わたし!」
俺の胸に顔を埋めながら、大声を上げて泣き出した。
こう見ていると本当に普通の小さな女の子だ、とてもさっきまで4人を追い詰めていた神代三剣の一振りとは思えない。
こんな小さな身体と幼い心に、自分では制御できないほどの恐ろしく巨大な力が宿っている。
それがどれほど恐ろしいことだっただろうか。
多分その力に一番傷つけられていたのは、他の誰でもない芽亜自身なのだろう。
「みんなも、もう戦わないでくれ。芽亜は大丈夫だから」
「凰真よ、本気で言っておるのか?よく周りを見てみろ」
周囲に広がるのは無数の斬撃の跡。
街中が切り刻まれ、周囲にあった建物は一つ残らず崩れ落ちている。
それをやったのは他でもない芽亜。
多分翼たちは俺よりも芽亜のことをよく知っている、だからこのまま放っておくことはできないのだろう。
それでも俺はこんな幼い子を再び眠らせたくはない。
何もない街で無邪気にはしゃぐ姿が、楽しそうに笑う姿が瞼の裏に焼き付いている。
あの笑顔を失わせたくはない。
「俺が芽亜と契約する。それならもうこんなことにはならないはずだ」
「過去に神代三剣と契約を交わすことをできた人はいないの」
「ウチらよりもさらに特別だからね、人の身に余る力ってヤツだよ」
「私たちは凰真さんをそのような目には合わせられません」
「大丈夫だよ」
何も言わないけれど、しかし厳しい視線を向ける翼に向かって言う。
「俺は人を飲み込む魔剣を操る人間だぜ?そんじょそこらの人と一緒にするなよな」
「凰真……」
『おい、アイツはともかくアタシまで自由にできたなんて思うなよ!』
今回ばかりは引き下がることはできない。
芽亜を抱きしめる腕に一層の力を込め、何としても彼女を守るという意思表示をする。
「確かに其方が特別であることは認めよう。だがそれと同じ、いやそれ以上に神代三剣は──」
「みんな!気をつけて!」
突然江莉香が叫ぶ、と同時に俺を含めて全員それに気づいた。
周囲にある無数のモンスターの気配を。
「どうやら私たちの存在に惹かれたようですね」
「ウチら今全員で6人だもんね、そりゃそうなるよね」
たくさんの星剣が戦ったことにより、この近くにあるダンジョンにいたモンスターが凶暴化してしまったらしい。
だが今は桜さんのおかげで周辺住民の避難はとっくに完了している、余計なことは考えなくていい。
「みんな、話は後だ。一旦コイツらを倒そう」
「わかってる、凰真くんは休んでてね!」
「ここは我らに任せよ」
「そうはいかない、みんなだってボロボロだろ?」
芽亜との戦いでみんな疲弊しきっている。
いくら星剣とはいえ任せっぱなしというわけにはいかない。
「ダインスレイブ、力を貸してくれるよな?」
『共闘なんてガラじゃないんだけどな……まあいいぜ、お前の血をくれるならな』
「流した分ならいくらでもくれてやる」
気合いを入れ直していこうか、と思っていたその時、芽亜は俺の服の裾を引きながら言った。
「おにいちゃん。わたしのちから、つかって?」
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