第三章
第28話 お友達
「修学旅行?俺なんの準備もできてないんだけど」
「そりゃ大変だな、帰ったらこの土日で準備しねぇとな。でいうか班割も決めてたけどお前ら二人ってどうすんだろ」
「修学旅行か、楽しみだけど美沙が心配だな……まあ翼がいてくれるなら安心か。あ、そうだ」
一応桜さんにも連絡しておいて、万が一の時には美沙のことを任せよう。
あの人なら信頼できるしな。
まあ翼とは仲が良いのか悪いのか……って感じではあるが、いざという時は二人で協力して美沙を守ってくれるだろう。
こっちには澪葉と江莉香がいれば十分だ、万が一ダインスレイブが襲ってきたとしても充分に対処できるだろう。
多少心配事はあれど、これで修学旅行を楽しむのに集中できる。
あとは帰ってから準備するだけだ。
この日は授業が終わった後、江莉香と共に百均やらスーパーを巡って旅行に必要なものを集めた。
そして夕方、四人で食卓を囲んでいる時のことだった。
「ねえ凰真くん。明日のことなんだけど、私と翼で出かけてきてもいい?」
突然江莉香がそう言った。
確かに最近二人で行動することが多かったが、それはダインスレイブによる事件があったから。
今はもう特別な用事はないはず、となると二人で仲良くお出かけだろうか。
まあ深く詮索はしない、彼女たちも女の子だしな。
「わかった、たまには休みも大事だしな。楽しんできてな」
なんだかんだ仲がいいのは微笑ましいな。
しかし二人で出かけるとしたらどんな感じになるんだろう。
正直なところものすごく気になる、さすがに尾行とかはしないが。
「凰真よ、何か勘違いしておらんか?」
「いや、別に何も」
「あ、言うの忘れてた!お兄ちゃん、私も明日は希梨ちゃんと遊びに行ってくる!」
「わかった、美沙も楽しんでおいで。あと気をつけるんだぞ」
「うん!」
翼と江莉香が二人で出かけ、美沙はお友達の希梨ちゃんと遊びに行く。
となると明日は珍しく一人になるのか、特に何の予定もないしたまにはゆっくり家でゴロゴロするとしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
土曜日、アラームもかけず惰眠を貪っていた俺は遠くの雷鳴で目を覚ました。
そこまで注視していたわけではないが、確か今日は晴れ予報だったはず。
それに反して大崩れしたみたいだ。
「うげ……」
窓の外を見ると洗濯物の一部が干されていた、出かける前に誰かがやってくれていたのだろう。
まあこれは仕方がない、予報外れの大雨が悪いのだ。
濡れるのはもうどうしようもないので、洗濯物は取り込んで今着ているものと一緒に洗ってしまおう。
覚悟を決めて一度に全部抱え込み、そのまま脱衣所に直行する。
そして洗濯機にダンクをかましたところでチャイムが鳴った。
宅配なんて頼んだっけな。
「はーい、どうしました……って、美沙⁉︎」
玄関を開けると美沙ともう一人の少女がびしょ濡れ姿で立っていた。
「二人とも早く入れ、すぐにバスタオル持ってくるからな!」
「ごめんお兄ちゃん、お願い」
「すみません、失礼します」
急いでバスタオルを二枚取り出し、投げつけるように二人に渡す。
こんな雨に打たれるとは、せっかくの休日なのに災難と言うほかない。
「風邪を引いたら大変だ、二人ともすぐにシャワーを浴びた方がいい」
「いえ、そこまでは……着替えも無いので」
「私のでよかったら貸してあげるよ」
「いいの?」
「うん!それに待ってると寒いから一緒に入っちゃお!希梨ちゃんがいいならだけど」
「……わかった、そうしよう」
二人は簡単に水気を吹きながらお風呂場の方に向かっていった。
引っ越しがまさかこんな形でいい方に働くとは、前までの家なら二人で浴室に入ることなんてとてもじゃないが無理だった。
さて、二人がシャワーを浴びている間に暖かい飲み物でも用意してあげようか。
安物ではあるが茶葉はあるので、お湯を沸かしてお茶でも作っておこう。
洗濯物はどうしようか。
回してもいいのだが、そうなると乾くまで待つことになってしまう。
一応今は待っておいて、ここで洗うかビニール袋に入れて持って変えるか決めてもらおう。
「おにいちゃん、上がったよ〜」
「お借りしてすみません、ありがとうございました」
頬をわずかに上気させながら二人が浴室から出てきた。
「すみません、挨拶が遅くなりました。いつも美沙さんのお世話になっております、
「君が希梨ちゃんか。初めまして、美沙の兄の雨宮凰真です。美沙からよく話を聞いてるよ、いつも仲良くしてくれてこちらこそありがとね」
「お礼を言われるほどのことではありません」
まだ14歳のはずなのに、受け答えがよくできていてしっかりした子だ。
友人の家族、それも歳がかなり上の男と話すなんて緊張しそうなものだが、彼女は堂々とした態度でじっと目線を合わせている。
そしてこう見ていると口や鼻が整っていて、すごく可愛らしい子だな、と思う。
肩ほどまで伸びた銀色の髪もよく似合っていて、クール系美少女という言葉がよく似合う。
将来は間違いなく美人になりそうだし、今もクラスの男子から好意を寄せられているだろう。
いや、良くないな。
妹の友達相手にこんなこと考えるなんて変態以外の何者でもない。
「まあ今日は災難だったな。二人とも家でゆっくりしてていいよ、洗濯物はどうしようか」
「これ以上お邪魔できませんので、帰ります。シャワーを貸していただきありがとうございました、洗濯物も持って帰ります」
「え、なんで?まだ外すごい雨降ってるしせめて止むまではウチにいなよ。嫌なら無理にとは言わないけど」
「嫌ではありません、でもご迷惑かと」
「ううん、全然迷惑じゃないよ!」
「美沙の言う通り、それにこれまで希梨ちゃんには何回も助けられたしな。そのお返しってわけじゃないけどこれくらいのことはさせてよ」
「それでは……」
遠慮がちにしながらも希梨ちゃんは腰を下ろした。
たまたまあの二人が出かけてくれていて助かったかもしれない。
希梨ちゃんが正体が星剣であることを知っているかはわからないが、そもそも五人もいたら部屋が狭くて落ち着かないだろうからな。
「あ」
もしかしたら二人もこの雨に打たれているんじゃないか?
帰ってきた時にはびしょ濡れだろうし、色々と準備しておくか。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「何でもない、それじゃあ何もないけど二人はゆっくりしといて。俺は色々してるかもだけど気にしないでな」
とりあえずバスタオルと、玄関に足拭きマットの用意。
それとお風呂も沸かせ、いつ二人が帰ってきてもいいようにする。
ちなみにこの後「迎えに来い」と翼から連絡があり、俺もまた雨に濡れる羽目になったのであった。
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