第27話 激闘のあと
「ふぁ……」
「どうした凰真、眠そうだな。せっかくの金曜日なんだしもっとテンション上げていこうぜ!」
「お前はいつもテンション高いだろ」
眠い時にこの大きな声はかなり頭に響く。
だが実際コイツと話しているとこっちの気分も自然と上がるのでありがたくもある。
教室全体の空気も心なしか昨日までより明るくなった気がする。
やはり世間を騒がせていた話題のニュースが一応の終息を迎えたからだろうか。
30人を超える被害者を出したダンジョンでの凶行は、一人の高校生によるものだった。
だがとある新設ギルドが犯人と戦闘、拘束し、多くの冒険者を怯えさせた凶悪事件は幕を出した。
これにより協会から発令された自粛を求める声明も解除された。
ダンジョンの警備や医療体制の強化は検討されるらしいが、一応は全て解決し、元通りの日常が帰ってきた……ことになっている。
表向きには。
実際には今回のことは完全に解決したわけではない。
また似たようなこと、或いはそれ以上の被害をもたらす事件が起きるかもしれない。
だがその真実を知るのはあの場にいた数人のみである。
あの事件の元凶はまだどこかにいるのだ──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「クソ……なんでテメェばかり……」
俺は倒れている夏目秀太の胸ぐらを掴んで状態を起こす。
そしてその顔に向けて思い切り拳を振り抜いた。
「理性を取り戻して最初の一言がそれか。お前は自分が何をしたのかわかっているのか⁉︎」
「何を怒ってやがる。自分より弱いやつを踏み台にした、それだけだ。何もおかしくはない、普通のことだろ?」
「普通?人を斬るのが普通だってのか?俺たちが見つけなければ死んでいた人だっているんだぞ!」
「偉そうに説教してんじゃねェ!テメェ如きの分際で俺より上に立ったつもりか⁉︎」
「黙って。それ以上喋られたら自分を抑えられる自信がないから」
意外なことに、俺よりも怒りを露わにしていたのは江莉香の方であった。
「中途半端な強さに溺れてそれを無造作に振るうだけでなく、あまつさえ欲に溺れて多くの人を傷つけた愚かな貴方如きの分際で……凰真くんをバカにしないで」
静かに、だけど燃えるように怒っている。
俺ですら感じたことのないあまりのプレッシャーに、さすがの夏目秀太も言葉を失ったようだ。
「とにかくこれ以上お前に言うことはない、協会に引き渡す。そこで然るべき罰と裁きを受けて罪を償うんだな」
これで無差別にダンジョンの冒険者を襲ってきた犯人を捉えることができた。
協会に報告すればすぐに全冒険者にこのことが通達され、またいつもの日常が帰ってくるだろう。
あとは──
「いなくってる……?」
「やられたな。我らを出し抜くとは、相変わらず気味の悪い女だ」
振り返るとダインスレイブの姿は既に無くなっていた。
誰にも気づかれないうちに逃げ出したらしい。
地面には『おもしろいヤツだ、また会おう』という文字が刻まれていた。
「コイツを差し出せば表向きには事態は収束するであろう、だが……」
「アイツがまた動くかもしれない、ってことか」
「大丈夫。少なくともウチにはまだそんな未来は見えないし、今は犯人を捕まえたことを喜ぼうよ!」
確かに桜さんの言うとおりかもしれない。
今回の主犯であった夏目秀太は捕まえることができたわけだし、今はそのことを喜ぼう。
これで一件落着、と思っていたのだが。
「今更だけど、なんで貴女が凰真くんといるの?」
「しかも我の許可なく振るわれておったな?」
「何かダメだった?ていうか二人とも久しぶり!元気してた?ウチは元気だったけど!」
翼と江莉香の二人は桜さんに冷ややかな視線を向けている。
「もしかして三人は知り合い?」
「あはは、腐れ縁ってやつかなぁ」
「不本意なことにな」
「二人とも恥ずかしがりなんだから、ウチらは昔から仲良かったっしょ?」
「仲良くない!」
二人同時にハモりながら反論する様はどうみても仲良しなのだが、突っ込むと余計に面倒なことになりそうなのでやめておこう。
「それよりも楠葉さん、貴女も星剣だったのですか?」
「手引さん⁉︎なんでここに……って、え⁉︎もしかして星剣なの⁉︎」
俺は思わず頭を抱えてしまった。
そうだった、澪葉と江莉香は互いに星剣であることを隠していたので、気づいていなかったのだ。
俺の方からもわざわざ話す必要はないかと思って説明していなかった。
「なぜ二人で一緒に転校を?もしや楠葉さんが……」
「それを言うなら手引さんだって!配信者じゃなかったの?なんでいつの間にか凰真くんと……」
結局この星剣たちのゴタゴタが収まるまで1時間近くかかった。
そして夏目秀太を協会に引き渡した結果、原因不明の凶悪事件を解決したことが想像以上に評価され、俺たちは数段飛ばしでAランクギルドとして認定されてしまったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
改めて昨日は大変だったな。
澪葉と江莉香はお互いの正体に気付いたからか、昨日までと比べて明らかに距離が近くなった。
というか近すぎて二人の間に火花が散っているように見えなくもない。
桜さんとは引き続き同じギルドで活動していくことになった。
俺を騙していたことにすごく罪悪感を覚えていたらしいが、気にしていないということを何度も伝え、今の関係を続けるということで落ち着いた。
色々と片付いたことだし、ここからはまた落ち着いた日々を過ごせるだろう。
そう思っていた矢先の出来事であった。
「来週からの修学旅行についてですが──」
「えっ、修学旅行⁉︎」
「そっか、お前転校してきたばっかで知らなかったんだな。来週から北海道に修学旅行だぞ」
今度は学校生活の一大イベントが待ち構えていた。
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