第26話 決着

「なっ、星剣が二つだと⁉︎」


 右手にはレーヴァテイン、左手にはクラウソラス。

 両の手にそれぞれ違う星剣を握り、再び戦闘態勢に入る。


『凰真クン、驚かないんだね』


「これで四度目、さすがに慣れてきましたよ」


 最近周りに実は星剣だった人がいるのが当たり前になってきた気がする。

 なんなら目の前のダインスレイブを入れると5人目、そろそろ親しい人間の友達よりも星剣の方が多くなってくるくらいだ。


「夏目秀太……星剣の二刀流の前には勝ち目はない、今すぐ抵抗をやめて自首するんだ」


「フザケルナ……なんでテメェばかり……そンなの、認められッかヨォッ!!」


 夏目秀太が剣を構えて飛びかかってくる。

 それを迎え撃とうとしたその時であった。


「なっ、これは⁉︎」


 突然脳裏に映像が浮かび上がったのだ。

 夏目秀太は落下の勢いを乗せて切り掛かってくる、と見せかけて俺の背後に降り立ち、そこから振り向きざまに首を狙ってくる。


 俺はその動きに合わせて同時に振り向き、真正面から攻撃を跳ね返す。


「今見えたのって……」


『これがウチの能力。未来を照らし出す……“未来視”の力!』


「それじゃああの時桜さんが走り出したのは……」


『うん、凰真クンに触ったあの時、急にずっと先の未来が見えたの。その未来ではこのダンジョンでたくさんの人が血を流してた』


 なるほど、本来は夏目秀太とダインスレイブはこのダンジョンで暴れ出し、また多くの冒険者が犠牲になるはずだった。

 だがクラウソラスがその未来を目撃してここにきたことで、それを未然に防ぐことができた。


 そうして代わりに俺たちが戦うことになった、というわけだ。


「みんなを守るために走り出したんですね」


『うん、やっぱりみんな笑顔が一番でしょ?まあ、それで凰真クンを巻き込んでるんじゃ本末転倒だよね』


「気にしないでください、それってすごく素敵なことだと思います……それに、俺は負けませんから」


 やはり二刀流の力は桁違いだ。

 先ほどまでと同じように斬り結んだとしても、俺の力の方が圧倒的に上。

 真正面からの戦闘ならば100%勝てる。


「クソが……調子に乗ってンじゃネェぞ!」


 そして今の俺はクラウソラスの力によって未来が見える。

 夏目秀太がどう動き、どう仕掛けようとしているのかが事前に手に取るようにわかる。

 つまり、強制的に真正面からのぶつかり合いに持っていくことができるのだ。


「もう終わりにしよう。こうなった以上既に勝負の行方は見えている」


「まだだ、マダ終わッテねェぞォ!!」


「なっ、これはっ⁉︎」


 夏目秀太を中心に凄まじい邪悪なエネルギーが溢れ出す。

 身の毛もよだつ程のそれは周囲の大気をビリビリと振るわせ、思わず後退りしそうになる。


『大変です、もはや完全にダインスレイブに支配されつつあります……』


『すごいエネルギー、ウチらの力をこんなに解放したら身体の方がもたないよ』


「じゃあこのままだとアイツが──」


『凰真クン、来るよ!』


 重心を低く落とし、獣のような姿勢のまま突進して切り掛かってくる。

 未来が見えるので避けることは容易い。

 だがそんなことお構いなしにダインスレイブを振り下ろし、ダンジョンそのものが揺れるほどの強烈な一撃を地面に叩き込んだ。


「コイツ、さっきより強くなってる……?」


『ダインスレイブ……私たちの中でも特に危険な存在だとは聞いていましたが、まさかこれほどだなんて』


『マズイね、一人でウチら二人分に匹敵する力を出してるかも』


「それだけたくさんの人を犠牲にして血を得た……そしてアイツの身体に負荷をかけているってことだよな」


「見タカ、雨宮凰真……こレが俺の力ダ……オマエがオレより上だなンテこと、ユルされねェンダよッッ」


 ゆらゆらと身体を引きずるようにこちらに向かってくるその様は、人とは思えなかった。

 目の焦点もどこかあっておらず、俺への復讐心や怒りによってすんでのところで理性を完全に手放さずに済んでいる、そんな感じだった。


「さっきから一体何が……って、ヒィ⁉︎」


「ば、化け物……」


 先ほどから続く激しい戦闘音を聞きつけて、このダンジョンにいた冒険者が集まってきた。

 マズイな、今この場にいられては──


「邪魔ヲ……すルナァ!!」


「ぐぅっ!」


 予想通り、夏目秀太は近くにいた冒険者に襲いかかった。

 未来が見えていなければ間に合わなかったかとしれない、それくらい早かった。

 そして二本の星剣を持ってなお、ほぼ互角の力を持っている。


 もはや今ここで対処するしかない、野放しにしたら想像もつかない数の人が犠牲になる。

 だが今のままでは無力化は難しい、止めるためには殺すしかないのだろうか。


「二刀に匹敵してくるなんて、一体どうすれば……」


「二刀で勝てないんだったら」


「三刀……いや、四刀で挑めば良い。そうであろう?」


「江莉香……それに翼も」


 最近ずっと別行動をしていたはずの二人がなぜかここにいた。


「どうして……」


「あれだけ星剣の力を使えば嫌でも感じるよ」

 

「あの男、確か以前も見た愚鈍か。あの女に飲まれるとは、どこまでも救えんやつだな」


「まあいっか。凰真くん、さっさと終わらせよっか?」


「我らの力も使えば容易いことであろう」


「いや、どうすりゃいいんだよ……」


 当たり前ではあるが俺は人間、腕は2本しかない。

 漫画じゃあるまいし、三本も四本も扱うなんてできないぞ。

 口に咥えればいいのか?それとも指の間に一本ずつ持てってか?


「心配いらん、我らの力は振るわずとも使える」


「そうそう、今はお守りみたいなものだと思ってて!」


 そう言いながら二人は姿を変え、俺の背中に収まった。

 それと同時にさらに身体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じる。


「これが、四本の星剣の力⁉︎」


 未来を見通す力もさらに強化されている。

 今から5秒後、夏目秀太は動き出す。

 それに合わせて俺も走り出し、両者の攻撃がぶつかり合う、その行方は──


「雨宮凰真ァァッ!!」


「今度こそ終わらせてやる!」


 夏目秀太は加速の勢いを全て乗せ、ダインスレイブを振り下ろす。

 それに対して俺が振るったのはレーヴァテインでもクラウソラスでもない。


「ぐゥ……足、ダト⁉︎」


 俺の蹴りが夏目秀太の手を捉え、ダインスレイブは行き場を失って宙を舞う。

 そして無防備になったところへ、手加減しつつも二刀の峰打を振り下ろす。


「ガハッ……」


 ダインスレイブが地面に突き刺さるのとほぼ同時に、夏目秀太も仰向けになって倒れたのであった。

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