第23話 邂逅
「凰真さん、今朝のニュースですが」
「俺も見たよ。今度はAランクダンジョンだったらしい」
さすがにこれは誰も無視できないレベルになってきた。
二日連続で事件が起きたというのも大きい、だが一番の理由はこれが『Aランクダンジョン』で起きたことにある。
昨日は明らかにダンジョンに潜っている冒険者の数は少なかった。
俺たちもCランクダンジョンにいたが、ほとんど他の人には会わなかった。
まああんなことがあった直後なのだから当然ではある。
それでもダンジョンに行った人は、ある程度腕に自信がある人と考えていい。
しかもそれがAランクダンジョンともなれば、自他ともに認める猛者たちであろう。
そんな冒険者たちが悉くやられていたそうだ。
一つ目の事件と違って、一箇所に十数人が倒れていたわけではなく、ダンジョンの各地で倒れている人が発見されたらしい。
その全員に共通するのが、胸元についた深い傷。
鋭利な何かで一撃の元にやられていた。
一応意識のあった一人と話はできたのだが、原因はわからずしまい。
モンスターか狂人か、とにかく何かがいると思った次の瞬間には倒れていたそうだ。
「俺たちが思う以上に危ないかもな。あの状況でもダンジョンに挑んだAランク冒険者が、全く手も足も出ずにやられるなんて」
「これで犠牲者は30人近くになったそうですね」
「協会もかなり事態を重くみてるようだな」
今朝、俺たち冒険者に一斉にメールが送信されていた。
その内容は極力ダンジョンに入るのは避けるようにしてほしい、という旨のものだった。
実際こうした直接の注意喚起もあれば、しばらくダンジョンから離れる人も多いだろう。
だが逆にこの状況に対抗意識のようなものを燃やし、『俺なら返り討ちにしてやれる』と意気揚々とダンジョンに挑む人がいるのも事実。
「これ以上被害が大きくならないと良いのですが」
「だけどまだ原因すらわかっていない、そんな状況で被害の拡大を食い止めるなんて……」
江莉香も今日は学校に来ておらず、翼と一緒に行動すると言っていた。
どうにも二人には心当たりがあるらしいが、それについては聞いても教えてくれなかった。
明らかに何かが起きている。
だがそれでも学校ではいつもと変わらない1日が始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここも、昨日に比べて人が減ったな」
「仕方ないですね、皆さん自粛しているのでしょう」
原因が究明され、事態が落ち着くまでは様子見。
普通ならそうするのだろう、だが俺はそうもいかない。
ダンジョンに行って素材を集めない限り、生活費が稼げないのだから。
もちろん今すぐにお金がいる、というわけではない。
それでも他の人ほど気長に待っている余裕はない、どこかで危険を承知で行くしかないのだ。
と意気込んでここまで来たは良いが、これだけの変わりようを見ると尻込みしてしまいそうになるな。
「どうしますか?急を要するのでないならば、無理に頑張る必要はないと思いますが」
「そうなんだけど、なるべく美沙にはいい生活をさせてあげたいからな」
「鳳真クン、澪葉ちゃん!」
こんな時でも桜さんは明るかった。
「今日はやっぱり雰囲気が暗いね、しょーがないかもしれないけど」
「二日続けてですからね、どうしてもそうなりますよ」
「そんな時だからこそウチらは明るくいないとね!」
桜さんの言うことは一理ある、よくないニュースがあるからって全員が暗い雰囲気でいると余計に落ち込むばかりだからな。
といってもなかなかに難しいものだ。
「鳳真クン、後ろ通るみたい」
「すみません、ありがとうございます」
桜さんは俺の手を引いて、少し自分の方へと寄せる。
適当な通路で話していたので少し邪魔になってしまったらしい。
「ここだと人も通りますし、適当にその辺に座って……って、どうかしましたか?」
「嘘……そんな……っ!」
「桜さん⁉︎」
俯きながら一人で何かを呟いていたかと思うと、突然走り出してしまった。
「澪葉、追いかけよう!」
「はい!」
俺たちも人の間をかき分けて桜さんを追う。
「桜さん、どうしたんですか!」
「大変、このままじゃまた同じことが起きちゃう!」
「同じこと?」
「ゴメン、すぐに行かないと!二人は危ないから待ってて!」
協会を出たと思ったら、桜さんはさらに加速していく。
もしかして本当は強いのを隠していたのか?
一緒にダンジョンに行った時とは比べ物にならない。
このままでは置いていかれるが、さすがに一人にすることはできない。
「澪葉!こっちに!」
「はい!」
人目を避けるために路地裏に入り込み、そこで澪葉の手を握る。
次の瞬間、澪葉はレーヴァテインへと姿を変え、同時に俺の身体能力も強化される。
「桜さんを追いかける!悪い、澪葉……力を貸してくれ!」
『わかりました。何があっても私が凰真さんを守ります!』
澪葉の力があれば十分についていける。
そうして桜さんを追いかけて、追いついた時には俺たちはとあるダンジョンの中にいた。
「桜さん、本当にどうしたんですか⁉︎」
「ウソ、ここまでついてきたの⁉︎」
まさか俺たちが追いつくとは思っていなかったらしく、目を見開いている。
「それよりそろそろ説明してください。ここってSランクダンジョンですよね?」
「うん、そうだよ。そして今日はここで……って、危ない!」
「ハッ⁉︎」
桜さんが叫んだのとほぼ同時に、背後から恐ろしい気配を感じた。
俺は思わず振り向きざまにレーヴァテインを振るったが、その一撃は何者かによって止められる。
「へぇ、誰かいると思ったらアンタだったか」
「君は!」
俺に襲いかかってきた人物の正体、それは昨日協会にいた時に突然話しかけてきたあの少女であった。
「気をつけて、凰真クン!その人が今回の事件の犯人!」
「なっ、じゃあこの人がたくさんの人を!」
「そうさ、そしてアンタらも今からその一人になるンだぜ?」
まさか俺が出会ってしまうとは。
だがどうして桜さんは犯人だと気づいたんだろうか、それにここに来るまでの行動もこの犯人を見つけるためのもののように思える。
まだ理解が追いつかない、だが何よりも聞きたいことが一つ。
「君は何者なんだ……」
彼女は素手で俺に襲いかかり、俺はそれに対してレーヴァテインで対抗した。
にも関わらず彼女の手には傷一つないのだ。
もちろん身体強化魔法を使っていたということも考えられる、だが俺の勘はそうではないと告げているのだ。
そしてこの悪い予感は見事に的中してしまった。
「そうだな、冥土の土産に教えてやるよ。アタシは
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