第24話 事件の真相

「ダインスレイブ……」


 今まで考えたことがないわけではなかった。

 こうしてたくさんの星剣に出会う中で、いつしかそれと敵対する可能性を。

 だが実際にその時を迎えて、俺の身体はひどく震え出した。


 今まで星剣の力を借り、誰よりも近くでその力を目の当たりにしてきたからこそ思うのだ。

 本当に勝てるのか、と。


『大丈夫です、凰真さん。私がついています』


「……そうだな、頼む」


『ただ、十分に気をつけてください。ダインスレイブ、彼女は危険な相手です』


「知っているのか?」


『ええ、話には……』


「ナニお喋りしてんだよ、アタシも混ぜろよ!」


 彼女が大きく手を振るうと、地面が5つの線によって分断される。

 どうやらその指一つ一つがこの世の何よりも鋭利な刃物のような切れ味をしているらしい。

 もしも喰らってしまったら、俺も事件の犠牲者の一つに数えられてしまうだろう。


『彼女は絶剣ダインスレイブ、俗に言う魔剣と呼ばれるものの一つです。一度目覚めたら最後、満足するまで生き血を求め、血を吸うごとに強くなると言われています』


「なんだよそれ、怖すぎるだろ」


 何でよりによって初めて戦う星剣がそんなヤバいやつになってしまったんだ。

 まだ金銭を求めているとかなら何とかなったかもしれないが、相手の狙いは俺の血液、となると戦いは避けられない。


「アンタが持ってるそれも星剣だろ?ヒヒッ、ホントにオモシレー奴だ。ほら、とっとアタシを楽しませてみろ!」


 いくらレーヴァテインのおかげで強化されているとはいえ、相手も星剣。

 今までの戦いに比べるとこちらの優位性はかなり小さい。


『凰真さん、私の力を解放してください!』


「でも、それをしたら……」


『出し惜しみをして勝てる相手ではありません。それに、向こうはこちらを殺す気ですよ!』


「どうした、そんなモンじゃねーだろ⁉︎」


 ハッキリ言って防戦一方だ。

 だけど澪葉の言う通り、手加減をしている場合ではない。

 それにこの場には桜さんもいる、彼女を守るためにもやられるわけにはいかない。


「わかった。いくぞ!」


 あらゆるものを破壊に導くレーヴァテインの斬撃は、あらゆるものの分子の結合を切断する。

 対象を文字通り粒子にして分解する、絶対の一撃。

 さすがにヤバさを感じ取ったのか、ダインスレイブもこの一撃は受けようとすらせずに大きく避けた。


「ヒューッ、イカれた力を持ってやがるな」


「俺は君を殺したいわけじゃない、だからどうか大人しく捕まってくれ」


「なんだ、もうアタシに勝った気でいるのか?」


「そうじゃない。でもこの一撃は手加減ができない、だからあまり使いたくはない」


「へぇ、それじゃ試してみろよ、ホントにそれでアタシを倒せるのかさ!」


 警告の意味も込めて振るった一撃だったのだが、抑止力にはなり得なかったらしい。

 とはいえこれが当たれば終わりの必殺の一撃であることには変わりない、向こうも不用意に近づくことはできなくなったはず。


 ならば今度はこちらから攻め込む番だ。

 

「いいねェ、ようやくやる気になったか⁉︎」


『凰真さん、力の使いすぎには気をつけてください。確かにあれは強力ではありますが、負担も大きいですし連発できるものでもありません』


 能力を使わずに普通に斬りかかれば、ダインスレイブもその腕で受け止めてくる。

 普通に仕掛けるだけでは倒すのは難しい、やはり重要なのはこの強力な能力を効果的に使うこと。


「おっと、ソイツだけは喰らうわけにはいかないな」


 当てれば一撃で倒せるかもしれないが、向こうもそう簡単に喰らってはくれないだろう。

 ならば避けざるを得ない、という特性を利用して無理やりに態勢を崩しにいく。


 レーヴァテインを両手で握ってまっすぐ振り下ろすと、ダインスレイブは背後に距離を取ってそれをかわした。

 それでいい、これは当てるために放ったのではない。

 真の狙いはここからだ。


「なっ⁉︎目眩しか!」


 レーヴァテインの刃先が地面に触れた瞬間、硬い大地が一瞬のうちに分解されて砂嵐が巻き起こる。

 さらに足元に巨大な蟻地獄が形成され、着地と同時にダインスレイブの足が取られる。


「テメェ、こっちが狙いか!」


「コイツを喰らいな!」


「ガ……ァッ!」


 能力なしの全力の一撃。

 いかに星剣といえど、隙ができたところにこれを叩き込まれれば無事では済まない。

 ダインスレイブはその場に片膝をついた。


「これ以上は戦っても無駄だ、大人しく自首して罪を償ってくれ」


「へへっ、ホントオモシレーな。自分を殺しにきたやつにそんなんで良いのか?」


「それで誰も傷つかずに済むならそれに越したことはないだろ?」


「なるほどねェ。でもな、人間はみんなアンタみたいにできたヤツばかりじゃねぇ……いや、むしろ傲慢で愚かなヤツばかりだ……なぁ、そうだろ?」


 その時、ダンジョンの奥からまた新たな人影が一つ現れた。

 それを見た瞬間、俺の脳は思考を停止してしまった。

 一体どうなっているんだ、そんなの信じられない、だが受け入れるしかない。


「さすがにアタシ一人じゃ分が悪いからな、こっからは同じ条件でやらせてもらうぜ?」


「ようやく会えたな、雨宮凰真」


 ダインスレイブの身体が淡い光に包まれる。

 そして気がつけば現れた男の手の中に握られていた。

 この時俺はようやく理解した、最悪の真実を。


「ようやくだ……俺はあの日からずっとこの時を待っていた、テメェに復讐を果たすこの瞬間をよ!」


「全部……全部お前がやったっていうのか⁉︎夏目秀太!」


 これまでの事件はダインスレイブとそれを目覚めさせ所有者となった男、夏目秀太が起こしていたものだったのだ。

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