第22話 不穏な空気

 協会に行くと、なんとなく空気がピリついているのを感じた。

 昨日のことはすでに広まっているらしい。

 協会側はモンスターと愉快犯、両方の可能性を視野に入れながら調査を進めており、続報が待たれる。


「16:30集合だったよな……大丈夫かな、桜さん」


 昼休みにスマホを確認したところ、今日の夕方にできれば話がしたい、という旨の桜さんからの返信があった。

 特に予定はなかったし、直接顔を合わせた方が説明もしやすいと思って待ち合わせの約束をしたのだが、既に予定の時間は過ぎている。


「その方は勝手に行動をしそうなタイプだったんですか?」


「うーん、どうだろう。でも考えるより先に動くタイプって感じだったし無いとは言い切れないかも」


 ちなみに一人ではなく澪葉といる。

 少なくとも不穏なことが起きているのは間違いない、そんな中で一人で行動するのは危ないから、と一緒に来たのだ。

 翼と江莉香は別に調べたいことがあるらしく、別行動となっている。


「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくる」


「前までついて行きましょうか?」


「いいよ、子どもじゃあるまいし……」


 そこまでしてもらうのはさすがに恥ずかしいので一人で向かう。

 その道中。


「アンタ、気をつけたほうがいいぜ」


 三白眼の鋭い目つきをした女性が突然声をかけてきた。


「貴女は?」


「アタシの名前なんざナンだってイイだろ?それよりアンタ、一体何やったんだ?随分ヤベーもんに取り憑かれてるみてぇだが」


「取り憑かれてる?俺が?」


「ヒヒッ、無自覚かよ。オモシレーヤツだな」


 冗談で俺を揶揄っているようには見えない。

 だがどういうことなんだ、本当に取り憑かれているような自覚なんてないのに。


「あと1,2週間ってところか?」


「一体何の話をしてるんだ」

 

「直にわかる、その時を楽しみにしておくンだな、そうすりゃ──」


「おい、何してんだ。行くぞ、大戸おおど玲音れいん


「チッ、タイミングの悪いヤツ……まあいい、アンタとまた会えるのを楽しみにしてるよ」


 そうしてその女性は連れの男性に名前を呼ばれ、人混みの中へと消えてしまった。

 結局意味深な言葉だけを残し、それ以上のことは何も教えてくれなかった。


 そしてどうしてだろう、さっきの声、どこかで聞いたことがあるような無いような……


「何考えてんだ俺、気のせいに決まってんだろ……はぁ、やっぱ俺も過敏になってるのかな」


 気になりはするのだが、気にしていても仕方がない。

 俺はさっさとお手洗いを済ませて澪葉の元に戻った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「遅かったですね、心配でそろそろ探しに行こうかと思っておりました」


「ごめん、ちょっと混んでたんだ」


「そうですか、確かに人も多いので無理もありませんね」


 どうしようかとも思ったが、さっきのことは黙っておくことにした。

 特にわざわざ報告する必要もないだろう。


「ごめん、凰真クン!お待たせー」


 そうしてるとちょうど桜さんがやってきた。

 よかった、何か変なことに巻き込まれたわけではなかったらしい。


「いやー、人が多くて多くて」


「そうですね、やはり昨日の影響だそうです」


「あれ、そっちの子は?」


「初めまして、手引澪葉と申します。凰真さんと同じ学校に通っている、Aランクの冒険者です」


「うそ、Aランク⁉︎凰真クンやるじゃん、早速新しいメンバーを見つけてきたんだ!」


「いや、そういうわけじゃ……」


 こんな時でも桜さんはいつも通りだった。

 澪葉はあくまで俺が心配でついてきただけなのに、すっかりギルドの勧誘をしてきたものだと思い込んでいる。


「さあさあ、早速登録に行こー!」


「え、いや……私は……」


 そして澪葉も俺のようにその勢いに押され、気がつけば受付の前に立っている。

 そしてそのままギルド加入の申請まで終わらせていた。


「イェイ、これで三人だね!」


「なんかごめん、澪葉」


「いえ、特にこだわりはなかったので構いませんが……」


「それじゃあメンバーが三人に増えたことだし、さっそくダンジョンに行こっか!」


「えっ⁉︎」


 俺と澪葉はほぼ同時に、同じ反応をした。


「本気で言ってるんですか?あんな事件が起きたばっかりなのに」


「まだ原因も不明と聞いております。そんな中、不用意にダンジョンに潜るのは危険かと」


「だからこそ行くんじゃん。みんな原因も分かってなくて怖がってるんでしょ?なら私たちが何とかしてあげないと!」


 桜さんはさも当然のことのようにそう言った。

 なるほど、どうして俺がこの人に流されたのか少し分かった気がする。

 彼女の明るさは俺たちの進む道まで照らしてくれる、どうすればいいかを教えてくれる、そんな気がするのだ。


「ですが原因がわからない以上、最大限の警戒は必要です」


「もちろん、何かあったらすぐに戻るよ。安全が一番だからね!それに、私たちが無事に帰ったほうがみんなも安心するでしょ⁉︎」


 ダンジョンに行って無事に帰る、今はそれだけでも大きな意味があるのかもしれない。

 それに万が一、何かあったとしても澪葉がいれば大丈夫なはずだ。


「わかりました、それじゃあ行きましょう!」


 こうして俺たち三人はとあるCランクダンジョンに挑んだ。





 結論から言うと、俺たちは何事もなく無事に帰還できた。

 モンスターもランク相応のものしか現れなかったし、不自然な出来事にも遭遇していない。

 普通にある程度モンスターを倒し、その素材を拾い集めて帰ってきた。


 そして次の日の朝のニュースで知った。




 昨日に続き再び似たような事件が起きたことを。


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